179話「ボウリング対決」

 ボールを持った俺は、レーンと向き合う。

 先程しーちゃんに綺麗なストライクを見せられた俺は、この勝負決して簡単なものでない事を悟る。


 でも俺だって負けられないよなと、集中しながらボールを構える。

 そして、昔の感覚を思い出しながら勢いよくボールを振り上げると、そのまま遠心力に任せてボールを転がす。


 放ったボールそのまま一番ピンに向かって真っすぐ転がると、勢いよく他のピンも弾き倒す。


 ストラーイク!


 そして先程と同じ、ストライクの音声が流れる。


 そう、実は俺、小さい頃からボウリングが得意だったりするのだ。


 小学生の高学年ぐらいの頃から、ボウリングにハマっていた親に連れられてよく遊びに来ていたこともあり、そのおかげで見る見る上達していった俺はアベレージ180ぐらいは狙えるようになっていた。

 まぁ特別上手いわけでもないが、それでもレンタルボールでここまで点数を出せたら中々悪く無い数字だと思っている。


 それでも、最近はやっていなくて中学ぶりのボウリングのため、今も変わらずあの頃のように点数を取れるかは正直怪しかった。

 そして相手は、何をやらせても卒なくこなせてしまうスーパーアイドルしーちゃんなのだ。

 やっていたからと言って、これが決して楽な戦いではない事は確かだった。


 ――それでも、俺はもうお願いする事決まってるからな


 だからこそ負けたくない俺は、初動でストライクを取り返せた事にほっと胸を撫でおろした。



「どう?負けないよしーちゃん」

「かっこい……コホン、望むところだよっ!」


 こうして俺としーちゃんの初めての真剣勝負は、お互いストライクからのスタートとなった。




 ◇



 早いもので、あっという間に10フレーム目がやってきた。


 現状僅かに俺の方が点数は勝ってはいるものの、10フレーム目までどちらが勝つか全く分からない展開となっていた。


 集中した様子のしーちゃんは、キッと気合を入れると勢いよくボールを転がす。

 そしてボールは1番ピンに吸い付けられるように真っすぐ転がると、一投目ストライクをもぎ取る。


 この辺は、流石の勝負強さと言えるだろう。

 きっとこれまで、アイドルとして俺の想像も出来ないような場面を何度も乗り越えてきたしーちゃんだからこそ、ここぞという時に必ずやり切る力があるように思えた。

 それだけ今のしーちゃんを見ていると、失敗するイメージが付かなかった。


 そして第二投も難なくストライクを取ったしーちゃんは、第三投目を構える。

 先程以上に集中した様子のしーちゃんは、小声で「よし」と気合を入れるとそのままボールを放つ。


 そうして放たれたボールは、先程と全く同じ軌道を辿るとそのまま一番ピンに吸い付けられるように衝突し、そのまま他のピンも全て弾き飛ばす。


 ストラーイク!


 こうしてしーちゃんは、なんと最終フレームを全てストライクで終えたのである。

 その快挙に俺は、思わず敵ながら立ち上がって拍手を送ってしまう。



「えへへ、全部ストライク取れちゃった」

「凄いよしーちゃん。この勝負勝ちたかったけど、絶望的かもね」

「なに?そんなに勝ちたかったの?」

「まぁね、もう決めてるから」

「そっかー、そんなにわたしにお願いしたい事があったの?」

「それは秘密。それにまだ、負けたわけじゃないからね」


 勝利を確信しておちょくってくるしーちゃんに、俺は笑って返す。

 そう、状況は非常に厳しいがまだ負けたわけじゃないのだ。


 ――それにここで負けたら、ちょっと格好悪いしね


 しーちゃんとのポイント差を確認する。

 先程のターキーで一気に得点差をつけたしーちゃんに勝つには、俺も二連続ストライクを出す、もしくはストライクのあとスペアを取る事だった。


 だからまずは、この一投必ずストライクを取らなければならない。

 俺は気合を入れると、思い切りよくボールを放った。


 ストラーイク!


 そして無事に、一投目はストライクを取ることに成功した。


 ――よし、ここでストライクを取れれば俺の勝ちだ


 そう再び気合を入れた俺は、二投目を放つ。

 しかし、綺麗に一番ピンにあたったものの運悪く二本だけ残ってしまった。


 つまりは、三投目このピンを全て倒せたら俺の勝ち。

 二本とも倒せなかったら俺の負けとなる。


 そんな状況を、しーちゃんも固唾を飲んで見守っていた。

 やはりしーちゃんだって負けたくないのだろう。


 ――でも俺だって、負けられない


 だから悪いけど、ここは勝たせて貰うよ!

 再び集中した俺は、狙いを定めて思い切りよくボールを放った。


 そのボールは残った二本のピンに吸い寄せられるように近付くと、前のピンに当たる。

 しかし当たりが浅く、ボールは二本目に当たることなくそのまま転がり落ちてしまう。


 だが、倒した前のピンが勢いよく弾き飛ぶと、その勢いのまま帰ってくると後ろのピンに当たる。

 そしてぐらついた最後のピンは反動で揺れると――――倒れた。



「やった!!」


 思わず喜びの声が漏れてしまう。

 そして電光掲示板び表示されたスコアを確認すると、しーちゃんに僅か1ポイントの差で勝利していた。


 パチパチパチ


 ギリギリながらも見事勝利した俺を、しーちゃんは拍手をしながら迎えてくれた。



「惜しかったなぁ、負けちゃった」

「あはは、これで彼氏としての面子を保てたかな」

「うん、かっこよかったよ」


 負けたけど悔いはないように、ニッコリと微笑んでくれたしーちゃん。

 だから俺も、そんなしーちゃんにありがとうと微笑み返す。



「でも、やっぱりたっくんは勝ちたかったんだね」

「そうだね、勝ちたかった」

「そっか、どんなお願いされるのかちょっと怖いけど二言は無いからね」


 そう言いつつ、俺に何を言われるのかちょっと楽しみにしている感じもするしーちゃん。


 こうして、突発的に始まった二人の初めての真剣勝負は、無事俺の勝利で終わったのであった。


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