226話「尋問」
「ふー、良いお湯だったわ」
「少し逆上せちゃったかもですぅ……」
「あはは、みんなで入るのも楽しいね!」
「疲れた……横になりたい……」
あかりん、ちぃちぃ、めぐみん、そして少し遅れてみやみやが、お風呂から上がり部屋へと戻ってきた。
そして、完全に気を抜いていたのであろう四人は、同じく気を抜いていた俺達を見て固まってしまう。
何故ならば、俺の開いた足の間にしーちゃんが収まり、そして俺が後ろからそんなしーちゃんのことを抱きしめるという非常に密接した体勢を取っているからだ。
「……うん、わたしも逆上せちゃいそうだわ」
そんな俺達を見ながら、少し呆れるようにあかりんがそう呟く。
そんなあかりんの呟きに、他の三人は吹き出すように笑い出す。
「も、もうっ! 笑わないでったら!」
そんな笑い出す四人に対して、慌てて立ち上がったしーちゃんは恥ずかしそうに文句を言う。
その必死な仕草も可愛くて、当事者である俺までなんだか笑えてきてしまい、結果そんな俺にもしーちゃんが文句を言うことで更に笑いが膨らんでいく。
「じゃ、じゃあ! わたしもお風呂済ませてくるからっ、たっくんは次に入ってねっ!?」
「うん、分かったよ」
そして、顔を真っ赤にしたしーちゃんは、照れ隠しをするようにそう言って一人お風呂へと向かって行ってしまったのであった。
その結果、現役エンジェルガールズと同じ部屋にポツンと残されてしまう、一般男子高校生が一人。
「――さて、紫音もいなくなったことだし、色々聞かせて貰おうかしらね」
「お、いいねぇ! 賛成!!」
「わ、わたしもちょっと、気になりますぅ……」
「わたしは、横になる」
ニヤリと微笑むあかりんの言葉に、賛成するめぐみんとちぃちぃ。
みやみやに関しては、俺の話よりも横になる方を優先したのだが、それでもやっぱりしーちゃんの話には興味があるようで、横になりながらも顔はしっかりとこちらへと向けられていた。
こうして、一般男子高校生の俺は、あろうことか国民的アイドルに囲まれてしまったのである――。
俺を囲む四人からは、シャンプーの良い香りが湯の湿り気と共に伝わってくる。
しっとりとした肌は艶やかで美しく、目のやり場に困ってしまう――。
そんな、急に訪れたこのあり得ない状況を前に、俺はとんでもないことになったと早速後悔する。
こんなことなら、俺もしーちゃんと一緒に――ってそれは違うか。
ただ、リビングへ移動するとか色々回避策はあっただろうと後悔するが、全てはもう完全に手遅れなのであった。
――まぁ、この感じじゃ、俺を逃す気なんてそもそも無さそうだな……。
こうして観念した俺は、エンジェルガールズによる尋問を受けることとなったのであった――。
◇
「わたし、紫音がこの一年どうしてたか気になる!」
まず初めに質問してきたのは、めぐみんだった。
元気よく手を挙げると、その大きな瞳をキラキラと輝かせる。
「どうしてたって申しますと?」
「えー? それは勿論、普通の女の子としてどんな風に過ごしてたかだよぉ」
普通の女の子として、か……。
言われた通り、俺はこの一年のしーちゃんを思い返してみる。
まずは、いきなり同じクラスに国民的アイドルがいると知った時は驚いたよな。
まぁでも、俺なんかとは縁のない高嶺の花だと思って、あの頃の俺は我関せずを貫いていたんだよな……。
でも、そんなしーちゃんは何故か俺のバイトするコンビニへ現れるようになって、それから――、
「――挙動不審、だったかな」
そう、あの頃のしーちゃんと言えば、それはもうとにかく挙動不審だったのだ。
コンビニへ現れては、いつもお札を差し出してきたかと思うと、それから大切そうにお釣りを受け取っていたしーちゃんの姿が今では懐かしく思えてくる。
「ちょ、たっくん! あはは、何それ!」
すると、俺の答えが意外だったのか、吹き出すように笑い出すめぐみん。
そしてそれは、めぐみんだけでなく他の三人も同じ感想だったようだ。
「もう、何よそれ! それで? あのしっかり者の紫音が、どう挙動不審だったってわけ?」
信じられないというように、笑いを含みながら今度はあかりんが聞いてくる。
どうやら彼女達の中のしーちゃんは、しっかり者という印象が強いようで、そんな挙動不審な側面があるなんて信じられないのだろう。
だから俺は、そんな信じられないといった様子の四人に対して、あの頃のしーちゃんの挙動不審エピソードを語ってあげた。
すると、俺の話すエピソード一つ一つを、本当に楽しそうに四人は食い入るように聞いてくれたのであった。
「あー笑った。まったく、キャラ崩壊なんてレベルじゃないじゃない。――でも、うん、こんな作り話はあり得ないと思うし、きっと真実なのよね」
「うん、まぁ」
「――フフ、まぁそれだけあの紫音が、普通になろうと頑張ってたってわけよね。いいじゃない」
あかりんのその言葉に、他の三人も頷く。
その様子から、やっぱり四人ともしーちゃんのことを心配してくれていたということが伝わってくる。
だからこそ、しーちゃんの楽しくやっていけている話が聞けることが嬉しいのだろう。
そんな、彼女達の温かい気持ちが伝わってくることは、俺にとっても嬉しいことだった。
同じグループだったからってだけではなく、もっと深い部分で繋がり合っている彼女達のことが、俺はちょっぴり羨ましくさえ思えてきてしまうのであった。
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