178話「高校生らしい」
「今日は何しようかねー」
隣でぼそりとしーちゃんが呟く。
あかりんを見送り特にすることもない俺達は、リビングで二人くっつきながら一緒にテレビを見たりスマホをいじったりしながら過ごしていた。
しーちゃんはスマホで近隣のお店の情報を調べながら、これから行きたい場所を探しているようだった。
「何か、行きたいところ見つかった?」
「うーん、強いて言うなら、全部行きたいかにゃー」
そう言って、ねぇ見てここも美味しそうだよとスマホの画面を見せてくれるしーちゃん。
そんなしーちゃんは、家ではもう完全にゆるキャラモードで、こうしてお互い肩を寄せ合いながらのんびり過ごしているだけでも俺は十分幸せだった。
それはきっとしーちゃんも同じで、さっきから行きたいお店を探してはいるが本気で行きたそうにしているわけでは無かった。
それでも今日が今回のお泊り最終日な事もあり、ずっとこうしているのも悪くはないけれど、そろそろ何かしたいところでもあったため俺は一つ提案してみる事にした。
「そうだしーちゃん、今日は何て言うか、高校生らしいデートしてみない?」
「高校生らしい、デート?」
「うん、俺の思うになっちゃうけど、それでも良ければ」
「行きますっ!!行きたいですっ!!」
俺の提案に、挙手をしながら即答でオッケーしてくれるしーちゃん。
こうして昼ご飯前の丁度良い時間、俺達はデートに出かける事にした。
◇
家を出た俺達は、駅前の商店街へとやってきた。
そしてそこにある、一つのご飯屋さんへと入る。
そこは先程しーちゃんが見ていたイタリアンのお店で、確かに美味しそうな料理に俺も少し興味があったのだ。
そして、さっき見ていたお店に本当に来ることが出来たしーちゃんはというと、それはもうご満悦な様子だった。
さっき見ていた料理の数々に目をキラキラと輝かせながら、メニュー表を楽しそうに眺めていた。
「たっくんはどれにするのっ?」
「んー、そうだなぁ。このペスカトーレのセットにしようかな」
「あ、いいねっ!じゃあわたしは、こっちのボンゴレビアンコにしようかな」
こうして注文をした俺達は、料理が届けれられるのを待つ。
ちなみに今日のしーちゃんは、あかりんが近くにいるわけでも無いため一切変装なんてしていない。
そうなると当然、周囲の視線はこちらへと集まる。
まさかの突然現れた国民的アイドルの存在に、店員さん含めみんな分かりやすく驚いているのが分かった。
でもそんな事にはもう慣れているしーちゃんは、気にせず俺との時間を楽しんでくれている。
だから俺も、そんな周囲の事はもう気にせず今日のデートを純粋に楽しむことにした。
そして料理が届けられると、確かに評判通り美味しそうだった。
一口食べてみると味も美味しくて、良いお店を見つけられた事に喜びを覚える。
「美味しい!たっくんのも美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「本当?じゃあ一口頂戴?」
可愛くおねだりしてくるしーちゃん。
俺の注文を聞いてから自分の注文を決めた辺り、初めからそのつもりだったのだろう。
こうしてお互いのお皿を交換した俺達は、お互いの注文した料理を一口食べてみる。
すると確かに、ボンゴレはボンゴレでさっぱりしていてとても美味しかった。
そしてしーちゃんはと言うと、満足そうにペスカトーレをモグモグしており、そんなモグモグする姿も何だかとても愛おしかった。
こうして一緒に昼ご飯を食べているだけで、俺はもうお腹も心も幸せでいっぱいなのであった。
◇
俺の思う高校生らしいデートと言ったら、それはやっぱりボウリングだった。
ボウリングなんて中学時代孝之と遊びに来て以来だが、ご飯屋さんを出た俺はしーちゃんを連れて近くにあるボウリング場へとやってきた。
ちなみに今日は最初からボウリングをするつもりだったから、しーちゃんにはスカートではなくパンツを履いてきて貰っている。
それは勿論、ボールを転がす際のハプニングを防止するためだ。
いきなり俺に服装について言われたしーちゃんは不思議そうにしていたけれど、言われた通り今日は白のスキニーパンツを履いてきてくれている。
――そんなハプニングは必要ないし、しーちゃんの純白を誰かに見られるわけにはいかないからな、うん
「わー、久しぶり!小学生ぶりかなぁ」
ボウリング場へやってきたしーちゃんはというと、久しぶりに来れた事に無邪気に喜んでいた。
こうして喜んでくれるだけで、俺は連れて来て良かったなという気持ちになってくる。
アイドルを辞めて今は普通の女の子として、こうして色んな経験をさせてあげられているという実感が、俺は嬉しくて堪らなかった。
そして手続きを済ませた俺達は、早速ボウリングを開始する。
靴を履き替えボールを選ぶと、画面には先程の手続き時に書いた名前が表示される。
『しおん』
『たくや』
ただ名前をひらがなで書いただけだが、何だかそれがシュールで可笑しくて、思わず二人して笑ってしまう。
こうして早速、二人きりのボウリング対決がスタートとなった。
「ねぇたっくん、せっかくだから賭けでもしない?」
「賭け?いいけど、何を賭けるの?」
「んー、そうだなぁ。じゃあ、負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くっていうのでどうかな?」
「ふーん、面白そうだね。いいよ、やろうか」
しーちゃんのそんな提案により、急遽俺達は賭け勝負をする事となった。
負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くか――負けるつもりはないし、しーちゃんに何を聞いて貰おうか考えとかないとな。
まぁ確かに、どうせボウリングするならそういう賭けとかした方が面白いよなと思いながら、俺はしーちゃんの第一投目を見守った。
久々と言っていたしーちゃんだけど、元々運動神経が抜群に良い事もあり軽やかなフォームでボールを転がすと、そのボールは吸いつけられるように一番ピンとぶつかる。
ストラーイク!
そんな音声と共に、電光掲示板に表示されるストライクの文字。
そして、第一投を投げ終えたしーちゃんは、完全なるドヤ顔で不適に微笑みながら席へと戻ってくる。
「――さて、たっくんに何を聞いて貰おうか今から考えておかないとだね」
既に勝ちを確信している様子のしーちゃん。
どうやら俺は、三枝紫音という存在が何でも出来るスーパー超人だという事を、今の今まで忘れてしまっていたようだ。
女の子だからと侮ってはいけない相手だと、俺は勝負を受け入れてから再認識させられるのであった。
――だがこの戦い、負けるわけにはいかない!
そう覚悟を決めながら、俺はボールを手にしてレーンへと向かうのであった――。
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