175話「配置」
「寝たら明日がやってくると思うと、何だか寝たくなくなるわね」
時計を見ると23時過ぎ。
今日は朝から行動している事もあり、流石に眠たくなってきたためそろそろ寝ようかと話していると、あかりんが苦笑いをしながらそんな事を呟いた。
あかりんの言っている事は正直凄く良く分かる。
俺も以前は、日曜日の夜になるとまた月曜日がやってくるんだと思って、若干気が重たくなっていたから。
まぁそれも高校生になってからは、ずっと側にしーちゃんが居てくれるおかげで苦痛では無くなっているわけだけど。
それでも、あかりんからしたら今日という日は次いつやってくるか分からない程貴重な一日であり、そうして今日を終わらせたくないと思ってしまう気持ちは分かるし、こればっかりは仕方ないよなと思った。
それは俺だけでなくしーちゃんもきっと同じで、そんな言葉を漏らすあかりんに嬉しそうに抱きつく。
「また、いつでも遊びにきてくれて良いんだよ」
「――ありがとう、そうするわ」
「うん、あかりんはいつも本当によく頑張ってるよ」
まるで子供をあやすようなしーちゃんのその一言に、嬉しそうに目を瞑るあかりん。
ずっと一緒に活動してきたしーちゃんの言葉だからこそ、気持ちもちゃんと伝わったのだろう。
「ごめんね、紫音。じゃあわたしも眠たいし、そろそろ寝ましょうか」
「うん、明日その分早起きしよ!」
「そうね」
そう言って微笑み合うと立ち上がる二人。
そんな二人の仲睦まじいやり取りを、俺は何だか割り込むのが悪い気がして大人しく見守っていた。
こうして俺達は、明日に備えて今日の所はしっかりと眠ることにしたのであった――――なんて綺麗に、この場が収まるはずがなかった。
何故なら、最後に大事な事が一つ残っているからだ。
「で、どうやって寝る?」
リビングから寝室へ移動すると、あかりんが俺達二人を振り返ってそう口にする。
そう、昨日は俺としーちゃん二人きりだったから良かったが、今日はあかりんも一緒に眠るのだ。
どう考えても同じベッドに三人は寝れないし、そもそも俺とあかりんが同じベッドで横になるなんて絶対アウトだろう。
そんな、どう考えても俺が女の子の間に割り込んでいるようなこの状況に、俺は慌てて提案する。
「今日は俺が布団で寝るから、二人はベッドで寝たらいいんじゃないかな。布団ちょっと離して敷くしさ」
女の子二人がベッドで寝て、俺が布団で寝る。これが一番妥当だろう。
あかりんが気にするといけないから、ちょっと離れて布団を敷いておけばよっぽど問題ないだろうと配慮もしておいた。
「それだと、たっくん寂しいじゃない?」
しかし、あかりんはそんな言葉を口にする。
そして隣のしーちゃんも、そんなあかりんの言葉に力強くうんうんと頷く。
「いや、でも流石に不味いような……」
「じゃあ、わたしがたっくんと布団で寝ます!」
「いや、だったらわたしが布団で寝たら良くない?」
そして、俺と一緒に寝ると言い出すしーちゃんを受けて、だったら自分が布団で寝るからいいよと言い出すあかりん。
当然俺は、日々頑張っているあかりんを布団で寝かせたくは無いからすぐにその申し出を断る。
――あ、これ無限ループになるやつだ
結果、お互いがお互いを気遣う形で話がループしてしまうのであった。
「これじゃ決まらないわね。――あ、じゃあわたしとたっくんが一緒にベッドで寝る?」
「 駄 目 で す 」
当然冗談だろうが、あかりんがそんな言葉を口にすると、それだけは食い気味で却下するしーちゃん。
そんな、俺の事になると全く冗談が通じなくなるしーちゃんに、あかりんは呆れつつも「冗談よ」と笑った。
「じゃあ今日は、たっくんの提案通りわたしとあかりんがベッド、それでたっくんには申し訳ないけどお布団で寝て貰うで良いね」
そして最終的には家主であるしーちゃんの決定で、ようやく寝る配置が決定したのであった。
押し入れから布団を取り出し、ベッドの横に敷く。
そして俺が布団の中に入ったのを確認したしーちゃんは、そのまま部屋の電気を消す。
「紫音ー」
「もう、あかりん暑いよ」
「いいじゃないウリウリー♪」
「もうっ、くすぐったいってば」
すぐに眠るかと思いきや、ベッドの中でじゃれ合い出す二人。
そんな二人の仲睦まじいやり取りを聞いていると、何だかこっちまで和んでくる。
「あんたやっぱり、たっくんと寝たかったんじゃないの?」
「んー、理想は三人で川の字かな」
「なによそれ」
「でもそれは物理的に難しいので、わたしはあとでトイレ行った帰りにたっくんの布団に潜り込む作戦を企てております」
「それを今言っちゃうのね」
あかりんのツッコミで、笑い合う二人。
そのあかりんのツッコミには全くもって同意だった俺は、そうかこのあとしーちゃんがこの布団に潜り込んでくるのかと思うと、何だか期待と気恥ずかしさでドキドキしてしまう。
「じゃあ、わたしもあとで潜り込むかな」
「駄目です」
「良いじゃない、減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃないし、減るから」
「え、何が減るの?」
「それは勿論」
「勿論?」
「たっくんの、ぬ・く・も・り♪」
そのしーちゃんの謎の一言に、あかりんだけでなく俺まで吹き出して笑ってしまう。
「もう!なんで笑うのよ」
「いや、ごめん紫音。流石に今のは可笑しいってば。ねぇたっくん」
「そうだね、ごめんしーちゃん」
謝るものの、中々笑いが収まらない俺とあかりん。
そんな俺達につられたのか、しーちゃんも可笑しくなったのか一緒に笑い出す。
こうして、暗闇の中他愛の無い会話を楽しんでいると、気が付いたら三人とも眠りに落ちていたのであった。
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