231話「起床とお仕事」
――ドンッ!
謎の衝撃と共に、俺は目が覚める。
――な、なんだ?
寝起きの目を擦りながら、俺はお腹の辺りに生じた衝撃の原因を確認する。
するとそこには、何故か布団の上から俺にクロスするように倒れ込むしーちゃんの姿があった。
「し、しーちゃん?」
「あぅ……おはようたっきゅん……」
寝ぼけているのか、ふにゃふにゃ声のしーちゃん。
恐らくは、一度先に起きたものの、すぐに力尽きてまた倒れ込んでしまったのだろう……。
そして、そのせいか着ているパジャマの背中の部分がペロリと捲れてしまっており、しーちゃんのその健康的な白い肌が露わになってしまっていることに気が付く――。
「――たっくんのエッチ」
すると、まるでそんな俺の心境を見透かすように、部屋へと戻ってきたあかりんに揶揄われてしまう。
慌てて俺は目を逸らすも、それが可笑しかったのかあかりんはクスクスと笑っていた。
「さ、みんなも起きないと収録間に合わないよー。二時間後にマネージャーさん呼んだから、さっさと支度する!」
一体いつ起きたのか、既に身支度を済ませているあかりんは、手をパンパンと叩きながら他の三人を起こす。
「ええ……もう朝ぁ……?」
「うう……まだ眠たいですぅ……」
そんなあかりんの声に、めぐみんとちぃちぃが目を覚ます。
しかし二人共まだ眠そうで、しーちゃん同様ふにゃふにゃしていた。
そして案の定、誰よりも寝ていたいみやみやに至っては、全く起きる気配も見せなかった。
「みやみや?」
そんな、全く起きる気配のないみやみやに、あかりんが再び声をかける。
しかしその声色は、先程のみんなを起こす感じとは異なり、聞こえているんでしょと諭すような言い方だった。
「――あと一時間」
「ダーメ」
「――じゃあ、あと一時間半」
「なんで増えるのよ? ほら、いいから起きるっ!」
粘ろうとするみやみやの布団を、無理矢理剥がすあかりん。
そんな容赦のないあかりんに、観念したみやみやはようやく上半身を起こした。
こうして、しっかり者のあかりんのおかげで目を覚ました彼女達は、それから仲良く洗面台へと向かって行った。
しかし、未だ俺とクロスするように横たわるしーちゃんだけは、再び一人夢の中へと旅立ってしまっているのであった。
◇
「急に押しかけてしまい、すいませんでした」
「いいのよ、またいつでもいらっしゃい」
「みんな、気をつけてな」
マネージャーさんが迎えに来たことで、仕事へと向かうエンジェルガールズのみんな。
しーちゃんのご両親、そして結局まだパジャマ姿のままの俺としーちゃんは、そんな彼女達を玄関のところで見送る。
「ありがとうございます! さ、みんな今日も頑張っていくよ!」
「「はーい」」
あかりんの言葉に、まだ眠たそうに返事をする三人。
「それじゃ、紫音。また会いましょう」
「うん、いってらっしゃーい」
「……何だかあれね、こうして紫音に仕事へ向かうのを見送られるっていうのも、変な感じがするわね」
そう言って笑うあかりんにつられて、他の三人も確かにと笑う。
「あ、そうだ! わたしも今度のフェス行くから、また近々会えるね」
「え、そうなの?」
「うん、みやみやには電話で話してあったけど」
そんなしーちゃんの言葉に、みやみやへと視線が集まる。
するとみやみやは、胸を張るようにドヤ顔を浮かべながら口を開く。
「ごめん、忘れてたわ!!」
「――あー、はいはい、分かったわ。それじゃ紫音、チケットいるでしょ? 今マネージャーさんに貰ってくるわよ」
「あ、ううん。もう持ってるから大丈夫だよ」
「え、どうやって手に入れたの?」
「ふふん! 実はうちの学校の後輩ちゃんが、同じステージに上がるのだっ!」
首を傾げるあかりんに向かって、しーちゃんはまるで自分のことのように自慢する。
そんなしーちゃんの言葉に、みやみや以外の三人は驚く。
「え、なんてグループ?」
「ハピマジだよ! ハピマジのリンリンを、よろしくぅ!」
「あー、ハピマジか……分かったわ。見かけたら挨拶させて貰うわ」
「よろしい!」
「――あんたは何様よ、もう」
パジャマ姿のままなのに、まるでプロデューサー気取りなしーちゃんが可笑しくて、再び笑いが起きる。
「それじゃ、そろそろ行くわ。またね!」
こうして、あかりん達エンジェルガールズは車へ乗り込むと、そのまま仕事へと向かって行った。
車が見えなくなるまで見送った俺達は、再びしーちゃんの実家の中へと戻る。
「――行っちゃったね」
「そうだね、寂しい?」
「うん、ちょっとね……。でもそれ以上に、わたしはたっくんとGW過ごせるのが嬉しいよ!」
そう言って、嬉しそうに抱きついてくるしーちゃん。
それは俺も同じ気持ちだったから、そんなしーちゃんの、まだ寝ぐせの残るふわふわとした頭を優しく撫でてあげる。
「明後日、また会えるしね!」
「そうだね」
「だから、今日は一緒にのんびり過ごそうね!」
「うん、分かったよ」
こうして、俺達は俺達のペースで、今日はしーちゃんの実家でゆっくりさせて貰うことにしたのであった――。
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