199話「全身全霊」
突然現れた、国民的アイドルグループ『エンジェルガールズ』の元メンバーであるしおりんこと三枝紫音。
その姿に、会場のファン達は勿論、ステージ上のハピマジの面々まで全員驚いてしまっていた。
言わばこの空間は、アイドルファンの巣窟なのである。
そんなところで、今や伝説的な扱いをされているしおりんが姿を現したことで、当然周囲の反応も大きくなる。
その証拠に、坂本さんなんて驚きすぎてプルプル震えてしまっているし、知っていたはずの上田くんまで一緒に驚いてしまっているぐらいのインパクトだった。
「あー、皆さんごめんなさい。今日わたしがしおりんをこの場に呼んだんです」
そんなプチパニックが起きている会場に向かって、リンリンが事情を説明する。
今日ここにしおりんがいるのは自分が呼んだからであること、それから、アイドルとして頑張っている自分達の姿を、憧れのアイドルであるしおりんにどうしても一度見て欲しかったということ。
その説明を聞いたメンバーもファンも、リンリンの気持ちが伝わったのだろう。
先程のざわつきも落ち着きを見せると、ファンのみんなはしーちゃんから再びハピマジのみんなに視線を向ける。
「ハピマジ最高っ!!これからも応援してるよ!!」
「俺の中では、ハピマジがナンバーワンだぁ!」
「ずっとついて行くぞぉ!」
そして、ファンのみんなは口々にハピマジのメンバーに向かって声援を送る。
そんなファンを前にしたハピマジのメンバーは、驚きながらも嬉しそうにステージ上で微笑んでいた。
「ねぇ、凛子ちゃん。それから他のみんなも」
「は、はい!」
そして、そんなハピマジのメンバーへ向かってしーちゃんが話しかける。
「みんなのステージ、とっても素敵だったよ。同じアイドルをしていたからわかるよ、みんなこれまでアイドルとしてとっても努力してきたんだってことがね」
「うぅ、しおりんさぁん……」
ファンの声援、それからしーちゃんの言葉により、泣き出してしまうメンバーもいた。
それだけ彼女達も本当にこれまで頑張ってきたのだろうし、だからこそそれが認められたことが嬉しかったのだろう。
「だからね、今日のステージはまだ終わりじゃないでしょう? みんなの素敵なステージの続きを、わたしに見せてくれないかなっ?」
そう言って、ハピマジのメンバーに向かってウインクをするしーちゃん。
そんなしーちゃんの姿にしばし見惚れていた彼女達だが、気を引き締め直すとみんなで頷き合う。
「みんな、行くよ!」
「「うん!」」
リンリンの掛け声に合わせて、力強く応えるメンバー達。
そして彼女達ハピマジの、本日ラストソングのイントロが流れ出す。
最後の曲は、彼女達の代表曲『dream』。
これから必ずアイドルとして羽ばたくのだという、彼女達の決意を歌ったパワフルな一曲だった。
曲が始まると、ステージ上のハピマジのメンバーだけでなく、ずっと彼女達を支えてきたファンのみんなも今日一番の声援を送り、会場内は確かに一つになっていた。
「凄いね」
「うん、みんなとっても輝いてる」
そんな彼女達の全身全霊のパフォーマンスに、俺もしーちゃんも釘付けになっていた。
歌って踊る彼女達はとても輝いているし、その中心で満面の笑みを浮かべながらパフォーマンスする早乙女さんは紛れも無くアイドルだった。
そして、最後の曲を歌い終えると、会場からは割れんばかりの歓声が沸き上がった。
「みなさん、今日はわたし達のライブにきれくれて、せーのっ!」
「「ありがとうございましたぁ!!」」
こうして拍手喝采の中、本日のハピマジのライブイベントは無事閉幕となったのであった。
◇
「ま、まさかしおりんさんがここに来てたなんて思わなかったですよ」
ライブが終わり、俺はしーちゃん、上田くん、それから坂本さんと共にエントランスで会話をしていた。
当然周囲からの視線を集めてしまってはいるのだが、それは会場のスタッフさんもいるし、何よりここのファンの重鎮? である坂本さんが一緒にいるおかげか、特に騒ぎにはならなくて一安心だった。
ちなみにそんな坂本さんはというと、まさかのエンジェルガールズのしおりんの登場に、あたふたと慌てながらも分かりやすく大喜びだった。
「今日は驚かせてしまって、申し訳ありません」
「い、いやいや! そんなことは! それに、ナンバーワンアイドルとこうして会話できるなんて、夢のようですよ!」
「そうですか、ありがとうございます。でも確かライブ前に、エンジェルガールズなんて目じゃないって言ってたような――」
「あ、あれはその! ち、違――うわけじゃないんですけど、なんと言いますか、そのっ」
「えへへ、冗談ですよ。ハピマジのライブは本当に素敵でしたし、きっと彼女達なら夢じゃないと思いますよ」
慌てる坂本さんに、しーちゃんは舌をちょこっと出して悪戯に微笑んだ。
そんなしーちゃんの姿に一瞬見惚れてしまう坂本さんだったが、トップアイドルだったしーちゃんのその言葉の意味を理解すると、それが嬉しくて堪らない様子で涙を流し出した。
それは隣の上田くんも同じで、ハピマジがしおりんに認めて貰えたことに抱き合いながら喜んでいた。
「はーい、それじゃあ握手会始めまーす!」
そうこうしていると、ライブ後の握手会が開始された。
今日は握手会も行われる特別なイベントの日だったようで、メンバーがそれぞれの握手会用のブースに立つと、その合図に合わせてファンの人達はそれぞれ自分の推しの列へと並んでいく。
勿論それは上田くんと坂本さんも同じで、さっきまで隣で泣きながら抱き合っていたはずの二人だが、合図と共にあっという間にリンリンの列の前の方に並んでいた。
どうやら貰ったライブチケットには握手会の権利もセットになっているようなので、せっかくだから俺もしーちゃんと一緒にリンリンの列に並ぶことにした。
こうして暫く並んでいると俺達の順番が回ってきたため、まずは俺からリンリンと握手する。
「あ、一条先輩! 今日は来て頂いて、ありがとうございました!」
「うん、こちらこそ誘ってくれてありがとうね。ライブ凄く良かったよ」
「本当ですかぁ? 嬉しいですっ! ありがとうございますっ!」
俺の手をぎゅっと握りながら、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる早乙女さんの姿に、俺は思わず見惚れてしまいそうになってしまう。
それは、今着ているアイドル衣装のせいもあるだろう。
でもきっとそれ以上に、さっきの凄いライブのおかげもあり本当に輝いて見えるし、今の早乙女さんは高校の後輩ではなく正しくアイドルだと思えるからだろう。
それぐらい、今の彼女は俺から見てもとても眩しい存在に思えるのであった。
そして俺が握手を終えると、お次はしーちゃんの番だ。
「凛子ちゃん、お疲れ様」
「わぁ! 三枝先輩! ありがとうございますっ!!」
微笑みながら手を差し出すしーちゃんに、早乙女さんは大喜びしながら両手でその手を握っていた。
これじゃあどっちの握手会なのか分からないのだが、そんな二人の姿に他のメンバーやファン達も羨ましそうに見ているのであった。
「わ、わたし達のライブ、どうでしたかっ?」
「うん、みんなとっても素敵だったよ」
「やった! 嬉しい!!」
しーちゃんの一言一言に、キャッキャと喜ぶ早乙女さん。
しかし、握手会自体時間がとても限られているため、あっという間に時間が過ぎるとスタッフさんに引き離される二人。
するとしーちゃんではなく早乙女さんの方が、悲しそうな表情を浮かべながら名残惜しそうに手を伸ばしており、やっぱり完全に立場が逆転してしまっていることにスタッフさんも笑ってしまっていた。
「また学校で、いつでも握手できるから」
「絶対ですよぉ!」
そんな、最後はやっぱり早乙女さんなところにしーちゃんも笑ってしまいながら、こうして俺達は今日のライブイベントを最後まで楽しむことが出来たのであった。
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