238話「卒業アルバム」
「喜んでくれて良かったね」
「うん、大成功!」
晩御飯を済ませ、俺はしーちゃんと一緒に洗い物をしている。
ご飯を食べている時、ご両親は本当に嬉しそうにご飯を食べてくれており、そんな風に喜んでくれたことにしーちゃんは満足そうに微笑んでいた。
「たっくんが、こうして手伝ってくれたおかげだよ」
「俺は別に、大したことしてないから」
「ううん、そんなことないよ。いつもありがとうね」
そう言って、嬉しそうに微笑むしーちゃん。
だから俺は、もう変に謙遜するのはやめて、代わりにこちらこそありがとうと笑い合った。
こんな風に、特別なことはないけれど、しーちゃんとこうして一日一緒に過ごしていられる時間が、俺の中では十分過ぎるほど特別だった。
大好きな彼女が、隣で天使のような微笑みを自分に向けて来てくれているだけで、何よりも幸せを感じてしまうのだ。
そんな幸せを感じつつ洗い物を済ませると、それからまた今日もしーちゃんのお父さんと一緒にお風呂を頂くことになった。
お風呂に入りながら、お父さんから今日のご飯が嬉しかったという話を沢山聞かせて貰えたのは、俺も嬉しかった。
そして、入れ替わりでしーちゃんがお風呂へ向かったため、俺はしーちゃんの部屋で帰りを待つこととなった。
とは言っても、一人ではすることも特にないため、とりあえずスマホをいじりながらしーちゃんの帰りを待つことにした。
それから暫くして、俺はトイレへ行きたくなり立ち上がる。
静かな部屋の中、昨日はここにエンジェルガールズのみんながいたんだよなと思うと、何とも言えない変な感じがしてくる。
そして明日は、そんなエンジェルガールズも出演するアイドルフェスへ行くため、今日は早めに休まないとなと思いつつも、昼寝をしてしまったため寝るにはまだちょっと早かった。
そんなことを考えながら、トイレから部屋へと戻ってきた俺は、なんとなく部屋を眺めているとあるものの存在に気が付く。
――あれは、卒業アルバム?
勉強机の棚のところに、厚めのアルバムが立てかけられているのに気付いた。
勝手に見るのは不味いかなと思いつつも、卒業アルバムぐらい大丈夫だよなと俺はそのアルバムを手にした。
そして、アルバムの中からしーちゃんの姿を探すと、一目でしーちゃんだと分かる写真を見つけた。
――そっか、この頃からもうしーちゃんは『しおりん』だったんだね。
眼鏡を外し、髪型も今のようなミディアムボブに切り揃えており、一人だけ明らかに美しいその姿に俺は納得する。
きっとこの頃から、周囲から注目の的だったんだろうなぁと思いながらページを捲っていると、俺はある写真に気が付く。
それは、卒業時のものではなく、それよりも前の学年時の写真だった。
何故それが前のものだと分かったのかと言えば、そこには俺のよく知っている昔のしーちゃんの姿が写っていたからだ。
眼鏡をかけた、おさげの女の子。
その姿はまさしく、俺のよく知っているしーちゃんの姿だった。
こうして見比べてみても、この子が同一人物だなんてやっぱり思えなかった。
それは容姿の話というより、何て言うか纏っている雰囲気がそう思わせるのだ。
よく見れば、やっぱり美少女なことには変わりはないのだが、眼鏡をかけているしーちゃんは控えめな感じで、ぱっと見で目立つような感じではなかった。
「あー、たっくん! 卒アル見てるのぉ?」
すると、お風呂から上がってきたしーちゃんが部屋へと戻ってきた。
すぐにこちらへ駆け寄って来ると、隣にくっつくように一緒に卒業アルバムを覗き込む。
そんなしーちゃんからは、お風呂上がりの石鹸の良い香りがしてきて、俺はそれだけでドキドキさせられてしまう。
「ごめん、することなくて勝手に見ちゃってた」
「ううん、それは別に良いんだけど……あ、この写真」
そう言ってしーちゃんは、俺の見ていた自分の昔の姿の写真を見ながら笑う。
「この年の夏休みに、たっくんと出会ったんだよね」
「やっぱりそうだったんだ」
「うん、懐かしいなぁ」
言葉通り、懐かしそうに微笑むしーちゃんの言葉に、俺もそうだねと一緒に微笑む。
するとしーちゃんは、いきなりその顔をぐいっと俺の顔へと近付けてくる。
「もしかしてたっくんは、こういう大人しい感じの方が好きだったりするの?」
「え? 何、いきなり」
「だってたっくんは、その……この頃のわたしのこと、えっと、好きだったんだよ、ね……?」
上目遣いで、ほんのりと頬を赤らめながらそんなことを聞いてくるしーちゃん。
その仕草に、俺のドキドキは更に加速する。
「まぁ、それはそうだけど……」
「じゃあやっぱり!」
俺の言葉に、ショックを受けるしーちゃん。
それから昔の自分の姿を思い出すように、アルバムに写る昔の自分の姿を食い入るように見るしーちゃんは、実家でも挙動不審だった。
だから俺は、そんなしーちゃんのことを背中から優しく抱きしめる。
「あの時、しーちゃんのことを好きだったのは本当だよ。でも今の俺は、今のしーちゃんにもう一度恋をしてるんだよ。だから、しーちゃんは今のままで十分過ぎるほど可愛いと思ってるよ」
「……たっくん」
俺の言葉に、振り向いたしーちゃんはとろんと蕩けるような表情を向けてくる。
そして、くるりとこちらに身体を向けると、そのままぷっくりと潤んだその可愛い唇を、俺の唇にそっと重ねてきた――。
「……もう、なんでかなぁ」
「なんでって?」
「……いつもたっくんは、わたしの欲しい言葉を教えてくれるんだもん」
「そうかな?」
「そうだよ……大好き」
嬉しそうに、俺に正面から抱きついてくるしーちゃん。
だから俺も、そんなしーちゃんのことを優しく抱きしめ返した。
欲しい言葉を教えてくれるという表現に、ちょっぴり恥ずかしさを感じつつ――。
「明日はフェスだから、早めに寝ないとね」
「うん、でももうちょっと、このままでいたいかな」
「――俺も同じこと思ってた」
顔と顔を突き合わせながら、相思相愛だねと笑い合う。
それからもう一度キスを交わすと、眠たくなるまで二人きりの時間をゆっくりと楽しむことにした――。
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