225話「再確認」
「じゃあ、そろそろみんなはお風呂入っておいでよ」
エンジェルガールズのフルメンバーが集まった、しーちゃんの実家。
しーちゃんのお母さんの計らいで、若者だけで話もしたいでしょとしーちゃんの部屋へと移動してきた俺達は、それから暫く楽しく談笑していた。
そして、時計を見ればあっという間に夜の十時を回っていたため、しーちゃんは先に他のメンバー達をお風呂へ向かうように伝える。
「しーちゃんは一緒に行かなくていいの?」
「だって、わたしが行ったらたっくん寂しいでしょ?」
何気なくしーちゃんは良いのかなと思い声をかけると、ニコリと微笑みながらしーちゃんはその理由を教えてくれた。
その返事に俺は、少し恥ずかしくなりつつも、嬉しかったから素直にありがとうと返事をする。
「相変わらず仲がよろしいことで。じゃ、お言葉に甘えてお先にお風呂頂くことにするわ。行こう、みんな」
あかりんの言葉に、他のメンバーも従って立ち上がるとそのままお風呂へと向かって行った。
みんな着替えとかは良いのかなと思ったけれど、彼女達は超が付く程の有名人なのだ。
当然マネージャーなどもついているし、ついでに完全にノープランだったみやみやの分も含めその辺は上手いこと用意してきているようだ。
先程の会話によると、どうやら今日はみやみや以外の三人は収録が一つあっただけで、あとは事務所でくつろいでいたそうだ。
すると、突然一人オフだったみやみやから、しーちゃん家に泊まると自慢する連絡があったため、すぐさま他の三人もここへ来ることが決定したらしい。
それだけ、エンジェルガールズのメンバーのみんながしーちゃんのことを大切に思ってくれている証拠なのだろう。
こっちへ帰ってきていると聞くや否や、きっと色々と忙しいはずなのにも関わらず、こうして問答無用で駆けつけてくれているのだ。
そう思うと、そんな彼女達が笑って話をしている姿を眺めていられるだけで、俺は何だか温かい気持ちでいっぱいになってしまったのであった。
「ごめんねたっくん、わたし達の話ばっかりしちゃってて」
「ううん、そんなことないよ。みんな楽しそうで、聞いてるだけで俺も楽しかったよ」
みんながお風呂へ向かったのを見届けたしーちゃんは、それからぴったりとくっつくように隣へやってくると、申し訳無さそうに謝ってくる。
だから俺は、何も謝ることじゃないから大丈夫だよと笑って答える。
「えへへ、でもなんか不思議だなぁ。わたしもアイドル辞めて一年以上経つけど、話してるとみんなしっかり有名人なんだなぁって感じがしちゃったよ」
「あはは、しーちゃんがそれを言う?」
「だってわたしはもう、普通の女の子だもん」
何故かドヤ顔で、そう宣言するしーちゃん。
それが何だか可笑しくなって、お互い顔と顔を向き合いながら笑い合う。
そして、何故だかそんなしーちゃんの言葉に嬉しさが込み上げてくる自分がいることに気が付く。
それはきっと、本来は向こう側だったはずなのに、今ではこうして自分と同じ立場でいてくれていることが嬉しいからだろう。
手が届くわけがない高嶺の花ではなく、こうしてすぐ隣に寄り添い、自分だけの特別で大切な彼女でいてくれていること。
そのことに、俺は改めて感謝の気持ちでいっぱいになってしまう。
「ねぇ、たっくん? わたしね、今すっごく嬉しいの」
「そうだね、みんな来てくれたもんね」
しーちゃんの言葉に、俺も良かったねと笑って答える。
しかししーちゃんは、微笑みながらその首を小さく横に振る。
「えっとね、もちろんそれもあるんだけどね、それだけじゃないの。――上手く言えないんだけどね、こうしてたっくんの隣にいられることがね、何だかすっごく嬉しくなってきちゃってる自分がいるんだ」
白くて綺麗なその頬をほんのりと赤く染めながら、そう言って俺の顔を真っすぐ見てはにかむしーちゃん。
そんな、自分のことを真っすぐに見つめてくれるその眼差しに、俺の胸はドキドキと高鳴り出す。
いつだって、どんな時でも、こんな風に俺はしーちゃんにドキドキさせられてしまうのだ。
その姿は、本当に綺麗で愛らしくて、絶対に手放したくないと思ってしまう程自分にとって大切な存在。
そんなしーちゃんが、自分と同じことを思ってくれていたことがとにかく嬉しかった。
こうして、一緒にいられることに喜びを感じてくれていること。
そして何より、幼い頃に一度離れ離れになってしまった俺達だけれど、こうして再び出会うことが出来た奇跡。
そんな、色々な感情で胸がいっぱいになってしまった俺は、隣に座るしーちゃんのことを優しく抱きしめる。
「――うん、俺もさ、同じこと思ってたんだ。だから、いつもありがとう」
「――たっくん」
そして俺達は、そのままそっと優しいキスを交わすと、それから今度はお互いに強く抱きしめ合う。
これからもずっと一緒にいようねと、強く気持ちを確かめ合うように――。
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