208話「登校と異変」
「いってきまーす!」
「はい、二人ともいってらっしゃい」
朝の支度を済ませ、それから朝食を済ませた俺は、しーちゃんと一緒に学校へと向かう。
隣を向けば、いつもの制服姿のしーちゃん。
そんな、いつも見慣れているはずの姿でも、そのあまりの可愛さに思わず見惚れてしまう自分がいた。
きっとそれは、こうして家から一緒に学校へ向かうことが嬉しいからだろう。
全国の男子達の憧れの的だったこんなに可愛い女の子が、こうして自分のずっと隣に居てくれているのだということが、俺は改めて嬉しい気持ちでいっぱいになってしまったのであった。
すると、そんな俺の手を取りぎゅっと恋人繋ぎをしてくるしーちゃん。
「えへへ、行こっ」
そして嬉しそうに微笑みながら、俺の手を引いて歩き出すしーちゃん。
だから俺は、そんな何気ない仕草の一つ一つにも喜びを感じつつ、そんなしーちゃんと一緒に今日も学校へと向かうのであった。
◇
週末の思い出話やこれから遊びに行きたい場所など、そんなしーちゃんとする他愛の無いお喋りは楽しくて、気が付くとあっという間に学校へと到着していた。
だから俺は、週末はずっと一緒に居た分名残惜しさを感じつつもしーちゃんと別れて自分の教室へと入ろうとする――が、しーちゃんはそんな俺と繋いだ手を離してはくれなかった。
「しーちゃん?」
俺が声をかけても、不満そうな表情を浮かべながら繋いだ手を離そうとはしないしーちゃん。
それどころか、さっきよりぎゅっと強く手を握ってくるしーちゃんは、何故か一緒に同じ教室へ入ってくるのであった。
「わたし今日から、この教室の子になります!」
そして、二年になって暫く経つが今更そんな宣言をするしーちゃんは、まだ清水さんが登校してきていないことをいいことに、俺の隣の席である清水さんの席へと満足そうに腰を掛けたのであった。
「えへへ、今日からここがわたしの席だよ」
「そっか」
だから俺は、そんな満足そうなしーちゃんに合わせて一緒に微笑む。
こうして隣にしーちゃんが座っている光景は懐かしくて、隣で満足そうに微笑むしーちゃんの姿を前に俺はもう何も言うことは出来なかった。
「……えっと、ごめんね紫音ちゃん、残念ながらそこはわたしの席なの」
しかし、そこへ丁度清水さんが登校してきたことで、しーちゃんの隣の席タイムは早々に終了してしまう。
そんな、あっという間に訪れてしまった現実にショックを受けているしーちゃんに、気まずそうに笑う清水さん。
「おはよう清水さん。今日も孝之と一緒?」
「――さぁ?」
そういえば、孝之にちょっとした用があることを思い出した俺は、孝之に会うついでにショックを受けて挙動不審になっているしーちゃんを自分の教室へ送り届けようと思ったのだが、清水さんからは思わぬ反応が返ってきた。
「さぁって?」
「今日は一人で来たから、分かんない」
ああ、成る程。
別に付き合ってるからって、毎日一緒に登校するものでも無いかと思った俺は、それじゃあ仕方ないかと自分で隣の教室へ向かって確認することにした。
しかし、それでもやっぱり心なしか清水さんが不機嫌そうにしていたような気がするのは、気のせいだろうか……。
そんなことを思いつつ、離れたく無さそうに俺の腕にがっしりとしがみ付いているしーちゃんを無事に自分の教室へと送り届けると、俺は自分の席へ座ってスマホをいじっている孝之へ声をかける。
「おはよう孝之」
「おう、卓也かおはよう」
俺が声をかけると、心なしかいつもより元気が無い返事をする孝之。
さっきの清水さんといい、何だか様子のおかしい二人。
「――何かあったか?」
「いや、別に何も……」
そして俺の問いかけにも、何もないと答えるが絶対にそんなことない様子の孝之は、逆に気まずそうにしながら俺に質問してくる。
「……桜子は、もう来てたか?」
「ああ、うん、さっき来たよ」
「そうか……いや、それだけだ。悪い卓也、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言って孝之は、清水さんが登校済みなことを確認するとやっぱり何かを誤魔化すようにトイレへと向かってしまったのであった。
そんな孝之に俺は、元々話したかったことがあったのだが、そんなものどうでもいいぐらい孝之のことが気になってしまったのであった――。
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