166話「先へ」
「じゃあたっくん、これからお風呂行くけど一緒に入る?」
立ち上がったしーちゃんは、さも当然のようにそんな事を言ってきた。
でも恐らくこれは本気じゃなくて、タンスの時の下りと同じで俺をおちょくっているだけだろう。
だから俺は、そんなしーちゃんに微笑み返しながら迷わず返事をする。
「いいよ、行こっか」
「ふぇ!?」
「どうしたの?行くよ?」
そう言って俺も立ち上がると、しーちゃんの手を取って歩き出す。
するとしーちゃんは、案の定あわあわと慌てながら俺に引っ張られていた。
「あ、あのっ!たっくん!」
「ん?どうした?」
「いや、その、ほ、ほほほ本当に入るの!?」
「え、そうだけど?」
さも当然なようにそう答えると、元々赤かったしーちゃんの顔が茹ダコのように真っ赤に染まっていく。
そしてアニメのように目を回し出したしーちゃんは、慌ててその頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!まだ心の準備がっ!!」
「――冗談だよ」
「えっ?」
「しーちゃんがおちょくろうとしてきたから、俺もおちょくってみただけ、ごめんね」
「も、もう!たっくんのバカ!!」
俺が笑ってネタばらしをすると、怒ったように俺の胸元をポカポカと叩いてくるしーちゃん。
そんな様子も可愛いなと思いながら、俺はごめんごめんと頭を撫でる。
「じゃ、お先にどうぞ」
「うう、分かった行ってくる」
こうしておちょくり失敗したしーちゃんは、少し不満そうにしながら先にお風呂へと向かって行った。
しかし、さっきのやり取りでもし俺がネタばらししなかったらどうなってたんだろう――そんな事を考えていると、俺まで顔が熱くなってくるのであった。
◇
「あがったよ!たっくんもどうぞ!」
お風呂からあがったしーちゃんが、リビングへと戻ってきた。
しかし、俺はその声に振り返るとそのまま固まってしまう。
何故なら、しーちゃんが今着ているのはパジャマだけどパジャマじゃないからだ。
――ネグリジェ、だよな
そう、しーちゃんが今着ているのはシルクのような素材で出来た白いワンピースで、その露出の多さとはっきりと分かるくびれがとにかく刺激的で、前に見たパジャマ姿も可愛かったが最早訳が違った。
「どうしたの、たっくん?」
固まる俺に気が付いたしーちゃんは、近づいてくるとそう言って俺の顔を覗き込んでくる。
何故俺がこんな反応をしているのかは当然分かっているだろうから、これは完全にさっきの仕返しなのだろう。
でも今回のは、言動ではなく物理的に刺激が強いため、俺にはどうする事も出来なかった。
だからここは、素直に答えるしかない。
「――いや、その格好は反則だよ。刺激が強すぎる――」
「そ、そうかな」
「――うん、正直目のやり場に困る、かな」
「き、着替えてきますっ!!」
俺が素直に答えると、そう言ってしーちゃんは慌ててリビングから出て行ってしまった。
どうやら今回も、図らずともまた勝利してしまったようだ。
それにしても、今日のしーちゃんは今まで色々と行動してくるというかなんというか、もしかしてこれがしーちゃんの言う先に進みたいという事なのだろうか。
だとしたら、どういう事だろうか。
何故しーちゃんは、多分ちょっと無理をしながらもこんな事をしてくるのかが分からなかった。
でも絶対に理由はあるだろうし、きっとそれは俺にとっても足りないものなのだろう。
だから俺は、挙動不審なしーちゃんを楽しんでいるだけでは確かに今まで通りだよなと思い改める事にした。
何かは分からないけれど、確実に何かを変えようとしているしーちゃんに、俺もちゃんと向き合おうと思った。
◇
お風呂を頂いた俺は、リビングではなくまたしーちゃんの寝室へと向かった。
時間はもう既に21時を回っており、すっかり夜も深まっていた。
そして、前は敷いてくれていた布団が今日は敷かれておらず、どうやら敷くつもりも無さそうだった。
まぁ正直そこは、前から結局一緒に寝ているから今日もそうだろうと思っていたし、さほど驚かなかった。
ちなみにしーちゃんはまた相思相愛Tシャツに着替えていたため、俺もスウェットではなく相思相愛Tシャツに着替えさせられたのであった。
そして俺は、いつだかゲームセンターで取った非公式エンジェルガールズクッションを抱き抱えるしーちゃんの隣に座ると、一緒に映画を観る事になった。
恋愛、アクション、ホラーと色々あるけれど、「今日は一緒にこれを観るつもりだったの」と恋愛映画を一緒に観る事になった。
その映画は、離れ離れになった男女が紆余曲折あったけど最終的にはまた一緒になれてハッピーエンドという、骨組み自体は正直よくある話の映画だったのだが、それでも少しだけ俺としーちゃんに通じるものがあるというか、こうして高校生になって再会出来た事の喜びを思い出させてくれる映画だった。
「良かったね二人とも」
「そうだね」
感動したのだろう、隣でしくしくと涙を流すしーちゃんの頭を俺は優しく撫でてあげた。
こうして物語に入り込んで、感動したら涙を流せる純粋で優しいところも俺は大好きだったりする。
「再会した二人は、ちゃんと幸せになる事が出来たのかな」
「なれたさ、きっと。だって」
「だって?」
「もし俺がこの物語の主人公なら、もう絶対に彼女の事を離さないから」
そう、もし主人公が俺なら、絶対に彼女のことを離したりはしない。
今の俺が、絶対にしーちゃんの事を離したくないと思っているように――。
「わたしも――もしわたしもこの物語のヒロインだったら、絶対に離れたくない」
俺の答えを聞いたしーちゃんは、そう言ってぎゅっと抱きついてくるのであった。
そして、時計を見ると0時前。
映画の余韻を引きずりつつも、今日はそろそろ一緒に眠る事にした。
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