第六章

187話「クラス分け」

 春休みが終わり、今日から久しぶりの登校日。


 俺はいつも通り駅でしーちゃんと待ち合わせをすると、一緒に学校へ向かう。



「今日から二年生だね」

「そうだね」

「あーあ、またたっくんと同じクラスだったらいいのになぁ」


 隣を歩くしーちゃんは、やはりクラス分けが気になるようで不安そうな表情を浮かべていた。

 それは俺も同じ気持ちだったため、二年も同じクラスになれたら良いなという、さながら合格発表へ向かう時のような気持ちで学校へと向かっていた。


 そして校門をくぐると、昇降口の前には人だかりが出来ていた。



「あ、一年生かな?」

「うん、そうみたいだね」


 真新しい制服を着た、何だか初々しい感じの人だかり。

 そんな光景を見ていると、俺も一年前は同じように新しい学校にドキドキしながら孝之とクラスを確認した事を思い出す。

 同じクラスに三枝紫音という文字を見つけた時はまさかなと思ったけれど、まさか本当に本人だと知った時は驚いたものだ。


 そしてそれは、新一年生達からしても同じであり、突然姿を現したしーちゃんを見てみんな驚いていた。



「あはは、目立っちゃってるね」


 注目を浴びるしーちゃんは、困りつつもそんな新一年生達に対して小さく手を振って応えた。

 するとそれだけで、新一年生達は一斉に湧き上がった。


 そんな、少し手を振るだけでこんな風に多くの人を動かしてしまうしーちゃんは、やっぱりそういう存在なんだよなと再認識させられる。


 そして俺達は俺達で、壁に貼られた新しいクラス分けを確認する。

 隣でしーちゃんは、神にお祈りするように目を閉じながら両手をぎゅっと握っていた。


 俺も緊張しながら、二年一組から順に自分達の名前を確認していく。


 一組は、ないか――。


 そして二組、三組と確認していくと、四組の所に自分の名前があった。


 あとは、同じクラスにしーちゃんの名前があるかだけど――そう思い、俺は女子の名前を確認していく。



「ない……」


 しかし、俺が見るより先にそんな言葉を呟くしーちゃん。



「わたし、五組だ……」


 なんとしーちゃんは、同じクラスではなく俺の一つ隣のクラスとなってしまったのであった。

 落胆するしーちゃんは、それはもう分かりやすく凹んでしまっていた。



「残念だけど、仕方ないね……」

「うん……」


 こうして俺達は、残念ながら二年生は別々のクラスになってしまったのであった。


 ちなみにしーちゃんは孝之と同じクラスで、俺は清水さんと同じクラスだった。

 お互い一人入れ替わる事が出来れば幸せだろうが、こればっかりは仕方のない事だった。




 ◇




 新しい教室へ入った俺は、自分の席へと着席する。

 名簿番号順の席順となっているため、俺は窓際の前から三番目の席だった。



「おはよう。まさかの隣の席だね」


 そう話しかけてきたのは、清水さんだった。

 遅れてやってきた清水さんは、なんと俺の隣の席だったのだ。

 思えば、こうして二人だけで会話をする場面はそんなに多く無かったため、何だか少し新鮮だった。



「おはよう。お互い別々になっちゃったね」

「そうね、でも一条くんが同じクラスで良かったよ」


 そう言って安心したように微笑む清水さんを見ていると、やっぱり清水さんは清水さんで凄い美少女なんだよなと思えた。

 その証拠に、新しくクラスメイトとなった男子達の多くが、そんな清水さんの姿に目を奪われているのが分かった。



「あ、ずるい!」


 すると、そんな俺達に声がかけられる。

 何事かと振り返ると、そこにはしーちゃんの姿があった。


 うちの教室へとやってきたしーちゃんは、奇跡的に隣の席になった俺と清水さんを見て、ずるいと文句を言い出したのである。

 しかし、そう言われてもこればっかりは偶然の巡り会わせだからどうしようもない。



「おはよう、紫音ちゃん」

「おはようさくちゃん。いいなぁ二人とも」

「あはは、でも紫音ちゃんは孝くんと同じクラスでしょ?」

「うん、そうなんだけど、山本くん人気だから男の子達と楽しそうにお話してたから」


 だからこっちのクラスに早速遊びにきたというしーちゃん。

 確かに孝之は人気者だが、それ以上に人気者なはずのしーちゃんがうちのクラスに足を運んでいるのは、少し変な感じだった。

 きっと新しいクラスのみんな、まだしーちゃんにどう接したらいいのかよく分かっていないのだろう。



「ねぇさくちゃん、お願いがあるの。席、変わって?」

「可愛く言っても無理なものは無理だよ」

「むー!」


 可愛くお願いするしーちゃんを、清水さんは軽くあしらう。

 そんな二人の仲睦まじいやり取りを見ていると、自然と笑みが零れてきてしまう。


 そして、そんな二大美女と呼ばれる美少女二人のじゃれ合う姿に、クラスの男子ならず女子までもぼーっと見惚れているのであった。



「ねぇたっくん!」

「ん?どうした?」

「お昼は、これまで通り一緒だからねっ!」

「う、うん、勿論」

「絶対に約束だからねっ!」


 そう言ってしーちゃんは、俺と約束を交わすとやっぱり悔しそうに自分のクラスへと戻って行った。

 そんな嵐のように去って行くしーちゃんに、俺と清水さんは一緒に笑ってしまう。



「本当に、一条くんは愛されてるね」

「はは、有難い限りです」


 こうして新しいクラス、残念ながらしーちゃんや孝之とは別のクラスになってしまったのであった。

 それでも、清水さんとはこうして同じクラスになれたし、今日からこのクラスで一年間頑張っていこうと俺は気持ちを切り替えるしか無かった。


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