244話「アイドルフェスと屋台」

「「うおぉぉぉー!!」」


 会場に鳴り響く歓声――。

 それぞれのアイドル、そしてそれぞれのファンによる、言わば歌声と応援合戦のように盛り上がる会場。

 口々に名前を叫ぶ掛け声に応えるステージ上のアイドルの子達は、みんなキラキラと輝いて見えた。


 ――凄いな、これがアイドルフェス……。


 その熱気に若干圧倒されつつも、俺達も歌って踊るステージを一緒に楽しんだ。

 周囲はファンの人で埋まっているものの、まさかこんなところに元エンジェルガールズのしおりんがいるなんて誰も思わないのだろう。

 幸いここにしーちゃんがいることに、周囲の人達は誰も気付いてはいないようだった。



「ねぇたっくん! この子達もみんな可愛いね!」


 その結果、それをいいことにしーちゃんは全力でこのフェスを楽しんでいた。

 一部では伝説的アイドルとまで言われているしーちゃん。

 それが、普通に一般客に混ざって楽しんでいるというそのアンバランスさが少し面白くもあり、そんなしーちゃんの笑みに引っ張られる形で俺も自然と笑みが零れてしまうのであった。


 こうして四人で一緒に二組のアイドルのステージを一頻り楽しんだところで、まだSSSの登場まで暫くあるしちょっと休憩がてら出店エリアへ向かうことにした。



「たっくん、ずっと気になってたんだけどあれは何かな?」


 しーちゃんの指さす先にあるのは、トルネードポテトの出店だった。

 思えばしーちゃんは去年の花火大会の日初めて出店を巡ったぐらいのため、こういう変わり種の出店は初めてなのだろう。

 屋台には、串に刺さった渦状のポテトがいくつか並べられており、それをしーちゃんは興味深そうに眺めていた。



「お嬢ちゃん、おひとついかがかな?」

「えっと、これはジャガイモですよね?」

「そうだよ。なんだい、見るのは初めてかい?」

「はい、面白い形ですね! ねぇたっくん、一緒に食べよ?」


 瞳をキラキラと輝かせながら、一緒に食べようとお願いしてくるしーちゃん。

 そんな子供みたいにワクワクとした感じでお願いされてしまっては、もう俺に断るなんて選択肢は当然なかった。

 こうして仲良く二つポテトを購入すると、それからちょっと外れにある空きスペースを見つけた俺達は、そこで少し休憩することにした。

 ちなみに孝之と清水さんはたこ焼きを買っており、清水さんはその買ったたこ焼きをつまようじに一つ刺してしーちゃんに差し出す。



「紫音ちゃんも、たこ焼き食べる?」

「うん、じゃあ一つ貰っちゃおうかな。さくちゃんのアーンでお願いします!」


 そう言って、清水さんに向けてアーンと大きく口を開けるしーちゃんに、清水さんは楽しそうに笑っていた。

 以前だったら、しーちゃんにこんなことをされる度に清水さんは顔を赤くして恥ずかしそうにしていたものだが、今では普通に友達として笑い合いながら接しているところが微笑ましかった。

 そして、小ぶりなたこ焼きを一口で口の中に含んだしーちゃんはというと、どうやらまだ熱かったようでホフホフしながら慌てていた。

 そんな姿も可愛いなと笑っていると、隣に座る孝之に肩をトントンと叩かれる。



「卓也も食べたいよな! ほら、アーン!」

「……いや、孝之お前、今のしーちゃん見てやってるだろ」

「おいおい、人聞きが悪いなぁ! それに、三枝さんだけ熱いのはかわいそうだろ?」


 そんな謎理論を押し付けられた俺は、仕方なく口元へ近付けられたそのたこ焼きを一口で口に含む。

 しかし、思った以上にそのたこ焼きは激熱で、俺も先程のしーちゃん同様にホフホフと熱がるしかなかった。

 すると、一緒に熱がる俺を見ながらしーちゃんは、何故か熱がりながらもちょっと嬉しそうにしており、そんな二人で挙動不審になる俺達のことを見ながら孝之と清水さんは爆笑しているのであった。


 まぁそんなわけで、何とか激熱地獄を乗り切った俺は、勿論そのあと孝之にも同じ激熱のたこ焼きを一口で食べさせたのは言うまでもない――。



 ◇



 食事を終え、暫く座りながらゆっくり休憩していると、突然腕時計を見ながら立ち上がるしーちゃん。



「あ、そろそろSSSの子達の番だよ!」


 時計を見ると、たしかにタイムテーブルにある出演が次に迫っていた。

 今日初めて知り合ったとはいえ、直接会話もさせて貰ったアイドルなのだ。

 ここはしっかりと応援してあげるというのが筋というものだろう。



「たっくん! 最前列行くよ!」

「だ、大丈夫かな? 目立たない?」

「大丈夫! それに、もし何かあってもたっくんが守ってくれるでしょ?」


 ペロリと舌を出しながら、悪戯にウインクをするしーちゃん。

 そう言われてしまっては、俺も「勿論だよ」と答えるしかなかった。


 だから俺は、はぐれないようにしーちゃんの手をぎゅっと強めに握って歩き出す。



「だから、俺の傍から離れないでね」

「うん、離れません! 一生離れないよーっ!」


 するとしーちゃんは、ニコニコと嬉しそうにそのまま抱きついてくる。

 頬をスリスリと擦り付け、これがもし犬ならば尻尾をブンブンと振っていそうだ。



「これじゃ歩けないよ?」

「あと十秒! いや、二十秒で!」

「早く行かないと、SSSのステージが始まっちゃうよ?」

「そうだった! 行こうたっくん!」


 そう言ってしーちゃんは、今度は逆に繋いだ手を引っ張られる。

 そんなとにかくハイテンションなしーちゃんに、俺は思わず笑ってしまう。



「ラブラブだな」

「ラブラブね」


 背後からは、そんな孝之と清水さんの呆れた声が聞えてくる。

 しかし、そう言っている二人も手と手を繋ぎ合いながらピッタリとくっついており、全くもって人のことは言えないのであった。


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