221話「サプライズゲスト」

「あ、いたいた」


 ランチを済ませ、急ぐこともないからとそのまま暫くお茶をしていると、突然声をかけてきた一人の女性。


 見ると、サラサラとした黒髪のロングヘア―に、スラリと背の高いスレンダーな体系。

 上品な白地のワンピースを着ており、見た目は良いところのお嬢様という印象だが、しーちゃんと同じく大き目のサングラスで顔を隠していており、彼女からは只者ならぬオーラが感じられた。


 それもそのはず、そこに現れたのは他でもない、エンジェルガールズの「みやみや」こと東雲雅その人だった。



「あ、きたー」

「ごめんね、遅れたわ」


 そんなみやみやを、やっと来たかというように迎えるしーちゃん。

 どうやら二人は、示し合わせたうえでここで落ち合っているようだ。


 しかし、そんなことは全く聞かされてはいなかった俺は、こうしてちゃんと対面するのは初めての現役国民的アイドルの登場に驚くしかなかった。



「あ、どうもたっくん」

「ど、どうも」


 俺の方を向いたみやみやは、店内だからとかけていたサングラスを外して挨拶をしてくれた。

 サングラスを外すと、それは確かにみやみや本人で、いつもテレビで見ていた美少女がそこにいることに戸惑いつつも、俺は何とか返事をした。



「あはは、そんなに緊張しなくっても大丈夫だよ。今日は宜しくね」

「え? よ、宜しくって?」

「あれ? 聞いてないの?」


 そう言って、どういうこととしーちゃんの方を向くみやみや。

 どうやらみやみやも、俺が何も聞かされていないとは思わなかったようだ。

 するとしーちゃんは、さもドッキリ大成功とでも言いたげなしたり顔で俺の方を見てくる。



「えへへ、黙っててごめんね? たっくん驚くかなぁと思って。今日はたまたまオフだったみたいだから、それならわたしもこっちに来るから集まろうって話になりまして」

「な、なるほど……」

「もう、こういうことはちゃんと説明しておかないと駄目でしょ。ごめんねたっくん?」


 謝るみやみやに続いて、ごめんなさいと頭を下げるしーちゃん。

 とりあえず理由は分かったし、別に謝ることでもないから大丈夫と返事はするものの、やっぱりいきなりのトップアイドルの合流に落ち着くはずもなかった。


 でも、こうして二人は久々に会うことが出来ているわけで、だったらあとは楽しんで貰いたいと思った俺は気持ちを切り替える。



「事情は分かったよ。それで、これからどうするの?」

「それは勿論、わたしも紫音の家に遊びに行くわ」

「え? マジですか?」

「マジです」

「よし、そうと決まれば早速行こう!」


 驚く俺に満足したのか、ニッと微笑み合う美少女二人。

 こうして見ると、二人は本当に仲が良いんだなというのが伝わってくる。


 二人共、みんなが憧れるまさしく高嶺の花の存在だけれど、こうしているとやっぱり普通の女の子だった。

 でもきっと、それは俺の知らない苦楽を共にしてきた二人だからこそ、より深く通じ合えるものもあるのだと思う。

 そう思うと、こうして再会を喜ぶ二人の姿を見られているだけでも、俺まで何だか嬉しくなってきてしまう。


 こうして喫茶店を出た俺達は、みやみやも合流していよいよしーちゃんの実家へと向かうことにした。



 ◇



 もうここからならすぐだからと、タクシーへ乗ってしーちゃんの実家への前までやってきた。

 そして先にしーちゃんが家の中へ入ると、程なくして俺達のことも招き入れてくれた。


 久々にしーちゃんの実家へやってくると、しーちゃんのお母さんが出迎えてくれた。



「あら、いらっしゃいたっくん。それから、雅ちゃんもお久しぶりね」

「お邪魔します」

「はい、お久しぶりです」


 久々に見るしーちゃんのお母さんは、今日も上品で美しく、何度見てもお母さんというよりお姉さんという感じの綺麗さだった。

 普段忙しく働いているからだろうか、知的な感じというか、雰囲気はみんなが思い描いているザ・キャリアウーマンという感じだと思う。

 恐らくうちの母親とそれ程歳は変わらないと思うのだが……うん、これ以上はやめておこう。


 みやみやもしーちゃんのお母さんとは面識があるようで、挨拶を済ませるとリビングへと案内される。

 そしてリビングへやってきたみやみやはというと、まるで吸い込まれるようにフカフカのソファーの方へ近付いたかと思うと、なんとそのままそのソファーに向かって倒れ込むようにダイブした。


 ――えっ?


 みやみやの突然の行動に驚く俺。

 しかし、しーちゃんもお母さんも、そんなみやみやのことを気にする素振りも見せず、二人で会話をしながら何かを準備しているようだった。


 ――えっと、これは?


 その結果、みやみやと二人きりでリビングに残された俺は、この場をどうして良いか分からなくなる。

 人の家に来て、いきなりソファーにダイブしたかと思うと、そのままうつ伏せで横になるという斜め上の行動に出たみやみやに対して、俺はどう接したら良いのか全く分からないのだ。



「やっぱ落ち着くわね~」


 しかしみやみやは、あくまでマイペースだった。

 一気に気が抜けた感じで、ぐでーっと横になるみやみやは、完全にそれまで抱いていた印象とは異なっていた。



「あー、そっか、たっくんは初めてだもんね」


 そこへしーちゃんが戻ってくると、少し呆れた感じで話しかけてくる。



「えっと、それはどういう……?」

「……うん、みやみやはね、その見た目からは想像も出来ないぐらい、省エネ主義でマイペースなの」

「……ちょっと紫音~、変なこと教えないでよねぇ~」


 尚も横になったまま、ふにゃふにゃと文句をいうみやみや。

 そんなぐでぐでのみやみやの振舞い、そしてしーちゃんの説明で全て合点がいった俺は、思わず笑ってしまう。


 人は見た目によらないとはよく言うが、しーちゃんの挙動不審といい、どうやらエンジェルガールズの面々はまだまだ世間に知られていない個性で溢れているのであった。


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