165話「三枝紫音はいちゃつきたい」
「これ、マジで着るの……?」
「モチのロンだよ!」
食事を終えた俺達は、またテレビを見ながらゆっくりしていた。
しかしトイレから戻ってきたしーちゃんが、ジャジャーン!と言ってTシャツを広げ出した。
同じTシャツが二着。
どうやらしーちゃんは、それを着てペアルックがしたいようだ。
別に俺も、ペアルック自体は部屋で二人きりなわけだし全然しても構わないのだが、問題は行為ではなくそのTシャツにあった。
「わたしが『相思』で、たっくんが『相愛』ね!」
そう、そのTシャツには、片方には『相思』とプリントされ、そしてもう片方には『相愛』とでかでかとプリントされているのであった。
――相思相愛Tシャツ
一体どこで買ったのか、その謎のTシャツを嬉しそうに広げるしーちゃん。
何故そんなTシャツを着たいのかは分からないが、今日は総じて様子のおかしいしーちゃんに従って、俺はちょっと渋々そのTシャツに着替えたのであった。
その結果、相思相愛を体現する俺達としーちゃん。
着替えてからもただテレビを見ているだけだというのに、客観的な自分がいてこの状況にじわじわと笑えてきてしまう。
「よし、たっくん!」
するとしーちゃんが、スマホ片手に俺にもたれかかってきた。
そしてそのままスマホを前に掲げると、ツーショット写真を撮影をする。
その結果、しーちゃんのスマホにはたった今撮影した俺としーちゃんが映し出される。
そんな二人の胸元には、勿論『相思相愛』の文字がでかでか書かれていた。
俺はその何とも言えないシュールさに耐え切れず吹き出してしまう。
ちょいちょい出るしーちゃんのこうした奇行には、俺はその度に笑いのツボを刺激されてしまうのであった。
「ねぇ、あかりんに送っていい?」
「え、これ送るの!?」
「ダメかな?」
「いや、ダメじゃないけど……ちょっと恥ずかしくない?」
「恥ずかしく無いよ!相思相愛だよ!」
「――そっか、じゃあいいよ」
そうだね、相思相愛だもんね。
こうして本当にあかりん宛に、その謎写真を送りつけるしーちゃん。
そして当然、そんな謎写真をいきなり見せられたあかりんからは、メンバーみんなで笑った報告が返ってきたのであった。
◇
「たっくん、わたしは気が付いた事があります!」
「うん、何でしょう?」
急に「はいっ!」と手を挙げてそんな事を言い出すしーちゃん。
だから俺は、一体このタイミングで何に気が付いたのかと一応問いかける。
「わたしも演技やっておけばよかったと思いました!」
「その心は?」
「楽しそうだからですっ!」
凄く良い顔で、あまりに薄っぺらい理由を述べるしーちゃん。
まぁテレビドラマとかで活躍するしーちゃんも正直見てみたかった俺は、それならとスマホをいじる。
「じゃあ、今やってみる?」
そう言って俺は、たった今検索した二人用のフリーの台本を見せる。
「え、楽しそう!やってみよ!」
速攻で食いつくしーちゃん。
こうして二人で、急遽ぶっつけ本番の声劇を始める事となった。
ちなみに俺がマイケルという二枚目の男役で、しーちゃんがマリーというツンデレの女役という配役となっている。
「ねぇマイケル、貴方はわたしのどこが好きなの?」
「勿論、君の全てさ」
「ふぇっ!?」
「しーちゃん?」
「ご、ごめん。えっと――そんなの答えになってないわ。もっと具体的に教えて?」
「君のその真っすぐな瞳が好きだ。自分をしっかり持っていて、誰にも流される事の無い芯のあるその性格が好きだ。それから、いつも俺の隣に居てくれる君の事が、俺は好きで好きで堪らないんだ」
「――ッ!!」
「ん?しーちゃんの番だよ?」
「あっ――ふ、ふんだ!そんな言葉だけじゃ、信じられないわ!」
「じゃあ、これならどうかな」
そう言って俺は、しーちゃんにキスをする。
台本には本当にそう書かれているのだが、これは声劇だから本当にする必要は無い。
だからこれは、完全なる俺の悪ノリだった。
「――たっきゅん」
「俺はマイケルだよ」
その結果、演技どころでは無くなったしーちゃんが抱きついてきた事で、突発の声劇はすぐに終了したのであった。
「わたしは下手っぴだったけど、たっくんなら本当に俳優になれそうだね」
「まさか、俺には無理だよ」
「ううん、そんな事ないよ。さっきの凄く上手だったし、ドキドキしたもん」
「それは、相手がしーちゃんだったからだよ。他の子相手じゃ無理だから」
「――たっきゅん」
嬉しそうに、さらにぎゅっと抱きついてくるしーちゃん。
こうしてやっぱり俺達は、相思相愛なのであった。
ちなみにさっき選んだ台本のタイトルは『キザな二枚目男が、ツンデレ女を即落とすだけの台本』というものだった。
これもまた、普通のより面白そうだと思った俺の完全なる悪ノリのチョイスだったわけだが、可愛いしーちゃんが見られたので選んで正解だった。
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