218話「GW前日」

 次の日。

 いつも通りしーちゃんと共に登校していると、そんな俺達を見かけた早乙女さんが駆け寄ってくる。


「おはようございます!」

「うん、おはよう凛子ちゃん」

「おはよう」

「えへへ、あっ、そうだ! これどうぞ! みなさんの分のチケットです!」


 朝からしーちゃんと出会えたのが嬉しいようで、何ともふやけた笑みを浮かべる早乙女さんは、慌てて鞄からチケットを取り出して差し出してくる。



「これは?」

「あ、今度のフェスのチケットです! お友達の分も合わせて四枚ありますので、貰って下さい!」

「そっか、じゃあ遠慮なく頂くね。ありがとう凛子ちゃん」

「いえ! ……ってよくよく考えたら、三枝先輩なら普通にエンジェルガールズのみなさんから貰えましたよね。すみません出しゃばっちゃって……」

「ううん、そんなことないよ。凛子ちゃんから貰えて嬉しいよ」


 そう言って、ニッコリとしーちゃんが微笑むと、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる早乙女さん。

 そんなアイドル二人の微笑みを間近で見ることが出来た俺は、今日も朝から幸先が良いななんて思っていると、最早当然のように道行く他の生徒達からも二人は注目をされているのが分かった。


 そんな、今日も朝から人の視線を釘付けにしてしまう特別な二人は、我が校の文字通りアイドルなのであった。



「さくちゃん達にも聞いてみないとだね」

「そうだね」

「楽しみだなぁ」


 貰ったチケットを眺めながら、ルンルンとした様子で微笑むしーちゃん。

 そして、そんな風にしーちゃんが楽しみにしてくれていることが嬉しいのだろう、やはり早乙女さんも隣でニコニコと微笑んでいるのであった。


 チケットをよく見ると、どうやらそのフェスはGW中にあるようで、GWと言えばしーちゃん家へお邪魔する約束をしているけど大丈夫かなと思ったが、しーちゃん本人が行く気満々なようなのできっと大丈夫なのだろう。


 ――場所も都内だから、しーちゃん家からそう遠くもないのか。


 そんなわけで、元々楽しみだったGWにまた一つ新たな楽しみが加わり、いよいよ明日に迫ったGWが既に楽しみで仕方なくなってしまうのであった。



 ◇



 何事もなく、GW前の最後の授業が終了した。

 つまり、これでついに明日からGWへ突入である。


 ちなみに、早乙女さんから貰ったチケットを孝之と清水さんへ渡したところ、その日なら行けると二人も乗り気になってくれたため、無事一緒に行けることとなった。



「たっくん! 帰ろう!」


 自分達のクラスのホームルームが終わるや否や、うちのクラスへと駆け込んできたしーちゃん。

 これからGWに突入することが嬉しいと顔に書いているようで、そんなノリノリなしーちゃんの姿に俺だけでなく清水さんも笑ってしまう。



「紫音ちゃん、嬉しそうだね」

「えへへ、だって今年は、たっくんとずっと一緒だもん!」

「ずっと一緒?」

「うん! たっくんには、うちの実家に来てもらうんだぁー」


 いいでしょうと言うように、清水さんに全開で惚気るしーちゃん。

 しかし、そんな美少女二人の何気ない会話に、教室内の注目が一斉に集まってしまう。

 もう俺としーちゃんが付き合っていることは十分すぎる程浸透しているのだが、俺がしーちゃんの実家に行く話は聞き捨てならないといった感じでみんな驚いていた。

 元国民的アイドルが彼氏を実家に連れて行くというのは、みんなを驚かせるには十分過ぎる情報だったようだ。


 そんな教室内の視線に対して、いつもなら全く気にしないしーちゃんだけれど、今回ばかりはしまったというように口元を手で覆っていた。

 けれど、今更覆っても後の祭りで、みんなには俺がGWに実家へ行くということは知られてしまったのであった。


 だが、そんな時である。



「一条、頑張れよ」


 後ろの席の上田くんが、俺のことを笑って応援してくれた。

 そしてそれは、クラスの他のみんなも同様で、驚いたものの俺達のことを見守るように微笑んでくれていた。



「三枝さんの彼氏は、やっぱり一条、お前しかいないからさ」


 そして、そんなクラスのみんなを代表するように語られた上田くんの言葉に、何故みんながそんな反応をしているのかが分かった。

 だから俺は、そんな有難い上田くんに対して、少し気恥ずかしくなりながらも笑って頷いた。



「ああ、ありがとう」


 そんな俺と上田くんのやり取りに、しーちゃんも恥ずかしそうに微笑んでいた。

 こうして、クラスのみんなから応援される形で一件落着? したところで、今度は勢いよく教室内に駆け込んでくる生徒が一人。



「あ、まだいた! 三枝先輩!」


 駆け込んできたのは、一年生の早乙女さんだった。

 そんな彼女は、言わずと知れたハピマジというグループに属する現役のアイドル。


 そんな現役アイドルと、元国民的アイドルがこんな何でもないただの教室にいる状況は、周囲を驚かせるのにはやっぱり十分過ぎるのであった。



「どうしたの? 凛子ちゃん」

「あ、いえ、今度のフェスのこととかでお話したいことがありましたので。その、わたしも途中までご一緒していいでしょうか?」

「うん、わたしはいいけど、たっくんもいいかな?」

「勿論、大丈夫だよ」


 必死な様子でお願いしてくる早乙女さん。

 きっと、今回丁度良い名目があるのを良いことに、きっと本心はしーちゃんとただ一緒に帰りたいのだろう。


 だから俺は、笑って大丈夫だよと返事をすると、早乙女さんは両手を挙げて無邪気に喜ぶ。

 こうして、今日は登下校共にアイドル二人とご一緒することとなったのであった。


 一年前じゃ全く考えられなかった状況だけれど、それでもしーちゃんは楽しそうに隣で微笑んでくれているし、一緒に歩きながら早乙女さんも嬉しそうに話をしてくれたおかげで、楽しく下校することが出来たのであった。


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