※200部到達記念「三枝紫音は考えた」
「――やばい、好きすぎる」
部屋で一人、クッションを抱えながらわたしはクネクネと悶えていた。
ちなみに今抱いているクッションは、いつかたっくんにゲームセンターで取って貰ったエンジェルガールズの雑クッションだ。
思えば、このクッションもそうだけど、たっくんとの想い出の代物は本当に色々と増えた。
その一つ一つを、わたしは部屋の一角に大切に保管しており、わたしはその一角を『たっくん大好きコーナー』と命名している。
そんなこれまでに貰ったモノを眺めているだけで、色んな想い出が思い起こされてわたしはどうしてもニヤけてきてしまうのであった。
恋愛するって、こんなにも幸せなことだなんて知らなかった。
だって、たっくんという大好きな相手がいるだけで、わたしはこんなにも満たされてしまうのだから――。
そんな幸せを感じながら寝転んだわたしは、この感謝と大好きの気持ちを改めてたっくんに伝える必要があると思った。
――ううん、これは必要じゃないよね、最早義務だよ義務!
そう思ったわたしは、それから何をお返ししたらいいかを考えてみるが、中々良いお返しが思い浮かばない。
高価な物とかは違うと思うし、どこかへ出かけるにしても正直まだ高校生の自分達がどこへ遊びに行くのが適切なのかがよく分からない。
「お、温泉旅行……とか……?」
自分で口に出してみて、恥ずかしくて死にそうになる。
流石にそれはまだ早いよねと、わたしは現実的な案を考え直すことにした。
――やっぱりモノじゃないよね、こういうのはちゃんと気持ちを伝えないと!
本質的な部分をちゃんと伝えないと駄目なのだ。
そう決心したわたしは、それからざっくりと作戦を練ると共に、早速明日実行に移すことにしたのであった。
◇
「じゃ、しーちゃんあとで!」
「うん、あとでね!」
わたしの教室の、一つ手前の教室へ入って行くたっくん。
毎回思うが、この瞬間は本当に切ない。
どうしてわたしも同じクラスじゃないのかと、そんな行き場の無い気持ちでいっぱいになってくる。
こうして一人になったわたしは、肩を落としながら仕方なく今日も自分の教室へ足を踏み入れる。
「おはよう三枝さん!」
わたしが教室へ入るや否や、新しいクラスメイトのみんながニコニコと集まって来てくれる。
こういうのは、アイドルをやっていた頃から慣れているため、わたしも微笑み返しながら挨拶を返す。
そして今日も朝からみんなに囲まれているわたしに、もう一人ちょっぴり寂しそうな表情を浮かべる人物が声をかけてくる。
「おはよう、三枝さん」
「うん、おはよう山本くん」
それは二年も同じクラスになった、山本くんだった。
山本くんは山本くんで、大好きな彼女であるさくちゃんと別々のクラスになってしまったため、わたしと同じくそれが寂しいことが顔に思いっきり出ているのであった。
そんな山本くんとは、元々はたっくん繋がりではあるものの、今ではわたしにとっても大切な友達の一人だと思っており、そして今では貴重な運命共同体でもあった。
お互い想い人と離れ離れになってしまっただけに、自分だけじゃないんだと思える事がお互いの心の支えになっているのだ。
――あーあ、早く昼休みにならないかなぁ
わたしはその楽しみを胸に、今日も一日頑張るのであった。
◇
昼休みの時間がやってきた。
授業終了のチャイムと同時に、わたしは山本くんと目配せをする。
そして授業が終わったところで、お互い素早く教室から飛び出すと、そのまま隣のクラスへと向かう。
ここまで、わたしと山本くんは完全な阿吽の呼吸を発揮していた。
お互い目的がハッキリとしているため、何も言わずとも連携できてしまうのだ。
それから何も言わずに隣のクラスの出入り口の両サイドに分かれたわたし達は、ひょっこり顔だけ出して中の様子を伺うと、楽しそうに話をしているたっくんとさくちゃんの姿を捉える。
――うう、羨ましい
そんな嫉妬心を感じつつ、早くこっちに来てという念を視線にたっぷりと籠める。
きっとそれは、隣で同じことをしている山本くんも同じだろう。
「あ、今日も二人ともいつの間に……」
「あはは」
そして、そんなわたし達の視線に気付いたさくちゃんとたっくんは笑っていた。
正直何を笑っているのかは分からないが、まぁ笑ってくれているのなら問題ない全部オッケーだ。
こうして二人と合流したわたし達は、いつもの食堂のテーブル席へと向かって歩く。
これからの時間は、わたしにとっては貴重な貴重なたっくん占有タイムなのだ。
ピッタリとたっくんの隣にくっついたわたしは、もうそれだけで嬉しくて笑みが零れてきてしまう。
「ん?なんか嬉しそうだね?」
「何でもないよー♪」
「そっか」
何でも無いようなことが、幸せだったと思えるのだ。
それはクラスが別々になったおかげで気付けた事なため、良かった部分だとも言えるかもしれない。
――まぁ、それを差し引いても全然良くないんだけどねっ
こうしてわたしは、今日もたっくんの隣でお弁当を食べる幸せタイムを堪能したのであった。
◇
そして、帰り道。
わたしは昨晩考えた、たっくんへのお礼を決行することにした。
「ねぇ、た、たっくん!」
「ん?どうかした?」
「え、えーっとね、そのね――」
しかし、言葉にしようと思っても中々上手く言葉にできない。
結局昨晩思いついたのは、『ちゃんと日頃の感謝の気持ちを伝えよう』だった。
ただ思っている事を感謝の言葉にするだけなのに、いざ言葉にしようと思うと気持ちが勝ってしまい上手い言葉が中々思い浮かんでこないのだ。
その結果、ただわたしはあうあうと言葉にならない声を発してしまう。
そんな残念なわたしのことを、たっくんは微笑みながらも言葉を待ってくれていた。
――い、言わなきゃ!日頃の感謝を!
そう思えば思う程、いっぱいいっぱいになってきてしまう。
凄く簡単なことのはずなのに、自分のポンコツ具合が嫌になってくる。
「――プッ、あ、ごめん」
しかしたっくんは、そんなわたしを見て何故か笑っていた。
そんなたっくんのせいで、わたしは顔がどんどん熱くなってくるのを感じた。
「も、もう!笑わないでよっ!」
「いや、ごめん、可愛かったからつい――」
「か、かわ――ッ!」
いつもそうだ。たっくんはいつもこうして不意打ちで、嬉しい言葉をぽろっと言ってくれるのだ。
これじゃさっきまで、上手く言葉に出来ないでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
そしてやっぱり、大好きだなという気持ちが膨れ上がってくる――。
「あ、あのね!わ、わたしが言いたかったのはねっ!」
「う、うん!」
「その、いつもありがとうって!大好きですって!だからこれからも、ずっと一緒にいて下さいって改めて言いたかったのっ!」
完全に勢いで言ってしまったけれど、もっと上手い言い方あったでしょとすぐさま後悔する。
こうして見事に失敗してしまったわたしは、恐る恐るたっくんの様子を伺う。
するとたっくんは、何故か顔を片手で覆っており、そしてその頬はほんのりと赤く染まっているのが分かった。
「……た、たっくん?」
「いや、ごめん、その……」
顔を隠したまま、歯切れの悪い返事をするたっくん。
そんな返答に、わたしは一気に失敗からの後悔に飲み込まれてしまう。
しかし、次にたっくんの口から発せられた言葉は、わたしの思っていたものとは違った。
「俺も、大好きだよ……」
「――ふぇ?」
「だから、うん……これからも一緒にいて下さい」
恥ずかしそうにしながらも、たっくんはしっかりと言葉にしてくれた。
だからわたしは、嬉しさから一気にボルテージが上限を突破してしまう。
自然と身体が動き出したわたしは、そのままたっくんに抱きついていた。
「うん!ずっと一緒だよ!大好きっ!」
そしてわたしは、今度こそ思っている言葉を素直に言えた。
視線を上げると、そこには嬉しそうに微笑むたっくんの顔があった。
「ありがとう、俺も大好きだよ」
「えへへ、ありがとう。じゃあ、どこか寄り道していかない?」
「寄り道?うん、いいよ」
こうして寄り道をすることになったわたし達は、久々にゲームセンターへ遊びに行くと、プリクラを撮ったりゲームをしたり色々楽しんだ。
そして最後に立ち寄ったクレーンゲームには、もうエンジェルガールズの雑クッションは無くなってしまっていたけど、代わりにDDGの雑クッションが置かれていた。
そんなレアもの、バッチリゲットして持ち帰ったのは言うまでもなく、その結果、わたしの『たっくん大好きコーナー』に新たな仲間が加わわったのであった。
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