227話「選択」

「じゃあ、次はわたしから質問させてもらうわね」


 しーちゃんの話がひと段落したところで、今度はあかりんから質問があるようだ。

 別に質問されるのはこの際構わないが、その表情は確実に何かを企んでいる様子なのが気になる。

 そんなあかりんに、今度は何を言われるのかと俺は得体の知れない不安に襲われる――。



「――仮に、の話よ?」

「う、うん」

「仮に、紫音がいないとして――たっくんは、わたし達の中だったら誰と付き合いたい?」


 あかりんから放たれたその言葉に、俺は驚いて固まってしまう――。

 それってつまり、言葉通りしーちゃん以外のこの四人の中から、誰が良いか選べということだろうか――。


 他の三人も、その答えには興味津々といった様子でじっとこちらを見つめてくる。

 そんな、国民的アイドル達から向けられる視線を受け、俺はこの場をどう切り抜けるべきか思考を巡らす――。


 しかし、考えたところでこの場で最適な答えなんて出てくることはなかった。

 そのうえ、四人からはこの場で適当な回答は絶対に許さないというような、無言の圧まで感じられるのであった。


 ――素直に答えれば、いいのか。


 唯一思い付いた答え。

 やはりそれしかないのではないかと思った俺は、一度素直に考えてみることにした。

 まぁ、これは所詮彼女達のただの余興なのだ、肩の力を抜いてみようじゃないか。


 まずは、あかりん。

 彼女はエンジェルガールズのリーダーで、側にいてくれるだけで安心感のあるしっかり者だ。

 それはきっと、常に落ち着いていて、判断力もあり、安心して頼れる感じは流石リーダーといった感じだ。


 では、女の子としてはどうか。

 しーちゃんより少し背は低いものの、そのキリッとして整った顔立ちはまごうことなき美少女だ。

 こんな子が、もし自分の彼女だとしたら――うん、きっと完璧だろうなと思う。

 だから、彼女にしたいと言われれば、それはやっぱりあかりんなのかもしれないと思った。


 次に、めぐみん。

 彼女はいつも元気ハツラツといった感じで、一緒にいるだけで楽しくなって自然とこっちまで笑顔にさせられてしまうような女の子だ。

 そんなめぐみんと言えば、小柄でショートヘアーの良く似合う美少女であり、その容姿をタイプの違うあかりんと比べるなんてことは出来るはずもなかった。


 だから俺は、一旦保留して次にその隣に座るちぃちぃへ視線を移す。

 彼女は引っ込み思案で小動物のような可愛らしさがあり、エンジェルガールズでは妹担当というだけあって、守ってあげたくなるような愛らしい魅力に溢れていた。

 そんなちぃちぃは、この話題に興味はありつつも、少し恥ずかしさと不安さを滲ませているその表情は、はっきり言って俺から見てもとても可愛いと思えてしまう。

 そして、あかりんとめぐみん二人の美少女と比べると……うん、やっぱりタイプが異なるし比べることなんて出来なかった。


 そう思った俺は、最後に横になっているみやみやのことを考える。

 彼女は他の三人とは違い、美少女というよりも美女という方がしっくりくる容姿をしている。

 しーちゃん含め、エンジェルガールズの中では一番背が高く、モデルのようなプロポーションをしていることで、実際に最近はモデルの仕事も増えているようだった。


 しかし、そんな美しいみやみやは現在ぐでっと横になっており、今日初めてちゃんと接したにも関わらず、既にいくつもの干物行動を見せてくれているのであった。

 そんな、高嶺の花だけれど実は干物というギャップを見せてくれるみやみやは、意外と親近感すら感じられる不思議な女の子だ。

 そしてやっぱり、みやみやについても他の三人と比較することなんて出来るはずもなかった。


 こうして俺は、一人一人についてしっかり考えてはみたものの、結局誰が一番なのか答えなんて出せるはずがなかった。

 だがこれは、決して優柔不断というわけではないのだ。

 良い意味で、一人一人が圧倒的個性と魅力に溢れ、はっきり言って俺なんかが選ぶには勿体無さ過ぎる相手なのだ。



「そろそろ答えは出た?」


 しかし、痺れを切らすようにあかりんが答えを急かしてくる。

 他の三人も、それに合わせるように緊張の面持ちで俺の言葉を待っていた。


 だから俺は、そんな彼女達を前に一つの答えを導き出す。

 そしてその答えを、俺は四人にはっきりと告げることにした。



「うん、出たよ」

「で、答えは?」

「――一番は勿論、しーちゃんかな」


 俺の答えに、四人とも呆けた表情を浮かべる。

 それもそのはず、今のはあかりんの質問に対して、何も答えになどなっていないからだ。


 だが、それでも俺の答えはそれしかなかったのだ。

 時にしっかり者で、愛らしくて、元気に溢れたギャップに満ち溢れた女の子。


 それはまるで、先程出した四人に対する印象をひとまとめしたような特別な存在。

 それこそが、俺にとってのしーちゃんなのだ。


 そもそも、俺が好きなのはしーちゃんだけなのだ。

 そんなはっきりとした思いがあるのに、他の誰かを選ぶなんてことは出来るはずもなかった。



「――そう、分かったわ」


 俺の答えに、あかりんは諦めるようにため息を吐くと、頷いてくれた。

 ただの言い逃れではなく、しっかりと考えたうえでの答えだということが伝わったのだろう。

 だからこそ、あかりんも他のみんなも、諦めるように微笑みながら受け入れてくれているのだ――。



「結局、惚気られちゃったわね」

「あはは、本当だねー」

「そうですね、えへへ……」

「仕方ないわね」


 そう言って笑い合う彼女達の笑顔は、やっぱり俺なんかには勿体無いと思えるほど美しかった。



「ふーん、惚気るってなぁーに?」


 すると、部屋の扉が開かれると共に声がかけられる。

 驚いて全員振り向くと、そこにはお風呂上がりのしーちゃんが立っていた。



「待たせちゃ不味いかなって思って急いで入ってきたんだけど、一体何の話かなぁ?」


 本当に急いで済ませてきてくれたのだろう。

 その言葉の通り、まだ髪も半渇きのままのしーちゃん。

 その様子から、きっと自分のいない場所で何の話をされるのか気になったのだろう。

 そして案の定、いざ急いで戻ってきてみれば何だか良くない話をしていたことに、しーちゃんはニッコリと笑みを浮かべて四人に問いただすのであった。


 その無言の圧の前に、誤魔化すように笑みを浮かべるしかない国民的アイドル達。

 そんな可笑しな光景を見ながら俺は、やっぱり一番はしーちゃんだよなと改めて納得するのであった。


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