235話「真剣勝負」
「たっくん、ゲームをしよう」
お昼ごはんを食べ終えた俺達は、しーちゃんの部屋へ移動して一緒にのんびり過ごしていたのだが、突然しーちゃんからそんな提案をされる。
ちなみにさっき食べた昼食なのだが、今日買った大きな大根で大量の大根おろしを作って、豚しゃぶをおろしポン酢で頂いた。
大根おろし係に任命された俺は、それはもう一心不乱に大根をおろし続けたのだが、その結果大量の大根おろしを生み出してしまったのである。
でもそれが功を奏した……というわけでもないが、さっぱりと美味しく頂くことが出来たので結果オーライだったということにしておこう。
「ゲーム?」
「うん、大根おろしゲーム」
「……いや、それは本当ごめん」
「あはは、冗談だよ! テレビゲームはたっくんには敵わないから、トランプ!」
そう言ってしーちゃんは、昔使っていたのであろう勉強机の引き出しからトランプを取り出した。
しかし、トランプと言っても二人だと遊べるゲームに限りがある。
ババ抜きや大富豪なんかは、二人でやっても多分あまり面白くはなさそうだから。
「神経衰弱やろう!」
「あー、なるほど。うん、いいよ」
「やった! じゃあ負けた方は罰ゲーム!」
「罰ゲーム?」
「そう! 勝った方は、負けた方を三十分膝枕しないといけません! いい? これは真剣勝負だよ!」
やる気に満ち溢れた顔で、罰ゲームを提案してくるしーちゃん。
しかし残念ながら、それはどっちに転んでも正直ご褒美なだけな気がするのは、全くもって気のせいじゃないだろう。
それでもしーちゃんは、既にやる気満々な様子で腕まくりまでしているので、ここはもう何も言わないでおくことにした。
こうして、あまり多くても仕方ないからとトランプの中から十組のセットを作ると、それをシャッフルして床に並べた。
「どっちから行く?」
「しーちゃんからいいよ」
「分かった! じゃ、いくよ!」
やる気満々といった様子のしーちゃんは、早速カードをめくる。
しかし、初手は当然のごとくハズレ。
だから俺は、今しーちゃんの捲った数字と位置を覚えて他のカードをめくる。
そして当然のように、俺もハズレ。
こうしてあっという間に一巡したため、二巡目へと突入する。
「あ! 三だ!!」
しーちゃんが一枚目に捲ったのは、三だった。
三なら、一回目にしーちゃんが二枚目でめくっているため、ここはしーちゃんに先制を許してしまったなと俺は三を諦める。
「あれ、八だ? 間違えちゃった!」
しかし、ここでしーちゃんはまさかの痛恨のミスを犯す。
二枚目のカードでなく、勘違いして一枚目のカードをめくってしまったのだ。
――やっぱりしーちゃんって、ゲーム全般苦手なのかな。
そんなところも、ちょっと可愛いなと思えてきてしまう。
しかし、ここは真剣勝負。
俺はたった今しーちゃんの間違えた三の組み合わせを頂くと、そのまま連続して更に二組合わせることに成功した。
その結果、俺が三組に対してしーちゃんはゼロ組。
残りは七組のため、既に俺が大分有利な状況となった。
しかし、一度めくれているカードも増えているため、まだ逆転も十分可能だろう。
「たっくんやるね。でも、負けないよ! ここだぁ!」
増々やる気が増した様子のしーちゃんは、気合を入れてまだめくっていないカードを捲る。
しかし、残念ながらそれは未だ一回も捲れていないエースだった。
「ここだ!!」
しかし、それでも諦めないしーちゃんは、勢いよく他のめくれていないカードを捲るも、残念ながらまたしてもハズレだった。
「……ごめんね、しーちゃん」
その結果、俺はもうほぼほぼめくれているため順にカードを回収すると、最期に二択も当てて全てのカードを取ってしまったのであった。
つまりは、結果は俺が十組に対して、しーちゃんはなんとゼロ組という結果に終わってしまったのである。
流石にこの結果は……と思いもしたが、しーちゃんから真剣勝負を望んできたのだ。
この勝負、変な同情で手を抜くわけにはいかなかった。
「……わたしの負け」
「あはは、ごめんねしーちゃん」
「もう、じゃあたっくん。お願いします」
しかししーちゃんは、もっと悔しがるのかと思ったのだが、そう言って立ち上がるとベッドの方を指さす。
――ああ、そっか。罰ゲームか。
俺が勝者で、しーちゃんが敗者。
つまり、俺がしーちゃんに膝枕――いや、違うな。
さっきしーちゃんは、勝った方が負けた方を膝枕すると言ってた気が……。
あれ? でも、普通逆だよなと思いながらしーちゃんの方を向くと、そこにはしたり顔で微笑んでいるしーちゃんの姿があった。
「はやく! 勝ったたっくんが、わたしを膝枕出来るのです!」
「……なるほどね、そういうことか」
「へっへっへ、今更気付いても遅いのだよ」
やっぱりしたり顔で微笑むしーちゃん。
要するにしーちゃんは、初めからこうすることが目的で勝負を仕掛けてきて、そしてわざと負けたのである。
そんな無駄に策士なしーちゃんに、俺は思わず笑ってしまいながらも仕方なくベッドに腰掛ける。
「はい、じゃあ敗者は横になってくださいね」
「はーい! 失礼しまーす!」
嬉しそうに返事をしたしーちゃんは、それから「失礼します」と言いながらそっと俺の太ももに自分の頭を置く。
「あ~、たっくんの温もりぃ~」
そして、謎の言葉を発しながら本当に満足そうな笑みを浮かべるしーちゃん。
そんな風に無邪気に喜ぶしーちゃんの姿に、俺も何とも言えないほっこりとした気分にさせられてしまう。
だから俺も、しーちゃんのその絹糸のようにふわふわとした髪を優しく撫でながら、このゆっくりとした時間を堪能することにした。
窓から差し込む暖かい日差しは、しーちゃんのその白い顔を優しく照らし、キラキラと輝いて見える様はさながら天使のようであった――。
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