243話「アイドルと普通の女の子」

「あ、ありがとうございましたぁ!!」

「はい、どういたしまして」


 しーちゃんにメイクを直して貰ったSSSのメンバーは、本当に嬉しそうにお礼をする。

 それはもう本当に感激しているようで、せっかくメイクを直して貰ったというのにまた涙ぐんでしまうため、慌ててしーちゃんが宥めていた。


 そしてその横では、ハピマジとSSSによるエンジェルガールズのみんなへの質問大会が行われていた。

 同じアイドルでも、普段エンジェルガールズと話せる機会など滅多にないのだろう。

 質問する彼女達の表情はキラキラしており、それはまさしくファンそのものだった。

 しかしそんなエンジェルガールズの中でも、めぐみんだけは相変わらず清水さんに夢中なようで、ずっと離れずにくっついていた。

 エンジェルガールズの上を行く清水さん、恐るべし!



「ということは、SSS、ハピマジ、それから三組挟んでわたし達の順番ってわけね」

「はい! 当然エンジェルガールズさんが大取ですよね! わたし達もステージ楽しみにしています!」

「ふふ、ありがとう。わたし達も、貴女達のステージ楽しみにしているわね」

「み、見て下さるんですかぁ! わぁ!!」


 あかりんの一言に、ハピマジもSSSもお互い手を取り合いなが喜び合う。

 そんなたった一言で、同じアイドルである彼女達をここまで喜ばせてしまう辺り、やっぱりあかりんはあかりんなのであった。



「それじゃみんな、そろそろ戻って準備するわよ」

「あーもうそんな時間。そうね、それじゃみんな頑張ってね」

「し、失礼しますぅ!」

「わたしは戻ってもう一回寝るわよ」

「にゃはは、清水さんまた今度ねー!」


 そして、北川さんの一言でエンジェルガールズのみんなは準備のため楽屋から出て行った。

 その結果、本来はエンジェルガールズだったしーちゃんだけが楽屋へ残る形となり、彼女達全員の視線が一斉にしーちゃんに向けられる。



「――ちなみに、今日はしおりんさんはステージには……」

「上がらないよ」

「で、ですよねぇー」


 即答するしーちゃんに、残念そうにするアイドルの子達。

 こんな風に同じアイドルでも期待してしまう程、やはりしーちゃんもまた特別な存在であることを意味していた。

 そしてしーちゃんはしーちゃんで、まるで見せつけるかのように嬉しそうに俺の腕に抱きついてくる。

 それはもう、自分はアイドルではなく普通の女の子であることを示しているようで、だから俺もそんなしーちゃんに微笑み返す。



「相変わらずお熱いことで。それじゃ、俺達もそろそろ会場へ行くとしますか」

「お熱いってなんだよ」

「言葉通りだっての! ほら、いいから行くぞ卓也!」


 孝之にガッツリ肩を組まれた俺は、そのまま一緒に楽屋をあとにする。

 そんなじゃれ合う俺達を見ながら、しーちゃんと清水さんの二人は楽しそうに笑い合っていた。


 こうして、何だかあっという間だったけれど、俺達は初めてのアイドル楽屋訪問を終えたのであった。



 ◇



 会場へ到着すると、既にライブは始まっていた。

 ステージ上でパワフルに歌って踊るアイドル達に、熱狂するその大勢のファン達。

 まだ時間は早いにもかかわらず、既に会場は大盛り上がりだった。



「すげー熱気だなぁ」

「た、孝くん離れないでね」

「ん? あったり前だろ、ほら、手」

「うん、ありがと」


 余りの熱狂っぷりに尻込みする清水さんと、ごく自然に手を取り合う孝之。

 そんな風に手を取り合いながら、顔を突き合わせて微笑み合う二人の姿は、見ているだけで微笑ましかった。

 あの一件以来更に距離の縮まった二人は、もう誰にも付け入る隙なんてないほどお似合いだった。



「た、たっくんっ!」


 そんなことを思っていると、隣のしーちゃんから急に名前を呼ばれる。

 振り向くと、そこには物凄く何か訴えてくるような顔をしたしーちゃんの姿があった。

 それが一体何なのか……なんてことは言わない。

 俺はしーちゃんの彼氏で、しーちゃんは俺の彼女なのだ。

 だから彼氏として、自分の彼女が何を言いたいのかぐらい分かっているつもりだ。



「行こっか」


 だから俺は、その一言と共にしーちゃんの手を取る。

 するとしーちゃんは、それはもう嬉しそうに笑みを浮かべながら繋いだ手をぎゅっと握り返してくる。

 どうやら正解だったみたいだ。



「さすがたっくん!」

「どういたしまして」

「えへへ、離さないでいてね」


 嬉しそうに腕に抱きついてくるしーちゃんに引っ張られる形で、俺達も孝之達のあとを追う。

 こうして、このGW一番のイベントであるアイドルフェスがいよいよ始まったのであった。


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