184話「ホワイトデー②」

 教室へ入ると、お互い別れて自分の席へと着席する。

 そしてしーちゃんが着席するや否や、今日もクラスのみんながしーちゃんの元へと集まってくる。


 そんないつもの光景を横目に、俺はとりあえず鞄から教科書を取り出して机の中へとしまう事にした。

 一限目は数学だけど、昨日しーちゃんと課題がある事を思い出して慌てて一緒に片付けたことを思い出した俺は、ついニヤついてしまう。

 たった今クラスの中心でアイドルのように微笑むしーちゃんだが、昨晩は俺と一緒に必死こいて数学の問題を解いていたなんてきっと誰も思わないだろうなと思うと、そのギャップにジワジワくるものがあった。



「おはよう一条くん――え、何一人で笑ってるの?」


 そこへ、遅れて教室へとやって来た清水さんが挨拶をしてきたかと思うと、一人ニヤついている俺を見て若干引いていた。

 そんな清水さんだが、しーちゃんとタイプこそ違うが学校の二大美女と呼ばれているだけあって、今日も今日とて美少女っぷりを遺憾なく発揮していた。



「ごめん、ちょっと思い出し笑い。あっ、そうそう。清水さんちょっと待って」


 そう言って俺は、鞄からホワイトデーのお返し用の小包を一つ取り出すと、それを清水さんに手渡した。



「え?な、なに!?」


 清水さんはホワイトデーの事なんて忘れてしまっていたようで、いきなり俺から差し出された小包に露骨に驚くと、まるでアニメのようにそのまま固まってしまっていた。

 驚き過ぎでしょと言いたくもなるが、確かにいきなり俺からプレゼントを渡されたら今みたいなリアクションになるのも頷けた。



「いや、ホワイトデーのお返しだよ」

「――ああ、そっか。そういえば今日だったね。じゃ、有難く受け取るね。ありがとっ!」


 ようやく腑に落ちた様子の清水さんは、ニコッと微笑んでウインクをするとそのままお返しを受け取ってくれた。

 そんな清水さんの仕草に、クラスの男子達の視線が釘付けになっているのが分かった。


 清水さんは孝之の彼女だと分かっていても、それでも美少女である清水さんのその微笑みを前に、男子達は思わず釘付けになってしまっている感じだった。

 そんな清水さんが美少女なのは元々の話ではあるのだが、最近は以前にも増して美少女っぷりに磨きがかかっているように感じられた。


 それはきっと、しーちゃんが段々と自然体になっていっているのと同じく、清水さんは清水さんで孝之と付き合うようになってから明るくなってきたというか、もうかつての引っ込み思案な感じでは無くなってきているからだと思う。


 本当に、俺の周りには改めて考えなくても美少女だらけだよななんて思っていると、もう一人の身近な美少女である錦田さんが教室へとやってきた。

 そしていつものように隣の席へと座ると、「おはよう」と朝の挨拶をしてくる。


 だから俺は、丁度良いタイミングだと思いそんな錦田さんにもホワイトデーのお返しを渡すことにした。



「おはよう、錦田さん。はい、これ。ホワイトデーのお返し」

「――え?別にいらないって言ったのに」

「うん、そうだけどそれは悪いから、受け取ってよ」

「――まぁ、せっかく用意してくれたのなら、受け取ります」


 そう言って、ちょっと不本意そうではあるけれどちゃんとお返しを受け取ってくれた錦田さん。

 でも心なしか頬が赤いような気がするし、それに小刻みにブルブル震えているけれど、もしかして恥ずかしがっているのだろうか?

 確かにこんな公衆の面前で渡すのは悪かったかなと少し反省した。


 そして、そんな頬を赤らめる錦田さんの珍しい姿にクラスの男子達は、清水さんの時と同様にまた釘付けになってしまっているのであった。


 こうして、早速二人にお返しする事に成功した俺。

 残るお返し相手は、クラスのもう一人の美少女である三木谷さんだ。

 三木谷さんと言えば、文化祭をキッカケに健吾と付き合いだしてもう暫く経つが、二人は相変わらず友達の延長のような良い付き合い方をしているようだった。

 何でも好きに言い合っている二人には、ちょっと羨ましさすら感じてしまう程だ。


 どうせなら朝のうちに全部渡しちゃおうと思った俺は、朝のホームルームが始まる前にそんな二人の元へ行き、バレンタインのお返しを手短に渡す事にした。



「おはよう健吾、それから三木谷さん。えっと、はいこれ。バレンタインのお返し」

「わぁ!そう言えばそうだっけ!サンキュー一条!」


 お返しを手渡すと、三木谷さんは嬉しそうに受け取ってくれた。

 そして何故か三木谷さんはハイタッチを求めてきたため、俺は迷いつつもハイタッチを返した。


 そんな朝からテンションの高い三木谷さんの様子に、隣で健吾は楽しそうに笑っていた。


 こうして無事全員にお返しを済ませた俺は、三人とも全然反応が違った事に思わずクスッときてしまう。

 相変らず三人とも個性が強いよなと、やっぱり周りの女の子達はただ美少女なだけじゃないよなと思った。


 ちなみに、そんな美少女達の中でも、俺にとって一番の美少女なのは勿論しーちゃんだ。

 そんなベストオブ美少女に輝いたしーちゃんはというと、これまで俺がお返しを渡すところを全部しっかりとチェックしてきているのであった。

 ずっと気付かないフリをしていたけれど、相変らず人に囲まれつつもその隙間を縫ってしっかりと俺の事をチェックしてきていたしーちゃんは、やっぱりその中でも一番クセが強いのであった。


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