202話「ハンバーグ」
「今日はハンバーグでいいかなっ!」
嬉しそうに腕に抱きついてくるしーちゃんと一緒にキッチンへと向かう。
ちなみにしーちゃんは、部屋着用のふわふわのピンクのパーカーに、同じくふわふわのピンクのショートパンツに着替えている。
そんな、色んな意味でふわふわしているしーちゃんにドキドキさせられつつも、とりあえず言わないといけないことだけはしっかりと言っておくことにした。
「しーちゃん。全然いいんだけど、昼もハンバーグだったよね?」
「あっ! そういえば……でもたっくん、あらびきならわたし三連続はいけちゃうよ!」
どうやら素で気付いていなかったしーちゃんだが、驚きつつも変更する気は無い様子だった。
昼は食べ過ぎて気持ち悪そうにしていたのに、本当にハンバーグが好きなんだな。
そんな、何故かドヤ顔で語るしーちゃんがちょっと面白かったので、だったら是非とも夜もハンバーグを食べてみて貰おうじゃないかと俺はオッケーした。
こうしてキッチンへ到着すると、今日は一緒に料理することになった。
別に料理が苦手な訳じゃないが慣れてはいない俺は野菜の皮剥きを担当し、俺が皮を剥いた野菜をしーちゃんが料理していくという分担で、ハンバーグ、それから添える用の野菜が手際良く調理されていく。
「やっぱりしーちゃんは凄いな。手際がいい」
「えへへ、たっくんが手伝ってくれるからだよ?」
「そう? なら良かった。でもやっぱり、しーちゃんが凄いんだよ」
「そ、そうかな? うへへ」
俺が褒めると、しーちゃんはちょっと気持ち悪い笑みを浮かべつつ、ルンルン気分で料理をこなしていく。
そして完成したハンバーグとグリルした野菜をお皿に盛り付けると、冷めないうちに早速一緒に頂くこととなった。
「「いただきます!」」
まずはハンバーグを一口食べてみると、今さっき話しながら手際よく作ったとは思えない程美味しかった。
きっと調味料とか隠し味的なものがしっかりと活きているのだろう。
流石はハンバーグ愛好家のしーちゃん、平然と凄いことをやってのける。
「うん、やっぱり美味しいね」
「本当? 良かったぁー。じゃあたっくん、あれしときますか!」
「え、あれ?」
「そう、たっくん口開けて? はい、あーん」
しーちゃんは自分のハンバーグを切り分けると、そう言って俺に差し出してきた。
だから俺は、言われた通りその差し出されたハンバーグをパクリと一口で食べる。
「どう? 美味しい?」
「うん、さっき食べたのより美味しいよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
俺が答えると、しーちゃんはそう言って何か期待したようなワクワクとした表情でこっちを見てくる。
だから俺も、その理由に気付かない程鈍感ではないから、しーちゃんのご期待に応えることにした。
「じゃあ、しーちゃんも口開けて。はい、あーん」
「うへへ、あーん!」
待ってましたとばかりに口を広げるしーちゃんに向かって、俺は切り分けたハンバーグをお返しに差し出す。
「どう? 美味しい?」
「十割増しだねっ!」
さっきされたのと同じ質問してみると、しーちゃんはそう言って両手をパーに広げて見せてきた。
「その手は、十割の十ってこと?」
「そうですっ!」
「はは、それはよかった!」
「最高ですっ!!」
そんな一生懸命感想を伝えてくるしーちゃんが可笑しくてつい吹き出すと、しーちゃんも一緒になって笑った。
本当に、最近は以前にも増して素が出ているというか、日に日に可愛くなっていっている気がしてならない。
まぁそれも、久々に家で一緒にご飯を食べるのがそれだけ嬉しいからなのだろう。
そう思うと、確かに普段はこの広い家で一人でいるんだよなということが何だか申し訳なくなってきてしまう。
――もししーちゃんと一緒に住むことが出来たら、全部解決するんだろうなぁ
そんな考えが頭をよぎるが、まだ高校生の自分達にとってそれは流石に踏み込み過ぎなのだろう。
子供の欲求だけで、一緒に生活するとかそういうのは決められる問題ではないだろうから。
しかしそれでも、しーちゃんを一人にしてしまうことに対して何も思わないわけではないし、可能ならずっと一緒に居てあげたい気持ちは以前から抱いていたりするのであった。
「たっくん?」
「ああ、いや、ごめんちょっと考え事してた」
そんなことを考えているのが顔に出てしまっていたのか、隣に座るしーちゃんが少し心配そうに話しかけてくる。
俺は咄嗟に誤魔化したが、しーちゃんの姿を見ていると余計に申し訳ない気持ちが強まってきてしまう。
だから俺は、別に隠すことでも無いため思っているままを伝えることにした。
「――その、さ、しーちゃんを普段一人にさせちゃってるのが何て言うか、申し訳ないなって思って」
答えは無いが、俺は思っているままを言葉にした。
そんな俺のことを、しーちゃんはきょとんとした顔で見てくる。
「どうして、たっくんが謝るの?」
「いや、そうなんだけど、もっと一緒に居られないかなって思って」
「そっか――うん、わたしももっと一緒に居たいよ。でも、わたし達まだ高校生だもんね」
そう言って力なく微笑むしーちゃんも、俺と同じ考えなのだろう。
俺達はまだ高校生だから、今の距離感が限度だろうと。
――でも、それって本当にそうなのだろうか
そんな疑問が、俺の中で膨らんでいく。
俺達はまだ高校生で子供だから、責任を持てない――それはきっとその通りなのだろう。
――だったら、責任を取れる形を探せばいいんじゃないか?
そう、自分達だけでは解決出来ないならば、責任を持てる形を探せば良いんじゃないだろうか?
例えば、お互いの両親に承諾を得るとか――。
「でもね、たっくん。わたしは今のままでも十分幸せだよ?」
「え……?」
「そりゃね、もっとたっくんと一緒に居たいなって思うよ。凄く思う。でもね、会えない時間が愛を育てるってやつ? きっとこの歯がゆさも、今は必要なんだと思うんだ」
そう言って、今度は優しく微笑んでくれるしーちゃん。
そして、その言葉に俺は成る程と頷く。
「――そうかもしれないね。俺も、会っていないとすぐに会いたくなるから」
「うん、わたしも同じ」
「そっか、そうだよね。うん――あっ、だからあの抱き枕も作っちゃったわけだ?」
「あ、あれはっ! ち、違うの! 違わないけど! もうっ!」
納得した俺は、何だか照れ臭くなって冗談で抱き枕の件を持ち出すと、あわあわと恥ずかしがるしーちゃん。
その反応はまさしく挙動不審で、そんなしーちゃんを見ているとほっとする自分がいた。
「別に良いんだけど、ちゃんと洗濯はしてね?」
「するよっ! ちゃんとしてますぅ!!」
顔を真っ赤にして、俺の肩をポカポカと叩いてくるしーちゃん。
そんなしーちゃんが堪らなく愛おしくなってしまった俺は、思わず抱きしめてしまう。
「本当に、いつもありがとね。大好きだよ」
「たっくん――うん、わたしも大好き――」
日頃の感謝と気持ちを伝えると、ぎゅっと抱きしめ返してくるしーちゃん。
そして暫く抱きしめ合った俺達は、顔と顔を向き合わせるとそのままお互いの唇を重ね合った。
「ふふ、ハンバーグの味だね」
「でも好物でしょ?」
「うん、たっくんにハンバーグ、好きしかないねっ!」
そんなちょっと間抜けな会話が自分達らしくて可笑しくて、それから二人で吹き出すように笑い合ったのであった。
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