216話「わかる」

 次の日。


 俺はしーちゃんの家まで迎えに行くと、それからいつも通り一緒に登校する。



「おはよう、たっくん!」

「うん、おはようしーちゃん」


 今日も天使のような彼女の微笑みに、俺も自然と笑みが零れてしまう。

 どれだけ寝不足でも、たとえ体調が悪くても、こうしてしーちゃんに会える一日が楽しみで仕方がないのだ。


 きっとこれは、世間一般で言うところのバカップルってやつなのかもしれない。

 けれど、付き合うということはきっとそういうことなのだと思う。


 こんな風に、毎日会えることが楽しみになってしまう喜びを感じつつ、俺はしーちゃんと今日も手を繋ぐ。



「行こっか」

「うん! 行きましょー!」


 手をぎゅっと握り返し、今日も朝から元気いっぱいなしーちゃん。

 繋いだ手から伝わる温もりが、隣にしーちゃんがいてくれることを更に強く実感させてくれる。


 こうして俺達は、今日もお互いが隣にいることの喜びを感じながら、一緒に学校へと向かうのであった。



 ◇



「まださくちゃん達はいないね」


 うちの教室を覗き込みながら、しーちゃんは呟く。

 孝之と清水さん、二人が仲直りしてから今日が初日のため、きっと二人のことが気になるのだろう。


 しかししーちゃんは、何故かニヤッと微笑むと、俺より先にうちの教室へと入って行く。

 そのまま当たり前のように空いている清水さんの席へ座ると、嬉しそうに身体をこちらへ向けてくる。



「二人のことが気になるから、ここで待っているだけなのです!」


 そして俺が何か言うより先に、自分にはここにいる真っ当な理由があるのだと胸を張って主張するしーちゃん。

 別に俺は何も言わないのに、そんな風に理由をつけてうちの教室へ居ようとするしーちゃんは、やっぱり朝からちょっと持ち前の挙動不審を発揮しつつも可愛かった。



「あれ? 紫音ちゃん?」


 そして、少し遅れて清水さんが教室へやってくる。

 その表情はもう以前の通りで、にこやかに微笑んでいた。


 その理由は明白で、それはすぐ隣には孝之も一緒に立っているからだろう。

 そんな二人はしっかりと互いの手を握り合っており、以前よりも二人の距離がぎゅっと縮まっているように感じられた。



「おはよう孝之」

「おう! おはよう卓也! 相変わらずお二人さん、仲がよろしいことで」

「それはお前達もだろ」

「ははは、違いない」


 笑い合う俺達に、しーちゃんも清水さんも一緒に笑う。

 今まで通り、こんな風に四人で笑い合えていることが嬉しかった。


 こうして、暫く四人で他愛の無い会話を楽しんだ後、しーちゃんと孝之は自分達の教室へと帰って行った。



「一条くん、その、色々ありがとね」

「いや、俺は何もしてないよ」

「ううん、そんなことないよ、ありがとう」


 二人が去って行ったところで、清水さんは恥ずかしそうに微笑みながらお礼をしてくる。

 その姿は、相変わらずの美少女といった感じで、中学の頃は孤高のお姫様だなんて呼ばれていたことも正直頷ける。


 でもそれはきっと、清水さんは清水さんで以前とは変わっており、今の方が以前にも増して魅力的になっているからだと思う。

 だからこそ、こんな美少女が自分の親友の彼女なんだと思うと、俺は勝手に誇らしく感じられるのであった。



「清水さん、変わったよね」

「え? そ、そうかな?」

「うん、俺の次にね」


 そう言って俺が笑うと、「うん、それはそうかもね」と清水さんも笑ってくれた。

 そんな、恋をして変わった似た者同士の二人、これからも仲良く出来たらいいなと思う。



 ◇



「三枝先輩! 事件です! 事件!!」


 無事、今まで通り四人で一緒にお昼を食べていると、駆け込んできた早乙女さん。

 何事かと思えば、早乙女さんは慌てた様子でしーちゃんに話しかける。



「な、なに? どうしたの?」

「これです! これを見て下さい!!」


 そう言って早乙女さんは、自分のスマホの画面をしーちゃんに見せる。

 俺も隣から覗き込んでみると、それはどうやら何かのイベントの告知文章のようだった。



「ハピマジと……あ、エンジェルガールズ」

「そうなんです! そうなんですよっ!!」


 しーちゃんの呟きに、早乙女さんはもうテンションMAXになってしまう。

 つまりは今度のフェスで、早乙女さん達ハピマジとエンジェルガールズが共演するということだった。


 その告知が運営から届いたことで、こうして早乙女さんは真っ先にしーちゃんに知らせに来たということだった。



「そっか、凛子ちゃんみんなと同じステージに立つんだね」

「はい!」

「うん、頑張ってね! 応援してるよ!」


 しーちゃんの応援に、早乙女さんは嬉しそうに微笑む。

 その笑顔は本当に可憐で、流石は現役アイドルだなと分からされる。


 そして、二人に集まる周囲の視線。

 元国民的アイドルと、今勢いのある現役アイドルの二人が微笑み合っている姿は、周囲の注目を集めるのには十分過ぎた。



「――っと、山本先輩に、そちらは彼女さんでしょうか?」

「え? は、はい、そうです、けど?」


 ようやく落ち着きを取り戻し、周囲に目を向けた早乙女さんは孝之の存在に気が付くと、隣に座る清水さんにも声をかける。

 しかし、いきなりそんな風に早乙女さんに声をかけられた清水さんは、驚きながらたどたどしく返事をする。



「……なるほど、確かに凄い美少女ですね……メンバーに欲しいぐらいだ……」


 だが早乙女さんは、清水さんの姿を見てそう呟きながら納得するようにうんうんと頷く。

 そんな早乙女さんの反応に、孝之は満足そうに笑い、そして当の清水さんは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 そして、早乙女さんの「メンバーに欲しい」という一言には、しーちゃんも「わかる!」と力強く同意をするのであった。


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