234話「スーパー」
「ごめんね、たっくん。そろそろお昼にしよっか」
ずびびっと泣き止んだしーちゃんは、そう言って切り替えるように立ち上がると、冷蔵庫の確認しなくちゃねとキッチンへ向かう。
時計を見ると十一時を少し回っており、まだ昼食には少し早いと思いつつも、そんなしーちゃんに合わせて俺も一緒にキッチンへと向かった。
「んー、あんまり食材ないかも」
冷蔵庫の中身を確認しながら、しーちゃんは困った様子で呟く。
たしかに仕事で忙しいご両親だから、あまり食材を常備していないのかもしれない。
「よし! それならもう、買いに行くしかないよね」
そう言ってしーちゃんは、楽しそうにニッコリと微笑みかけてくる。
だから俺も、そうだねと微笑み返す。
別にそれなら外食をしても良かったのだが、なんとなく俺も、今日はここで二人きりで一緒にお昼を済ませたい気分だった。
それはきっと、しーちゃんも同じなのだろう。
久々に実家へ帰ってきているのだ、きっと実家でゆっくり過ごしたいに違いない。
こうして俺達は、それから身支度を簡単に整えると、一緒に近所にあるスーパーまで買い出しへ行くことにしたのであった。
◇
「わ、たっくん見て見てっ! この大根すっごく大きいねっ!」
近所のスーパーへやってきた俺達は、ショッピングカートを押しながら一緒に買い物を始める。
こうして一緒に買い物をしているだけでも、しーちゃんはとにかく楽しそうだった。
今日の特売品として並べられている大きな大根を見つけると、しゃがみ込みながら楽しそうにその大根を観察するしーちゃん。
何て言うか、こんな風に買い物をしているとまるで夫婦になったような感覚がしてくるというか、ただ買い物をしているだけなのに、しーちゃんと同じく楽しくなってしまっている自分がいた。
「本当だね、こんなに大きいの初めてみたかも」
「だよね! じゃ、この大根さん一つ買って行こっか」
俺もその大きさに笑って答えると、しーちゃんはその中でも一番大きな大根を選んで買い物カゴへ入れる。
正直に言えば、二人でこれ一本丸々は食べ切れないんじゃないかなと思いつつも、楽しそうなしーちゃんを見ていたらまぁいっかという気がしてきた。
俺が残さず全部食べればいいだけだ。
「煮物とサラダにしちゃいましょう!」
「お、いいね美味しそう」
「うん! パパとママもきっと喜んでくれると思うんだ」
――ああ、そっか。
どうやらしーちゃんは、ご両親の分の夜ご飯も作って待っているつもりのようだ。
家族三人に、俺も入れて四人。
それであれば、確かにこの大きな大根でも消費できるだろう。
こんな風に、ご両親の分まで考えながら、楽しそうに買い物をするしーちゃんを見ていると、俺は何とも言えない嬉しさが込み上げてくる。
このGW、目一杯ご両親と一緒に過ごす時間を楽しんでくれたら嬉しいなと思いながら――。
「あ、たっくんあのじゃがいも! すごいゴツゴツしてるよ!」
そしてしーちゃんは、別のお野菜へと引き寄せられていく。
だから俺は、そんな無邪気なしーちゃんと色々と会話を楽しみながら、今日のお昼、そして晩御飯の献立を一緒に考えながら買い物をするこの時間は、とても充実しているのであった。
それから鮮魚コーナー、精肉コーナー、そしてお惣菜と回って色々とカゴに食材を入れると、レジでお会計を済ませる。
ちなみにその間も、勿論しーちゃんはずっと楽しそうにしていた。
そんな楽しそうなしーちゃんの姿に、他のお客さんからの視線が若干集まっていた気もするけれど、ここでもやっぱりしーちゃんは周囲の視線なんて気にすることはなかった。
それよりも俺との買い物を楽しむように、ずっとニコニコと微笑んでいるしーちゃんを見ていられるだけで、一緒に楽しくて仕方がなくなっている自分がいるのであった。
こうして、大き目の袋三つ分と、なんやかんや沢山買い込んでしまった俺達は、ゆっくりと歩きながら来た道を戻る。
「あー楽しかった。スーパーってワクワクするね」
「そうだね、おかげでいっぱい買っちゃったしね」
「うん、ごめんね二つも袋持って貰っちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。彼氏として、ここは頑張らせて頂きます!」
謝るしーちゃんに、俺は気にしないで大丈夫だからと少しお道化て返事をする。
「あはは、そうだね! たっくんかっこいいー! あはは!」
「しーちゃんそれ、本心で言ってないよね?」
「そんなことないよーだ! あははは!」
俺がお道化たのがそんなに可笑しかったのか、そう言ってしーちゃんはずっと可笑しそうに笑ってくれた。
そんな風に、楽しそうに笑うしーちゃんに引っ張られるように、俺も一緒になって笑ってしまう。
「あー笑った! ――うん、たっくんは本当にかっこいいよ」
そしてしーちゃんは、散々笑って満足したのか、今度はおふざけすることなくしっかりと俺の目を見つめながらそう言ってくれた。
「こうしてると、何だか夫婦になったみたいだね――」
そしてしーちゃんは、頬を赤く染めながら、そう言って少し恥ずかしそうに微笑んでくれるのであった――。
その姿はやっぱり可愛くて、美して、そして何よりも愛おしくて――俺はそんなしーちゃんのことが、やっぱり大好きだなと今日も実感させられるのであった――。
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