236話「うたた寝」

 ふと、目が覚める――。

 窓の外へ目を向けると、綺麗なオレンジ色の夕陽が差し込んでいた。

 時計を見ると六時を回っており、夏が近付くにつれて高くなった日も、すっかり沈みかけていた。


 隣では、スヤスヤとした寝息を立てるしーちゃんの姿があった。

 こちらへ寄り添うように、その身をくっつけながら幸せそうに眠るしーちゃんの寝顔を、俺はそのまま暫く堪能させて貰うことにした。


 そう、結局俺達はあのあと、トランプで遊んだあとそのまま一緒に眠ってしまったのであった。

 ポカポカとした日差しと膝枕、すっかりご満悦になったしーちゃんは、そのままウトウトと眠たそうにしていたから、俺はちゃんと眠れるようにベッドで横にならせてあげたのだ。

 するとしーちゃんは、眠たそうな目をしながらも離れたくないというように、俺の服の裾をぎゅっと握ってきた。

 そしてそのまま、一緒に寝たいというしーちゃんのお願いを聞く形で、結局そのまま二人仲良く並んで眠ってしまったのであった。

 そんなことを思い出した俺は、今も隣で幸せそうに眠るしーちゃんのほっぺたを、優しくプニプニとつついてみた。


 まるでマシュマロのように、一切のくすみのない透き通るような白い肌。

 そんな、誰しもが憧れる美少女の無垢な寝顔を、俺は今隣で独り占めしている。


 そんな状況に、俺は今になっても優越感みたいなものを感じずにはいられない。

 だから俺は、別に急いで起こす必要もないだろうと、気持ち良さそうに眠るしーちゃんをもう暫く寝かせてあげることにした。



「……うぅん、たっくぅん……」


 それからどれぐらい時間が経っただろうか。

 しーちゃんは、甘えるような寝言を口にする。


 そんなところもやっぱり可愛いなと、俺は自然と笑みが零れてしまう。



「……ううん……そっちは右ぃ……」


 ――右?


 一体どんな夢を見ているのだろうか。

 謎の寝言を呟くしーちゃんは、眠っていても持ち前の可愛さを発揮してくる。



「……うん……右で合ってたぁ……」


 そしてどうやら、その夢の中では右で合っていたようだ。

 それがどんな夢なのかやっぱり気になりつつ、俺は謎の深まるしーちゃんの寝言を前に笑いを堪えるので必死なのであった。



 ◇



 それからどれぐらい時間が経っただろうか。

 窓の外はすっかりと陽が落ち、部屋の中は暗くになっていた。

 俺はすぐ隣にしーちゃんがいてくれるという安心感を感じなから、することもないためスマホで漫画を読んでいる。



「……んぁ……たっくん?」

「ああ、起きた? おはようしーちゃん」

「ごめん……もう夜だね……」


 そして、ようやく目を覚ますしーちゃん。

 俺のスマホが眩しかったのか、まだ眠たそうに目を擦りつつも、すぐ隣で俺が一緒に横になっていることが嬉しかったのか、それからニッコリと微笑んでくっついてきた。



「夜ご飯の支度しなくちゃ……」

「そうだね、手伝うよ」

「うん……でももうちょっとだけ、こうしてたいな……」


 そう言って顔を近付けてきたしーちゃんは、そっと俺の頬にキスをしてくれた。

 そして、そのまま頭をくっつける形てま、一緒に俺のスマホの画面をのぞき込んでくる。



「これ、面白いの?」

「うん、まぁね。ファンタジーものだけど、しーちゃんはどうかな?」

「たっくんが好きなものなら、きっとわたしも好きだよ」


 なんだろう、その言葉に、どこかのガキ大将が頭を過る。

 それはあまりにも脳死過ぎないだろうかと思いつつも、きっとしーちゃんの言いたいことはそういう許容の意味ではないのだろう。


 俺が好きなものなら、自分も知りたい。

 そういう前向きな気持ちを言ってくれているのだ。



「じゃあ、しーちゃんも今度一巻から読んでみてよ」


 だから俺も、何も言わずこの漫画をしーちゃんにオススメすることにした。

 それがしーちゃんの望んだことであるのと同時に、俺も望んでいることだから。

 好きなものを共有できることは、素直に嬉しいに決まっている。



「うん、そうするね、えへへ」


 そして俺の言葉に、しーちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そんな些細なやり取りでも、こうしてお互いに通じ合えていると思えることが、愛おしくて堪らないのであった――。


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