205話「子供扱い」
「ただいまー」
「お邪魔します」
「あらあら、紫音ちゃんいらっしゃい」
しーちゃんの家へお泊りセットだけ取りに行くと、それから一緒にうちへと向かった。
そして帰宅するや否や、しーちゃんが来るのを待っていた母さんがすぐに出迎えてくれた。
少しぶりにしーちゃんに会えるのがよっぽど嬉しいようで、早速連れて来て良かったなという感じだ。
こうしてリビングで俺としーちゃん、それから父さんと母さんの四人でテーブルを囲んで話をすることになった。
話をすると言っても、そんな大した内容ではない。
一人暮らし大変でしょうとか、その服可愛いねとか、エンジェルガールズ時代の思い出話とかそんな程度だ。
このままうちの子になっちゃえばって流れになった時は、慌てて俺が制しておいたけど……。
だからしーちゃんも、あれこれ聞いてくる父さんと母さんに対して、微笑みながらニッコリと返答してくれていたのであった。
そして、そうこうしているうちにあっという間に二十二時前になってしまっていたため、明日からまた学校だし今日はお風呂を済ませてそろそろ休むことにした。
「どうしよう、しーちゃん先入る?」
「いいの? じゃあお言葉に甘えてそうさせて貰おうかな」
「うん、タオルとか用意するよ」
「ありがとう……えへへ、一人暮らし大変だろうから、うちに住んだらって言われちゃったね」
一緒に風呂場へ向かいながら、嬉しそうに微笑むしーちゃん。
まぁ母さんは多分本気だろうが、そんな簡単な話ではないことはしーちゃんも分かっているうえで嬉しそうにしているのだろう。
「まぁ、うちの親はあんなだからさ、またいつでもこんな風に泊まりに来てくれればいいよ」
「うん、そうするね! それにこれなら――」
「これなら?」
「えへへ、これなら抱き枕も必要ないなって」
そんなことを言って、頬を赤らめながら悪戯に微笑むしーちゃんの姿に、俺も一緒になって笑ってしまう。
「そうだね、必要ないね」
「そう、ないのです!」
「はい、じゃあまずはお風呂済ませようね。タオルここに置いておくからね」
「もう、子供扱いしてない?」
恥ずかしそうに、少し膨れながら文句を言うしーちゃん。
そのぷっくりと膨れた頬も、何だか子供みたいでやっぱり可愛かった。
「それは、しーちゃんが子供みたいに可愛いからだよ」
「むー、じゃあたっくん――このまま、着替えでも覗いてく?」
そう言って、着ているワンピースの裾を掴んで軽く持ち上げる仕草をするしーちゃん。
だから俺は、慌てて風呂場から飛び出すとドアをバタンと閉めた。
「――ごめん、しーちゃんは十分素敵な大人レディーでした……」
「あはは、うむ、分かれば宜しい」
「じゃあ部屋で待ってるね」
「はーい!」
こうして、俺はしーちゃんがお風呂から上がるまで部屋で待つことにした。
そして、部屋のベッドで寝転がりながら先程のやり取りを思い出しては、一人赤面しながらもしあのまま残っていたらどうなっていたのかという妄想をせずのはいられないのであった――。
◇
「上がったよー!」
パジャマ姿のしーちゃんが、部屋へとやってきた。
ピンクのドット柄のパジャマを着たしーちゃんは、控えめに言って可愛すぎた。
結局ずっと続けていた悶々とした気持ちに、しーちゃんのパジャマ姿という状況も相まって、俺はドキドキしてきてしまうのであった。
「たっくん?」
「ああ、ごめん! 俺もお風呂済ませてくるよ」
「うん――あ、待ってたっくん」
慌てて俺も風呂へと向かおうとするが、しーちゃんはそんな俺の服の裾を摘まんで引き留めてきた。
「どうかした? 何だか様子がおかしいっていうか……」
「あー、いや……」
「……何かあるなら、はっきり言って欲しいな」
不味い……俺の変な態度がしーちゃんを不安にさせてしまっている――。
だから俺は、そんなしーちゃんに観念して今思っていることを素直に伝える。
「――いや、なんて言うかさ……その、パジャマ姿も可愛いなって思って」
「ふぇ?」
「その……着替えの時のやり取りもあるし、只今絶賛しーちゃんにドキドキしてしまっております」
そう素直に告げると、そんな俺の背中にぎゅっと抱きついてくるしーちゃん。
「――もう、何かと思っちゃったよ」
「ごめん――」
「ううん――それにね、たっくん。ドキドキしてるのはたっくんだけじゃないよ――」
「しーちゃん――」
このやり取りは不味い――。
何が不味いのかは上手く言葉に出来ないが、自分の中のブレーキ装置や諸々が壊れそうになってきてしまう――。
すると、そんな困惑する俺の背中が突然ポンと押される。
「はい、じゃあたっくんも早くお風呂済ませてきましょうね」
「……しーちゃん、俺のこと子供扱いしてる?」
「えへへ、さっきの仕返しだよーだ!」
悪戯にニッと微笑みながら、仕返し大成功と手を振るしーちゃん。
そんなしーちゃんに、俺もやれやれと一緒に笑うしか無かった。
まぁそのおかげで、さっきの変な空気からも脱することが出来たし結果オーライってやつだろうか。
とりあえずしーちゃんを待たせるわけにもいかないため、俺は言われた通りさっさとお風呂を済ませてくることにしたのであった。
そう、最後まで頬を赤らめていたしーちゃんの姿に、俺は気付いてないったら気付いていないのだから――。
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