198話「ライブと正体」

 それから暫く話をしながら待っていると、いよいよライブが開始されることとなった。


 会場の照明が落とされると、ステージ上に照明が当てられる。



「みんなー! 今日はわたし達のライブに来てくれてありがとー!」


 そして、リンリンの一言に合わせてメンバーがステージ上に元気よく飛び出すと、早速ライブが開始された。

 ちなみに会場には多くの人達で溢れているのだが、どうやら貰ったチケットが特別だったようで今日は最前列でライブを見られている。


 だから俺は、今日の為に用意しておいたサイリウムを鞄から取り出すと、しーちゃんと一本ずつ手にして応援することにした。

 ちなみにカラーは、勿論リンリンのイメージカラーであるピンクだ。

 同じく当然のように最前列に立つ上田くん、そしてその隣の坂本さんも勿論手にするのはピンク色のサイリウムで、周囲を見渡してもピンクの割合は多いことからハピマジでのリンリン人気の高さが伺えた。



「みんな可愛いね!」

「そうだね」


 そんな彼女達のステージを、隣でしーちゃんは楽しそうに応援していた。

 国民的アイドルだったしーちゃんが、今はステージの下で普通に観客として楽しんでいるというのは少し不思議な感じもするが、当のしーちゃんはそんなこと気にせずワクワクとした様子で微笑んでいた。


 そしてステージ上では、リンリン達ハピマジが歌って踊って圧巻のパフォーマンスを見せてくれた。

 とても地方の地下アイドルで片付けて良いレベルではなく、歌もダンスもレベルが高いことは素人の俺でも分かった。

 それだけ彼女達は、このアイドルとしての活動に一生懸命取り組んでいるのだと、この一曲のパフォーマンスを見ただけでも十分伝わってくるのであった。


 そして曲の途中、最前列にいることもありリンリンこと早乙女さんと思いっきり目が合った。

 すると彼女は、本当にしーちゃんが来ていることが嬉しかったのか、パフォーマンス中だというのに分かりやすく全身から嬉しさオーラがあふれ出ているのであった。



「おぉ、今日のリンリンはいつにも増して輝いてるっ!」

「ですねぇ! やっぱりマイエンジェルだぁ!」


 そして、そんなリンリンの変化を上田くんも坂本さんも見逃すはずがなく、ステージ上で微笑むリンリンの姿に更に熱狂しているのであった。



 ◇



「改めまして、今日はわたし達ハッピーマジックのライブに来て頂いてありがとうございます!」

「「ありがとうございます!」」


 一曲歌い終えると、リンリンの挨拶に続いてメンバー全員が会場に向かって挨拶をする。

 すると、それに応えるように会場からは歓声が沸き上がる。

 中でも坂本さんの全力のリンリンコールは物凄かった。

 確かにこんなにキャラの濃い人がいれば、キャラの濃い上田くんをもってしてもリンリンの記憶に残らないのも頷けた。



「ねぇリンリン、何だか今日はいつもより楽しみにしてたけどさ、結局なんだったの?」

「あー、それわたしも気になってたー!」


 そしてステージ上では、フリートークが開始される。

 話題は今日のリンリンについてで、今日のライブ前にリンリンがいつもより楽しみにしていた理由について聞かれていた。

 会場の観客達もなんだなんだと興味津々な様子だが、それは言わなくてもさっきの反応を見ていれば一目瞭然だった。

 それは勿論、今日ここへしーちゃんが来るからだと。

 しかし今そのことを知っているのは、俺と上田くん、そしてステージ上のリンリンだけだった。



「あー、うん。今日のライブは昨日からずっと楽しみにしてたんだ」


 そう言ってリンリンは、こっちに視線だけ向けてきた。

 それに気付いたしーちゃんは、微笑みながらステージ上に小さくサイリウムを振る。


 するとそれだけで、学校にいる時と同じように分かりやすく喜ぶリンリン。



「え、なになに? どうしたのよ」

「リンリン何か隠してるー!」

「な、なんでもないってば! じゃあそろそろ、次の曲いきましょ!」


 面白がって理由を探るメンバーを無視して、慌てて次の曲へ進行するリンリン。

 そしてリンリンの合図に合わせて、次の曲のイントロが流れ出した。



「わたしのことはいいから、今日はみんないっぱい楽しんでいってね!」

「「うぉおおおおお!!」」


 それから立て続けに三曲、ハピマジは最高のステージを見せてくれた。

 そして三曲目に入った頃からだろうか、ステージ上の他のメンバーもどうやらその異変に気が付いているようだった。


 この会場に、エンジェルガールズがいると――。



 ◇



「えっと、リンリン? わたしの勘違いじゃなければなんだけど……」

「な、何のこと?」

「いや、その……」


 三曲目を歌い終えると、再びフリートークが始まった。

 しかし、既にこの場の異変に気付いてしまっているメンバーは、先程とは異なり明かに戸惑っている様子だった。

 彼女達は横目でしーちゃんの方をチラチラと伺いながら、リンリンに理由を確認する。

 話されている内容は最初のフリートークの時と同じなのだが、メンバーの反応がまるで異なっていることに、会場のファン達もなんだなんだとざわつきながら、メンバーの視線の先にいるしーちゃんへと視線が集まる。



「……これはもう、バレちゃってるっぽいね」

「あはは、そうみたいだね」


 身バレするつもりはなかったんだけどなと、苦笑いを浮かべるしーちゃん。

 そして、諦めたしーちゃんはサングラスをはずすと、ステージに向かって両手を合わせながら申し訳なさそうに一言。



「凛子ちゃん、ごめんね」



「「えええええええええ!!」」


 しーちゃんが素顔を晒したことで、驚きに包まれる会場内。


 こうしてライブイベントも終盤、突如現れたエンジェルガールズのしおりんの登場により、会場内は何とも言えない驚きの空気に包まれたのであった。


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