156話「二人きりの時間」

「たっくんなら、どれがいい?」


 散歩を終えて、今は部屋でしーちゃんと二人きり。

 しーちゃんは帰りにコンビニで買ったファッション雑誌のページを捲りながら、俺の好みを聞いてくる。



「んー、このスカートとか可愛いんじゃないかな?」

「これね、うん、可愛いね!」


 そして俺が答えると、しーちゃんはその全てに嬉しそうに反応をしてくれる。

 そんな、雑誌を広げながら俺が好みを答えるというやり取りを続けながら、二人でのんびりと過ごしている。


 雑誌を読むしーちゃんを後ろから抱きしめながら座るという、所謂ラッコ座りの状態で密着しているおかげで、しーちゃんの体温が肌を伝って感じられる。


 そんな二人きりの時間が、とにかく心地よかった。

 昨日からずっとこうして一緒に居られる事で、ただただ幸せに満ち溢れているのであった。



「あっ」


 雑誌のページを捲るしーちゃんは、何かに気が付いて小さく声を漏らした。

 何だろうと思いながら俺も雑誌に目を向けると、そこには恋人特集が載っていた。


 それがただの特集なら気にする事も無いのだが、どうやらその内容とは恋人の興味を引くためのノウハウを特集しているようで、しーちゃんは一瞬雑誌を閉じようとしたが思い留まった様子で、そのまま雑誌を食い入るように読み続けた。

 しかし、読んでいるだけで恥ずかしいのか、見る見るうちに耳が赤く染まっていくのがなんとも可愛らしい。



「……なるほど」

「なるほど?」

「た、たっくん、疲れてない?」

「え?いや、別に――」

「疲 れ て る よ ね ?」

「……あ、うん、そうかもしれない」


 しーちゃんの圧に気圧された俺は、言う通り疲れている事にした。

 するとしーちゃんは、雑誌で口元を隠しながらベッドの方をちらちらと見る。



「――じゃ、じゃあ、ベッドでうつ伏せで横になって?」

「えっ?横に?」

「いいからっ!」


 珍しく強引なしーちゃんは、そう言って俺を半ば強制的にベッドで横にならせた。

 一体雑誌に何が書いてあったかは分からないが、言われた通り横になる俺まで今から何が始まるのかドキドキとしてきてしまう。



「――じゃあ、いきますっ!」


 すると、気合を入れるようにそう宣言したしーちゃんは、なんとそのまま俺の上に跨って乗っかってきた。


 ――え?何これ!?


 突然の行動に戸惑う俺。

 そしてしーちゃんは、そっと俺の腰に手を置いたかと思うと――なんと、そのまはま優しく俺の腰を揉みだしたのである。


 ――これは、誰がどう考えてもマッサージというやつだよな


 そう、しーちゃんはこうしてマッサージをするために俺を横にならせたのであった。

 何故いきなりこんな事になったのかと言えば、それは勿論さっきの雑誌に何か書いてあったからだろう。


 まだ高校生の俺は、生憎身体が凝るという感覚がイマイチ分からないのだが、それでも地肌にしーちゃんの手が触れるこの感触は少しこそばゆくて心地よかった。


 そして何より、俺のお尻の上に座るしーちゃんの柔らかい感触が、俺の男心を刺激する。


 ――この密着度、添い寝とは違ったドキドキが凄い


 そう戸惑いつつも、俺はどうしていいか分からず身体を揉まれ続けた。



「――ど、どうかな?気持ちいい?」

「う、うん、気持ちいいよ……」

「そ、そっか」


 表情は見えないけれど、嬉しさが言葉に滲み出ているしーちゃんは、それからも暫く俺の身体を優しくマッサージしてくれた。


 そしてどれぐらい揉まれていただろうか、マッサージを終えたしーちゃんは、そのまま身を寄せてそっと俺の耳元で囁く。



「――じゃあ、交代」

「――え?」

「――次はたっくんに、マッサージして欲しいな」


 耳元で囁かれるその言葉に、俺の鼓動は一気に高鳴る――。


 ――俺が、しーちゃんをマッサージ?


 ――いや、待て待て待て。

 それって大丈夫なのか?と困惑していると、しーちゃんはそのまま俺の隣で同じようにうつ伏せで横になった。


 そして赤く染まった顔で、俺の顔を覗き込んでくる。

 どうやらしーちゃんは、本気で俺にマッサージをして欲しいようだ……。



「ほ、本当にいいの?」

「――うん、お願い」


 もう一度確認するが、しーちゃんは恥ずかしそうに小さく頷いた。

 だから覚悟を決めた俺は、起き上がるとさっきしてくれたのと同じようにしーちゃんの上に跨った。



「い、いくよ?」

「――うん」


 俺はそっと、しーちゃんの腰に触れる。

 そして、さっきしてくれたのと同じように俺も優しく腰を揉んだ。



「あぅ……たっくん、上手だね……」


 すると、俺のマッサージが良かったのか、気持ち良さそうにそう小さく言葉を漏らすしーちゃん。

 しかし、その言葉だけ聞くと何だかとてもいけない事をしているような気がしてきて、俺の心臓の鼓動はあっという間にドクドクと加速していく――。


 髪の間から覗くしーちゃんの耳は真っ赤に染まっており、しーちゃんはしーちゃんで恥ずかしがっているのが見て分かる。


 そんな状況を前に、流石にこれは理性が飛びそうになるというか、色々と不味い気がした俺は咄嗟に手を止めた。



「は、はいっ!終了っ!」


 そして、最早限界スレスレとなった俺はそう言って立ち上がろうとしたのだが、そんな俺の服の裾をしーちゃんはぎゅっと握ってきた。



「し、しーちゃん!?」

「――マッサージはもういいから、もうちょっと」


 少し潤んだような瞳でもうちょっとと訴えかけてくるしーちゃんからは、直視するのも危険な程の妖艶さまで感じられた。



「――もうちょっと、一緒にいて」


 その言葉に抗えるはずもない俺は、言われた通りしーちゃんの隣で一緒に横になった。

 すると、それに満足したのか安心したのか、しーちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


 こうして俺達は、晩御飯の時間まで二人で添い寝をしながら他愛ない会話を楽しんだ。

 会話をしながらしーちゃんのプニプニとした柔らかい頬っぺたをつついているこの時間は、何よりも幸せだと思えたのであった。


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