173話「カレーと共に」

「自分達で作った料理って、美味しいわね」


 そう言って、美味しそうにカレーを頬張るあかりん。

 普段こうしてゆっくり家でカレーを食べる事も無いのだろうと思うと、そんなあかりんを見ているだけで何だか嬉しくなってくる。



「あかりんが切ってくれたお野菜、丁度良い大きさで食べやすいよ」

「何よ紫音、もしかして褒めてくれてるの?ありがとっ」

「大変よくできました」


 にっこりと微笑み合う美少女二人。

 そんな尊い二人の姿を間近で見られているだけで目の保養だった。


 ちなみに今日は、リビングのテーブルでテレビを見ながら一緒にカレーを食べている。

 しのぶんが声優をしているアニメが終わると、今度は見慣れない歌番組が始まった。



「そっか、今日Sラボの日か」

「あ、これSラボだったんだ」

「へぇ、たっくんも知ってるんだね。わたし達、この番組何度か出た事あるのよ」


 番組のセットが変わっていて気付かなかったが、どうやら今やっているこの番組はSラボだったようだ。

 Sラボと言えば、言わずと知れた若者を中心に人気の音楽番組だ。

 前は平日に放送していたけれど、どうやら放送日時が変更になったようで気付かなかった。


 とりあえず、知ってるかと知らないかで言えば普通に知ってるし、なんならこの番組のおかげで俺はアイドルしおりんの存在だって知る事が出来たのだ。



「土曜日のゴールデンタイムになって、増々人気番組って感じね。次の新曲でまたわたし達出る予定だから、そしたら二人とも見てよね」

「凄いね、何だか今こうして一緒にカレー食べてるのが嘘みたいだよ」

「あはは、確かに一緒にカレー食べるとか握手券何枚分って感じよね」

「はい!わたしはたっくんに握手券使いたいですっ!」


 お腹を抱えて笑うあかりんと、手をビシッと挙げながら何故か逆に俺と握手をしたがるしーちゃん。

 別に俺なんかで良ければ握手ぐらい何時でもしてあげるし、ふとコンビニでお釣りを受け取るしーちゃんのことを思い出した。


 そんな国民的アイドルの自由過ぎるオフの姿に、俺はもう笑うしかなかった。



「あー笑った。まぁ、Sラボは芸人さん面白いし楽しいよりの仕事よね」

「あー、そうだね。たしかに楽しかった」


 一頻り笑って話を戻すあかりんに、しーちゃんはうんうんと頷いた。


 楽しいよりってことは、楽しくない仕事も当然あるのだろう。

 アイドルというのはいつも笑顔で元気なイメージがあるのだが、それが楽な仕事ではない事は容易に想像できるし、普段からそうじゃない事は今のあかりんを見ていれば分かる。


 じゃあしーちゃんはどうかというと、正直素のしーちゃんとテレビで見ていたしーちゃんにはそんなに差が無いように感じられた。

 そういう意味でも、本当にしーちゃんは天性のアイドルだったんだなと思う。



「俺が初めてエンジェルガールズを知ったのも、この番組なんだよね」

「へぇ、そうだったんだ。じゃあ、わたし達を初めて見てたっくんはどう思った?」


 どうだったかなと、俺はその時の事を思い出しながら言葉にする。



「みんな可愛いなって思ったよ。そりゃ人気が出るわけだって納得もしたかな。それで、歌って踊るエンジェルガールズを見ていたら気になっちゃって、全員の名前を覚えたよ」

「た、たっくんはその時、誰が一番良いって思った!?」


 素直に当時の事を話すと、しーちゃんが食い気味に質問してくる。

 緊張したような必死なような様子のしーちゃんと、面白そうに視線を向けてくるあかりん。


 そんな美少女二人に注目されながらも、俺は素直に答える。



「それは勿論、しおりんだよ。あかりんやみんなも凄く可愛いけど、それでも俺はきっとあの時からしーちゃんに惹かれていたんだと思う」

「たっきゅん……」


 そう素直に答えると、しーちゃんは拝むように手を合わせながらその目をうるうるとさせていた。



「はいはい、知ってましたー。良かったね紫音」

「うんっ!あかりんすまんっ!」

「調子に乗るな」


 あかりんのツッコミで、三人一斉に吹き出すように笑った。

 こうして三人仲良く食べたカレーは、確かにあかりんの言う通り普段食べるカレーよりとても美味しく感じられたのであった。




 ◇



 カレーを食べ終えると、俺はいつも通りお礼に食器の洗い物をする。

 いつもなら後ろにくっ付いてくるしーちゃんだが、今日はあかりんがいるから一緒にリビングで楽しそうにお喋りをしている。


 そんな、まるで本当の姉妹のように仲睦まじい二人の姿を見ていると、見ている俺まで楽しいというか嬉しい気持ちになってくる。

 普段のしーちゃんよりもナチュラルに感じられるのは、相手があかりんだからだろう。

 長い間、アイドルという同じ土俵で苦楽を共にしてきたからこそ、友達以上に深まる仲がきっとあるのだろう。

 だからこの二人は今でもこれ程仲が良いんだろうし、お互いこうして気も許し合っているのだろうと思うと、俺はそれだけで嬉しさが込み上げてくる。



「ねぇたっくん!あかりんとお風呂入って来てもいい?」

「え?あ、うん。俺の事は気にしないで良いから、どうぞ二人でごゆっくり」

「ごめんねたっくん。あっ、でもたっくん?現役アイドルのお風呂シーンが見られるからって、覗いちゃ駄目よ?」

「えー、わたしはたっくんなら平気だよ?」

「覗かないからっ!は、早く行きなって」


 覗くなと言いつつ誘うような素振りをするあかりんと、いつもよりご機嫌なせいか無邪気にオッケーしてくるしーちゃん。

 そんな誘ってくる二人を前に困惑した俺は、今回ばかりは流石に取り乱してしまう。



「たっくんも可愛いとこあるじゃない」

「でもたっくん、わたしは本当にね――」

「はいはい、行くよ紫音。じゃあたっくん、悪いけどお先に」

「う、うん、行ってらっしゃい」


 こうして、あかりんは若干暴走気味なしーちゃんの腕を引っ張りながら、一緒にお風呂へと向かって行ったのであった。


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