233話「テレビ番組」
「あ、そろそろかなーっと」
そう言ってしーちゃんは、リビングのテレビの電源を入れる。
そして大きな画面に映るのは、人気ワイドショー番組だった。
俺も小さい頃からよく親と一緒に観ていた、昔から続いているご長寿番組だ。
これを観たかったのかな? なんて思いつつも、そんなワイドショー番組を特に気にすることもなく暫く観ていると、突然司会の人がここでサプライズがあると言いながら、これ見よがしにゲストを紹介をする。
『今日はなんと、スペシャルゲストが来てくれてます! どうぞぉ!』
その声に合わせて、舞台端から元気よく登場してきたのはエンジェルガールズの四人。
そう、なんとちょっと前まで一緒にこの家で過ごしていた彼女達が、今ではテレビの向こう側でスペシャルゲストとして登場してきたのである。
そのことを聞かされていなかった俺は、驚いてしーちゃんの方を振り向く。
するとしーちゃんは、まるでテレビの向こうの司会者の人と同じように、これ見よがしな笑みを浮かべていた。
「たっくん、ビックリした?」
「――したよ、さっきまで一緒にいたのが嘘みたいだよ」
「あはは、本当だね!」
俺の言葉が可笑しかったのか、目の端に涙を溜めつつコロコロと楽しそうに笑い出すしーちゃん。
そんなしーちゃんは、以前は彼女達と同じエンジェルガールズの一員として、本来ならばテレビの向こう側にいた存在。
けれど今は、アイドル衣装ではなく緩い部屋着をその身に纏い、こうして俺の隣で一緒にテレビを観て笑っていることに対して、俺は何とも言えない感情が込み上げてくる。
それは、感謝であったり、喜びであったり、それから優越感であったり様々な感情だ――。
しーちゃんと一緒にいるだけで、俺はこんな一つ一つの出来事に対して、こんなにも様々な感情を抱かされてしまうことが何だか可笑しくなってきて、最終的には俺も一緒になって笑ってしまうのであった。
『それで、今日はどうして来てくれたんだっけ?』
『はい! 今日はわたし達エンジェルガールズの新曲が発売されるので、その宣伝のためだけにここへわざわざ来ましたぁ!』
『めっちゃはっきり言うやん!? えぇ!? まぁでも、今日も素直でよろしい! それで今日は、勿論その新曲を歌っていってくれるでしょ?』
『勿論です!』
『よっしゃ! では早速、エンジェルガールズのみなさんで『友へ』です! どうぞぉー!』
司会者とあかりんの、即興コントのようなやり取りのあと曲のイントロが流れ出す。
そして、それと同時にアイドルモードのスイッチを入れた彼女達は、さっきは家でふにゃふにゃだったのが嘘のように完璧な振り付けでダンスを踊り出す。
『これから何年経ったって、ずっと仲間で、ずっと友達だからね――』
そして、そんな歌詞から歌が始まる。
あの頃と今、別々の道を歩む友のために歌われるその歌詞は、エンジェルガールズのみんなからしーちゃんへ向けて歌われているのだというのが伝わってくる。
それは勿論、しーちゃんも気が付いているのだろう。
最初は俺を驚かすためにテレビを点けたしーちゃんだったけれど、この歌のことまではどうやら聞かされてはいなかったのだろう。
両手で口元を抑えながら、テレビを真っすぐに見つめながら彼女達の歌声に耳を傾けていた。
そして、歌詞を通じて伝わってくる彼女達の思いが嬉しいのだろう。
その瞳には、たっぷりと涙が溜まっているのであった――。
だから俺は、何も言わずその歌を隣で一緒に聴いた。
いつも気にしてるんだよ、たまには顔を見せてよね、ずっと大好きだよ――。
彼女達一人一人の言葉で、しーちゃんへとメッセージを送るように歌われるその曲は、隣で聴いている俺まで感慨深いものがあった。
そして曲が終えるまで、しーちゃんはそんな歌詞の一つ一つに嬉しそうに応えるように微笑みながら、涙を流すのであった――。
『ありがとう! エンジェルガールズで『友へ』でしたー! ……この歌は、あれだよね? しおりんに向けた歌ってことだよね?』
『はい、そうです。しおりん――ううん、紫音に向けて、わたし達一人一人が歌詞を書いたんです』
『なるほどなぁ、いや、ちょっとこう、ジーンとくるものがあったよ。きっとしおりんにも届いていると思いますよ!』
『ええ、そうですね! 今頃きっと、テレビの向こうで見てくれているはずなので』
そう言ってあかりんは、カメラ目線でニッコリと微笑む。
その表情はまるで、ドッキリ大成功と言いたげな表情だった。
だからこれが、やっぱりしーちゃんへ向けられたサプライズであったことが伝わってくる。
「本当に、もう……バカ……」
そんなあかりんに、しーちゃんは泣きながらも微笑む。
「うん、ちゃんと見てたからね……」
こうして、エンジェルガールズのみんなからのサプライズは、見事大成功に終わったのであった。
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