182話「ゲーム」

 課題を終えると、良い時間になっていたため先にお風呂を済ませる事になった。

 先にしーちゃんにお風呂へ入って貰うと、する事の無い俺は久々にゲームで遊んで暇をつぶす事にした。


 とは言っても特にやりたいゲームも無かった俺は、とりあえず有名レースゲームを起動させる。

 このゲームはオンラインで世界中の人と順位を競うという、シンプルながら純粋に面白くて昔から大好きだし、こういう時には持ってこいだった。


 こうして俺は時間を忘れてレースゲームに没頭していると、お風呂からあがったしーちゃんが部屋に戻ってきた。



「お待たせたっくん。――あれ?ゲーム?」

「おかえりしーちゃん。うん、久々にね」


 お風呂から上がったしーちゃんはトコトコと俺の隣へやってくると、寄り添うように隣に座ってくる。

 そして面白そうに俺がプレイするゲーム画面を一緒に覗き込んできた。



「すごい!上手だね」

「いやいや、レート低いしそうでもないよ」

「ううん、上手だよすごい!」


 本当にレートが低いから相対的に上手く見えているだけなのだが、それでも褒めてくれるしーちゃんにありがとうと返しておいた。

 こうして自分の彼女に手放しに褒められるというのは、悪い気はしないというか普通に嬉しかった。



「じゃあ、しーちゃんもやってみる?」

「え、できるかな?」

「簡単だから大丈夫だよ」


 次にお風呂に入らなければならない俺は、同じくしーちゃんも暇しちゃうといけないという思いもあってこのゲームのやり方を教えてあげる事にした。


 最初こそ全然上手く操作出来なかったしーちゃんだが、そこは生まれ持っての才能とでも言うのだろうか、ちょっと操作しているとすぐに慣れてきたしーちゃんは、最初の蛇行運転とは打って変わって順当にコースを走れるぐらいには上達していったのであった。


 そんなしーちゃんに感心しつつも、これならもう大丈夫かなと思った俺は代わってお風呂へ向かう事にした。



 ◇



 ゆっくりお湯に浸かりお風呂から上がった俺は、自分の部屋へと戻った。



「あ、おかえりたっくん」

「うん、ただいましーちゃん」


 部屋へ戻るとそこには、ゲームに没頭するしーちゃんの姿があった。


 ゲームと一緒に身体をくねらせつつ、「おっ」とか「よっ」という声を漏らしながらプレイする姿はただただ可愛い以外の何物でもなかった。

 まさかマッチングしている全国の対戦プレーヤーも、相手があの国民的アイドルしおりんだとは誰も思うまい。



「お風呂に入ってる間にまた上手くなってるね」

「そうかな?やってみると中々奥が深いねっ!」


 そう言いながら、コースに用意されているショートカットを見事に決めるしーちゃん。

 この短時間でこの上達ぶり、もしかしたらプロゲーマーも狙えるんじゃないだろうかと本気で思えてきてしまう。

 それぐらい本当に、しーちゃんは何をやらせても卒なくこなせてしまうスーパーマンならぬスーパーウーマンなのであった。


 ――いや、元々スーパーアイドルか


 それから暫く、隣でそんなしーちゃんにアドバイスをしながら一緒にゲームを楽しんだ。

 そんな何でもない時間も、何だか緩くて近くて幸せで溢れているのであった。




 ◇



 一頻りゲームを楽しんでいると、時間はあっという間に経過していて既に23時を回っていた。

 今日も朝から活動していた俺達は、流石に疲れから眠気に襲われる。


 隣でふわぁ~と欠伸をするしーちゃんは、握っていたゲーム機を下に置くと、そのまま俺の肩に自分の頭をこてんと預けてきた。



「もういい時間だし、そろそろ寝ようか」

「――うん、眠たいかも」


 こうして俺達は、特に何もいう事なく一緒に同じベッドの中へと入り部屋の電気を消した。



「えへへ、またたっくんのベッドだ」

「そんなに嬉しい?」

「勿論!たっくんの匂いがする」


 そう言って布団を被りスンスンと鼻を鳴らすしーちゃんに、あんまり嗅がないでよと俺は笑った。

 本当にこの週末一緒に過ごす中で、しーちゃんがどんどん駄目と言うか自由になっていってるような気がする。

 けれどそれは、嫌というよりむしろ嬉しかった。

 それだけ俺に対して自然体でいてくれているという現れだから、俺からしてみればそこには嬉しいという感情しか無かった。


 そして布団を被ったままのしーちゃんはというと、俺の手を取ってくっついてくる。



「――おやすみたっくん」

「うん、おやすみしーちゃん。布団被ったままだと苦しくない?」

「――うん、ちょっと苦しいかも――でも幸せ」


 眠たいのだろう、いつにも増してフワフワしているしーちゃんの顔に被さった布団を剥がしてあげる。

 するとまだ夜目ではっきりとは見えないが、既に寝る体制に入っているしーちゃんの姿を確認すると、俺も一緒に眠る事にした。


 本当にこの週末色々楽しむ事が出来たよなと起きた事を振り返りつつ、今もこうして隣にしーちゃんがいてくれる喜びと安心感に身を任せながら、俺も気が付くと一緒に眠りに落ちているのであった。


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