237話「夕飯と家族」
「わたしね、驚かせてやろうと思うんだよねっ!」
キッチンに立ったしーちゃんは、そう言って腕まくりをしながら意気込む。
鼻息をフンスと鳴らしながら、それはもう完全にやる気満々といった感じだった。
「実はね、大根さんを使い切る献立を寝ながら考えていたのですっ!」
「あはは、それは凄いね」
「そう! 凄いんですっ!」
そんな馬鹿なと思いつつも、ここはそう豪語するしーちゃんに合わせて俺は笑う。
こうして、寝ながら考えたというしーちゃんの夜ご飯クッキングがスタートとなった。
俺はしーちゃんに言われる通り、野菜の皮剥きやカットを担当し、しーちゃんは味付けや調理を担当する。
こうやって分担していると、あれよあれよと料理が完成していく。
そんな手際の良さに、俺は隣でちょっと感動すら覚えてしまう。
――もししーちゃんがお嫁さんなら、やっぱり幸せだろうなぁ。
なんて、思わずそんな妄想をしてしまう程度には、髪をゴムでアップにまとめて、エプロン姿で手際よく料理をするしーちゃんはとにかく魅力的だった。
「よし! たっくん、次はたっくんのお家芸の出番だよ!」
「お、お家芸?」
俺が首を傾げていると、しーちゃんはニッコリと微笑みながらある調理器具を手渡してくる。
――すりおろし器……なるほど。
昼に続いて、どうやら俺は夜も大根おろしを大量生産しなければならないようだ。
「今度は四人だから、お昼の時ぐらい下ろしちゃっていいからねっ!」
「うん、分かったよ」
――ほう? ならばよかろう、この封印される右腕を開放する時が来た!
……なんて、昼に一度解放したばかりだっけなと思いながら、俺は指示通り大根おろし摩り下ろしマシーンとなった。
昼にコツは掴んでいるため、本当に摩り下ろすのが上手くなっている自分にちょっと笑えてきてしまった。
「うん、いいかな! Limeでもうすぐ帰ってくるって連絡あったから、もうテーブルに並べちゃおっか!」
「分かったよ。しーちゃんの手料理だもん、きっと喜んでくれるね」
「えへへ、実はもう、こんな感じなのです」
そう言ってしーちゃんは、嬉しそうに微笑みながら自分のスマホの画面を見せてくる。
その画面には、しーちゃんの家族Limeのやり取りが表示されており、しーちゃんが一言メッセージを送るのに対して、ご両親からのメッセージはその5倍ぐらい返ってきているのがとても微笑ましかった。
ご両親とも、娘が手料理を作って帰りを待ってくれていることがよっぽど嬉しいのだろう。
それはもう、子供のように喜んでいる感じで、何て言うかこれだけ見たらどっちが親か分からないぐらいだった。
でもそれは、それだけ嬉しいということの表れなのだ。
まだ子供のいない自分でも、そんなご両親の気持ちは分かる気がした。
だから俺も、一応サポートを頑張らせて頂いた分、喜んでくれたらいいなと思う。
このGW、家族水入らずで楽しんで貰っても良かったかなと思いつつも、今俺はこうしてお邪魔させて頂いている以上、俺も一緒に楽しませて頂くのが多分正解なのだ。
そんなことを考えつつ、しーちゃんと一緒に早く帰ってこないかなとワクワクしている自分がいるのであった。
◇
「「ただいまー!」」
玄関の方から、二つの声が聞こえてくる。
その声から、それがしーちゃんのご両親だと分かった俺は、しーちゃんの背中を優しくポンと押す。
そんな俺に、しーちゃんはニッコリと微笑むと、行ってくるねと嬉しそうに玄関へと駆けていった。
それからしーちゃんに連れられてリビングへ帰ってきたご両親は、スーツから着替えることも後回しにして、並べられたしーちゃんの手料理を見て嬉しそうに微笑む。
「紫音、また料理上手くなったんじゃないか……?」
「うん、一人暮らしも板について来たからね!」
「そうか、うん、そうだな……」
「えへへ、でもね? 今日はいつも以上に頑張ったんだよ? お仕事頑張ってるパパとママに、喜んで欲しいなって思って」
少し恥ずかしそうに微笑みながら、いつも以上に頑張ったことを告げるしーちゃん。
そんなしーちゃんの言葉に、ご両親とも少し目元を潤ませる。
――良かったね、しーちゃん。
そんなご家族のやり取りを見ながら、一緒に目元が緩んできてしまう自分がいるのであった。
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