188話「検索」

 新一年生の入学式、そして午前中の授業が終わった。

 朝のしーちゃんの一言もそうだが、そもそもしーちゃんがいなければ弁当の無い俺は、清水さんと一緒にしーちゃんと孝之の二人を待ちつつどこで弁当を食べようかと相談していた。


 しかし、流石にもう隣のクラスも授業は終わってるはずなのに、孝之としーちゃんの二人は全然姿を現さない。

 Limeではうちのクラスに顔出す話をしていただけに、何だろうと思いこっちから様子見に行こうかと清水さんと話をしていると、入り口の脇から頭だけ出してこちらを覗き込む二人の姿があった。


 そんな、左右対称にこちらを覗き込む孝之としーちゃんの謎行動に、俺も清水さんも思わず笑ってしまう。



「もう、二人とも何やってるのよ」

「いや、ちょっと」

「入り辛くて」


 清水さんの問いかけに、示し合わせたように完璧な掛け合いで返事をする二人。

 本当に、この二人は真顔で何をしているんだろうかとまた笑ってしまう。


 こうしていつもの四人合流した俺達は、とりあえず新しいクラスで人の席を借りるにも気が引けるため、また食堂のスペースを利用する事にした。



「新しいクラスはどうだ?」

「うん、一条くんいるし、まぁ何とかなりそうだよ。ね?」


 席へ着き、孝之の問いかけに清水さんは微笑みながら答える。

 そして俺に同意を求めてきたため、俺も「そうだね」と相槌をする。



「ちくしょー、卓也とクラス変われたらなぁ。三枝さんもそう思うよな!……って、三枝さん?」


 悔しがる孝之は、同意を求めるためしーちゃんに話を振る。

 しかし話を振られたしーちゃんには、その声は届いていなかった。

 一体何をしているのかと思えば、何やらスマホを片手に一生懸命調べものをしているようだった。



「えっと、しーちゃん?」


 これはまた何かやってるなと気になった俺は、恐る恐る声をかけてみる。


「……やっぱり無いかぁ」

「無いって何が?」

「――時間を巻き戻す方法」


 そう言って、自分のスマホの画面を見せてくれたしーちゃん。

 その画面には確かに、『時間 巻き戻す 方法』と打ち込まれており、どうやら本気でそんな調べものをしていたしーちゃん。


 思わず笑ってしまいそうになるが、本人は至って真剣なため笑いたい気持ちをぐっと堪える。



「ちなみに、いつに戻りたいの?」

「――流石にそんなに前には戻れないと思うから、せめてクラス発表見る前に」

「えっと……それだともうクラスは決定しちゃってるから、結果は同じじゃないかな」

「あっ――」


 俺のツッコミに、はっとするしーちゃん。

 そんなやっぱり天然なしーちゃんだけど、彼氏である俺としてはそこまで一緒になろうとしてくれている事は純粋に嬉しかった。


 だから俺は、そんなしーちゃんに話題を変えて話しかける。



「あ、今日も唐揚げ多めだね!」

「あ、うん。たっくん好きだと思ったから」

「ありがとう。また今日からしーちゃんの弁当食べれると思うと、正直めちゃくちゃ嬉しいよ」

「えっ?そ、そうなんだ。だったらわたしも、嬉しいよ――」


 照れながらも、先程までの落胆が嘘のように嬉しそうに微笑むしーちゃん。

 こうして、残念ながらタイムスリップは出来なかったしーちゃんだけど、それからは他愛のない会話を楽しみつつまた笑顔になってくれたのであった。




 ◇



 弁当を食べ終えた俺達は、また昼休みが終わるまで食堂で過ごす事にした。

 しかし、当然新一年生達も食堂を利用する人は多く、そうなるとここで普通に過ごしているしーちゃんの存在には当然のように目を引かれているようだった。


 みんな近くにこそ来ないものの、遠巻きにしーちゃんの姿を眺めながら感動していたり喜んでいたり様々な反応を見せていた。

 憧れのエンジェルガールズのセンターが同じ場にいるのだ、そうなってしまうのも無理は無かった。


 その事には、当のしーちゃんも当然気がついてはいるのだが、こういう場面では特に反応しないように決めているのだろう、だから俺達も特に気にしないようにしていた。


 だが、そんな中一年生の集団が俺達の座る席を横切ったかと思うと、その中心にいた女の子がしーちゃんの事を横目でじっと見ている事に気が付いた。

 それだけなら大して気にならないのだが、その子は他の子達の向ける視線と少し異なっており、その違いが俺は少し気になってしまう。


 例えるならそれは、好機の視線ではなく、まるで品定めをするような視線――。


 赤み掛かった髪に、特徴的なツインテール。

 彼女は見た目も可愛らしく、その輪の中心になるのも頷ける程の美少女だった。


 そんな彼女が、何故あんな視線を向けてくるのか気になったが、彼女達は立ち止まる事無くそのまま隣を通り過ぎて行ってしまった。



「たっくん?どうかした?」

「あ、いや、ごめん何でも無い」


 まぁ気にし過ぎかと、この場は流す事にした。

 しかし、俺はそんな彼女の正体をその日のうちに知る事となるのであった――。



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