206話「戯れ」

 お風呂から上がった俺は、いつも通り自分の部屋へと戻る。

 するとそこには、当然今日はうちに泊まりに来ているしーちゃんの姿があった。


 もうすっかりうちに来るのも慣れているようで、一人俺の使っていたパソコンいじりながら何やら調べものをしているようだった。


 そして俺が戻ってきたことに気が付くと、おかえりと言って嬉しそうに微笑んで出迎えてくれるのであった。

 何て言うか、こんな風に自分の部屋で、自分の大好きな彼女が待っていてくれるというのがこんなにも嬉しいことなのかとしみじみと実感しながら俺は、パソコンをいじるしーちゃんの隣に座った。



「何調べてるの?」

「ん? えっとね、可愛い服無いかなーと思って」

「成る程、何か良いのあった?」

「うん! これとか可愛いなーって」


 そう言って見せてくれたのは、大人っぽい白のブラウスの画像だった。

 すぐに俺は脳内でしーちゃんが着ている姿を想像してみたのだが、言うまでも無くとても良く似合っていた。


 それから俺は、しーちゃんとあれこれファッションの会話をしながら一緒にネットショッピングを眺めて楽しんだ。

 男物と違って、女の子のファッションは本当にバリエーションが多くて難しかったのだが、それでもそんな会話の中でしーちゃんの好みの傾向が何となく伝わってきた。

 そんな何気ない会話の中でも、俺はまた新たなしーちゃんの一面を知れたことが嬉しかった。



「ねぇたっくん、もう眠たい?」

「え? いや、まだ大丈夫だけど」


 そして、ネットも飽きた様子のしーちゃんは、俺の肩にもたれ掛かりながら眠たいかと聞いて来た。

 まぁ眠いと言えば眠いけれど、まだ全然平気な俺は大丈夫と答える。


 ――というか、こんな風に身を預けてくるしーちゃんのことを意識してしまい、まだ寝たくないと言うのが本音だった。


 するとしーちゃんは、ピッとある一点を指さす。

 その指さす先へ目を向けると、そこにあるのはテレビゲーム機だった。



「じゃあ、あれで遊びたいな」

「え? ゲーム?」

「うん、わたしあんまりやったこと無いから」


 成る程、だから遊んでみたいと。

 そんなことを言われてしまっては、俺にはもう断ることなんて出来なかった。



「いいよ、遊ぼっか」

「やった!」


 こうして俺は、しーちゃんと一緒にゲームで遊ぶことになった。



 ◇



 しーちゃんの希望で、格闘ゲームを二人で対戦する。

 しかし、当然素人のしーちゃんは「えいっ!」や「とうっ!」という掛け声と共に一生懸命身体をくねらせていた。

 そして、そんな風にやみくもに連打されるだけの攻撃は、こちらが何しなくても当たることなく楽勝できてしまう。



「もうっ! たっくん強いよ!」

「あはは、まぁそうでもあるかな」

「むー! 手加減してよー!」


 いや、既にかなり手加減してるんだけどね。

 何度挑んでも一向に勝てないことで、ムキになって不満そうに膨れるしーちゃんは可愛かった。


 ――まぁ、そうやってムキになるしーちゃんが可愛くて、俺もギリギリ負けないプレイングしてるんだけどね


 そんなわけで、それからも負け続けるしーちゃん。

 しかしそれでも、俺の操作を見て真似て少しずつ上手くなっていっているのが分かった。


 やはりしーちゃんは、天才なんだなって思う。

 三十分もこのゲームで遊んでみれば、油断をすれば一回KOを取られるぐらいにまで上達しているのであった。


 だが、それでもしーちゃんはしーちゃんだった。

 上達はしているものの、それでもどうしても俺には勝てないということを悟ると、しーちゃんは驚きの行動に出る。


 そう、なんとしーちゃんはゲーム中だというのに、俺の脇腹を擽ってきたのである――。


 そのまさかの行動に、俺は笑ってしまいゲームどころではなくなってしまう。

 その結果、しーちゃんのキャラは俺の地獄のコンボから見事に解放される。


 だが、擽っているしーちゃんもコントローラーは握れないため、これではやられはしないが攻撃も出来ないのであった。



「ちょ! あはは! しーちゃんちょっとタイム!」

「無理ですー! 手加減してくれないたっくんが悪いんですー!」


 散々負け続けた分、現実ではこうして俺に勝っていることで気分が良いのだろう。

 意地悪なしーちゃんは、楽しそうに擽り攻撃を止めてはくれなかった。


 だから俺も、しーちゃんがその気ならと反撃に出る。

 擽ってくるしーちゃんの脇腹に同じく手を伸ばすと、同じくその脇腹を擽り返す。


 ――目には目を! 歯には歯を! そして擽りには擽りを!



「あははは! た、たっくんタイム―!」

「そっちが止めたら止めるよ!」

「無理ー! あははは!」


 こうして、ゲームで遊んでいたはずが気が付くと擽り対決になってしまっていた。

 そして、暫く擽り合いを続け散々笑い合った俺達は、息を切らしながら一時休戦する。



「ハァ、ハァ、笑い疲れた……」

「うん、笑いすぎて苦しいよぉ……」


 本当何やってるんだろうと可笑しくなって、また二人で顔を向き合わせながら笑い合う。

 でも、こんな風にしーちゃんとじゃれ合うことが出来ていることが、俺はやっぱり嬉しくて堪らなかった。


 そして俺は、そこであることに気が付く。

 それは、擽り合いに夢中で今の今まで気付かなかったのだが、暴れたせいでしーちゃんのパジャマが少しはだけてしまっているのであった。


 そのことに気付いた俺は、見てはいけないものを見てしまっていると思い慌てて顔を逸らす。


 そんな俺の反応を見て、しーちゃんも自分のパジャマが少しはだけていることに気が付くと、顔を真っ赤にしながら慌てて元に戻していた。



「……えっと、じゃ、じゃあそろそろ寝ますか」

「う、うん、そうだね」


 そして恥ずかしさを誤魔化すように、もういい時間だし今日の所は寝ることにした。


 だが、寝ると言っても同じベッドの上――。

 今のやり取りも相まって、しーちゃんのことを意識しない方が無理な話なのであった――。


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