222話「同化」

 しーちゃんの実家のリビングで、暫くテレビを観ながらのんびりと過ごしている。

 テレビでは丁度歌番組が放映されており、そしてその番組にはエンジェルガールズの姿が映し出されていた。


 俺はそんな歌って踊る国民的アイドルの姿を見ながら、そっと隣を向く。

 するとすぐ隣では、元エンジェルガールズのしおりんがニコニコと楽しそうに微笑んでおり、そしてその奥のソファーには、ふやけるように横になる現役エンジェルガールズのみやみやの姿があった。


 テレビの向こうでは、キラキラと歌って踊るみやみやの眩しい姿が映し出されているが、すぐ近くにはソファーと完全に同化するみやみやの姿があるこの状況に、俺は流石に笑ってしまう。


 エンジェルガールズでは清楚系美人枠のみやみやが、実はこんなにも干物属性だなんてきっと誰も思いはしないんじゃないだろうか。

 それ程までに、みやみやはギャップなんて言葉で片付けられるレベルじゃない二面性を持っているのであった。


 ――しーちゃんの挙動不審といい、実はエンジェルガールズってみんな個性豊かだったりする?


 なんて思ってもみたが、少なくともあかりんはしっかりしているので、変なレッテルは貼らないようにしよう。

 あとの二人のことはまだよく知らないのだが、けれど何となく残りの二人も一癖あるような気がしてならないのは、きっと気のせいじゃないだろう。



「紫音と卓也くんは泊っていくとして、雅ちゃんはご飯どうする?」

「わたしはここで、ソファーになってます~」


 ご飯の支度をしようとしてくれてるのか、しーちゃんのお母さんがみやみやに予定を確認するも、只今絶賛ソファーと同化中のみやみやは答えになっていない返事をすると、そこから動こうとはしなかった。



「まったくもう、よっこいしょっと」

「うぐっ! 重たいっ!」


 そんなみやみやを見兼ねたしーちゃんは、立ち上がるとみやみやの背中の上に座る。

 すると、みやみやは重たいと言いながらしーちゃんのお尻の下でじたばたと藻掻いていた。



「こら、レディーに対して重たいは失礼じゃないかな? それにわたしは、ソファーに座っただけだけど?」

「もう、わかった! 起き上がるからどいてよー!」


 ソファーに座って何が問題? というように、楽しそうに笑うしーちゃん。

 そしてお尻の下敷きにされたみやみやも、何も本気で重たがっているわけではなく、そう言って二人でお道化合っているのが分かった。

 きっと、アイドル時代からこんなやり取りをしてきたのだろうと思うと、仲の良いそのやり取りはとても微笑ましかった。



「で、結局みやみやはどうするの?」

「食べてくー。紫音のお母さんの手料理食べるのも、久しぶりだなぁ」

「分かりました。じゃあ、今日はお父さんは仕事で遅くなるから、四人分のご飯用意しちゃうわね」


 みやみやの返事を聞いたしーちゃんのお母さんは、そう言って台所へと向かって行った。

 こうして、今日は完全にオフなのだろうみやみやも、なんと一緒にご飯を食べて行くことになったのであった。



「はい、じゃあみやみやもお手伝いするよ」

「えー、わたしお客様じゃないのー?」

「いいから行く! あ、たっくんはここで待っててね!」

「え、俺も手伝うよ?」

「ううん、ここは女の子に任せて下さい!」


 自分の胸元をトンと叩き、任せて欲しいと言うしーちゃん。

 そしてしーちゃんは、ずっと横になっているみやみやを叩き起こすと、二人でしーちゃんのお母さんの手伝いへと向かって行ってしまった。

 その結果、手伝わなくていいと言われてしまった俺は、とりあえずお言葉に甘えてテレビをまた観ることにした。

 そんなテレビの向こう側では、キラキラとしたアイドルスマイルを浮かべるみやみやのキレイなお顔が、丁度ドアップで映し出されているのであった。



 ◇



 小一時間ぐらい経っただろうか、リビングで一人待っていると部屋の扉が開けられる。

 台所の方から戻ってきたしーちゃんとみやみやは、たった今作ってきてくれた料理をお盆に乗せて持ってきてくれた。

 大皿に盛られたキャベツと鳥の唐揚げ、そして別の容器には肉じゃがと料理が運ばれてくる。



「えっとね、こっちの唐揚げがお母さん作で、こっちの肉じゃがはわたしが作ったんだよ!」


 ニッコリと微笑みながら、料理の紹介をしてくれるしーちゃん。

 お母さんの作った唐揚げは勿論、相変わらず料理上手なしーちゃんの手料理は今日も本当に美味しそうだった。



「ありがとう、美味しそうだね」

「えへへ、ありがとたっくん!」

「こほん、ちなみにこっちのサラダはわたし作なんだけどねっ!」


 そう言って、みやみやが笑い合う俺達の間に割って入るように差し出してきたのは、一緒に運ばれてきた小鉢だった。

 小鉢の中を見ると、そこには切られたきゅうりが盛り付けられていた。



「みやみやは料理出来ないから、きゅうりの塩揉みお願いしたの」

「塩揉み?」

「そうよ! 袋に切ったきゅうりとお塩を入れて、あとは手で揉み揉みするのよ!」


 俺が聞き返すと、凄いでしょと言わんばかりにドヤ顔で答えるみやみや。

 そして胸を張るみやみやに、大変よく出来ましたと甘やかすしーちゃん。


 そんな二人のやり取りを見ていると、みやみやの方が背が高いものの完全に姉妹のように思えてきた。

 勿論、しーちゃんが姉で、みやみやが妹である。


 こうして、二人も頑張って用意してくれたご飯を一緒に頂くことになったのであった。


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