217話「何気ないいつもの日常」

 今日も一日、授業を受け終えた俺はしーちゃんと一緒に下校する。


 ちなみに孝之と清水さんは、一緒に部活へと向かって行った。

 聞くところによると、どうやらバスケ部内では今一年生を中心に清水さん人気は日々熱が高まってきているようで、そんな清水さんと孝之が無事に仲直りしたことに喜んでいる人も少なくないのだとか。


 勿論、清水さんは孝之の彼女だということはみんな重々承知をしているのだが、それでも部活を通して、清水さんのような美少女と接点を持てていることが嬉しいらしい。

 それは同じ男として何となく気持ちは分かるし、清水さん効果のせいか、はたまた孝之の快進撃のおかげか、近頃のバスケ部の戦績もかなり良くなっているらしいから素晴らしいことだ。


 まぁそんなわけで、無事仲直りした二人を見送った俺としーちゃんは、今日も今日とて一緒に下校しているのであった。



「あ、ごめんたっくん、電話だ」

「電話? うん、出ていいよ」


 申し訳無さそうに電話に出るしーちゃん。

 一体誰からなのだろうと思っていたが、会話を聞いていたらそれがエンジェルガールズのメンバーからの電話であることが分かった。



「久しぶりー! 元気だった?」

「うんうん、その話は聞いてるよ」

「え? あーそれはね、同じフェスに同じ学校の子が出るんだよ」

「そうそう、その子が今のわたしの推しなんだー」

「あはは、もう、めぐめぐも好きだよ」

「うん、分かった。あはは、じゃあまたね、はーい」


 そんな会話から察するに、きっと今の電話はエンジェルガールズのめぐめぐこと橘萌美からだろう。

 しーちゃんも久しぶりだったのか、リラックスして楽しそうに友達と会話をしているところを見ていると、何だか嬉しくなってきてしまう。



「ごめんねたっくん、めぐめぐからの電話だったよ」

「そっか、良かったね」

「うん、久しぶりだったから嬉しかった」


 言葉通り嬉しそうに、ニコニコと微笑むしーちゃん。

 国民的アイドルが、一体何をプライベートで話していたのか少し気になるところだが、まぁ女の子同士の会話の内容を聞くのも野暮に思えたため、俺は聞かないでおいた。


 こうして、またいつも通り帰り道をしーちゃんと共に歩く。

 しかし先程の電話のせいか、俺は改めてそんな特別な存在であるしーちゃんとこうしていられることが嬉しくなってきてしまう。

 もうこんなことを思うのは何回目か分からないが、それでもきっとまだまだ足りないのだと思う。


 それだけ、やっぱり俺にとってしーちゃんという存在は特別だから。

 ふと隣を見ると、今日も嬉しそうに繋いだ手をブンブンと振りながら、ニコニコと微笑んでいるしーちゃんの姿がある。

 そんな姿が見られること、そして、繋いだ手と手を通じて温もりも感じていられることに、俺は改めて感謝をしながら今日も大好きな彼女の隣を歩くのであった。



「あ、そうだたっくん!」

「ん? どうした?」

「えっとね、もうちょっとしたらGWでしょ?」

「うん、そうだね」

「それでね、今年はパパとママもお仕事休めそうだって言うから、実家に帰ろうと思うんだ」


 そう言って微笑むしーちゃんの言葉に、俺も笑みを浮かべる。

 一緒にGWを過ごせないのは寂しいけれど、普段一人暮らしをしているしーちゃんがご両親と一緒に過ごせる機会があるのであれば、それは是非そちらを優先して欲しかった。

 だから俺は、「分かったよ」とすぐに返事をしながら微笑んだ。

 家族水入らずで、楽しんでおいでという気持ちになりながら。



「……あ、それでねたっくん。お母さんがね、良ければたっくんと一緒に帰っていらっしゃいって言うの」

「え? 俺も?」

「……無理、かな?」


 しーちゃんも、俺が本当に来れるとは思っていないのだろう。

 やっぱり駄目だよねというように困り顔で笑うしーちゃん。

 しかしその顔には、俺と一緒に過ごしたかったという気持ちが顔に書いてあるようで、そんな姿を見せられてしまってはもう、俺はここでノーとは言えるはずもなかった。



「えっと、多分バイトが入ると思うんだよね」

「そうだよね……」

「だから、うん、シフト外して貰うよ」

「え?」

「今の内からお願いすれば、何とかしてくれると思うから大丈夫だと思う。だから――」


 そう言って俺は、驚くしーちゃんに言葉を続ける。



「GWも一緒に過ごしたかったから、嬉しいよ」


 微笑みかけながら、俺ははっきりとそう伝えた。

 そんな俺の言葉の意味を理解したしーちゃんは、一輪の花が花開くように満面の笑みを浮かべる。



「い、いいの!?」

「うん、いいよ。って、まだ話はしてないから確定じゃないけどね」

「うん! 分かった! えへへ!」


 余程嬉しかったのか、ぎゅっと俺の腕に抱きついてくるしーちゃん。


 これはもう、俺も是が非でもシフトを外して貰わないと駄目になったなと思いつつ、一緒に過ごせるであろうGWが今から楽しみで仕方なくなってしまうのであった。


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