154話「散歩②」

 クロワッサンを食べ終わったが、行く当ても特に無いし俺達は何となくそのまま公園のベンチに座り続けた。

 今日は特に予定も無いため、こうしてゆっくりと過ごす休日というのも悪くはなかった。


 公園で子供達が走り回って遊んでいる光景を眺めながら、二人でこれからどうするかを話し合う。



「しーちゃん、何かしたい事とかある?」

「んー、特に思いつかないかなぁ」

「そっか、俺も考えてるんだけど、この辺他に何があるわけでも無いからなぁ」

「でも、こうしてるだけでも楽しいよ?」


 俺がこれからの案を考え出すと、しーちゃんはそう言って微笑んでくれた。

 それは俺も同じ気持ちのため、そうだねと微笑み返す。



「――あの、た、たっくんはその」

「ん?どうした?」

「えっと――子供は何人欲しいとか、あ、ありますかっ?」

「えっ!?こ、子供!?」


 急な挙動不審に何事かと思えば、しーちゃんはいきなり子供は何人欲しいかなんて聞いてきた。

 そんないきなりの踏み込んだ質問に、俺まで思わず挙動不審になってしまう。


 きっとしーちゃんは、今目の前で走り回る子供達の姿を見てそんな事を考えてしまったのだろう。


 しかし、子供か――もし、しーちゃんとこのまま結婚して子供が出来るとしたら、どうなんだろうと考えてみる。


 ――駄目だ、そんなの幸せ過ぎてよく分からない


 しーちゃんと一つ屋根の下幸せな家庭を築いている姿をイメージするだけで、顔が熱くなっていくのを感じてしまう。


 だから俺は、一先ず客観的に考えてみる事にした。


 俺自身一人っ子な事もあるから、やっぱり兄弟ってものには憧れを抱いて生きてきた自分としては最低でも二人は欲しいかなって思う。


 俺には彩音さんという姉のような存在がずっと近くに居てくれたから、幸い他の一人っ子達より寂しい思いをせずに済んだところはあると思う。

 でもいざ自分が親になった時、自分の子供に彩音さんのような親戚が出来るとも限らないし、やっぱり兄弟は居た方がいいと思う。

 そんな事をちょっと真面目に考えながら隣を見ると、しーちゃんはしーちゃんでイメージしているのか、少し頬を赤らめながら俺の返事を待っているようだった。



「――そうだね、やっぱり兄弟はいさせてあげたいから、二人は欲しいかな」

「ふ、二人!?そ、そっか!」

「うん、しーちゃんは何人欲しいとかあるの?」

「わ、わわわたし!?えーっと、その――」

「その?」

「――た、沢山欲しいです。たっくんとの子供なら――」


 挙動不審を通り越して、沸騰したヤカンのように顔を真っ赤にしながら小声で恥ずかしそうにそう答えたしーちゃん。

 そんなしーちゃんの言葉と様子に、俺まで顔が赤くなっていく。


 そして、やっぱりしーちゃんの中でのお相手は俺だったことが物凄く嬉しかった。



「――そ、そっか、沢山ね」

「う、うん、沢山――」

「――うん、いいね沢山。そしたらあの子達みたいに、毎日楽しく遊んで過ごせるだろうしね」


 まだ自立すら出来ていない自分には、子供を育てる事の苦労とか諸々は正直まだよく分からない。

 それでも、ただ今はそうなれたらいいなと思った。


 俺もしーちゃんも一人っ子だから、人一倍そう思ってしまっているのかもしれない。

 それでも、沢山の子供に囲まれながら過ごす事が出来たら、それはきっと幸せなんだろうなと思った。


 でも、沢山子供を作るってつまり――なんて事を考えたら、それは色々と不味い気がしたので今はそれ以上考えない事にした。

 言ってからしーちゃんも気付いたのだろうか、両手を頬に当てながらやっぱり恥ずかしそうにしているところは、やっぱり可愛かった。




 ◇



 公園を出た俺達は、近くにある母校の中学校までやってきた。

 別に何があるわけでも無いが、この辺にあるものと言ったらここぐらいだろうという事で近くまで来てみた。


 そんな久々にやってきた母校を見ていると、早いもので中学を卒業してそろそろ一年経とうとしてるんだなという実感が湧いてくる。

 しかし、一年経とうとしているにも関わらず、なんだかついこの間までここに通っていたようなどこか懐かしいような気持ちになってきてしまう。



「ここが、たっくんの通ってた中学校なんだね」

「うん、ついこの間までここに通ってたような気分だけど、もう俺の席はここには無いんだよなって思うと、ちょっと不思議な気分だよ」

「うん、分かるよ。あと二年で高校も卒業だし、学生で居られる時間って思ってたよりもあっという間なのかもしれないね」


 そんなしーちゃんの言葉に、確かにそうだなと思った。

 もうすぐ高校二年生になる俺達は、あと半年で高校生活も折り返しに差し掛かるのだ。


 この間中学を卒業したような気分だが、きっとそう思っているとあっという間に高校も卒業してしまうのだろう。

 だからこそ、俺はこれからの時間も大切にしようと思った。


 せっかくこうして、しーちゃんと同じ学校で今は同じクラスになれているのだ。

 こんな特別な環境、ただ何となく過ごすだけでは絶対に勿体ないから。



「あ、制服はセーラー服なんだ。可愛いね」


 部活終わりだろうか、丁度校門から複数の女子達が出てくるところだった。



「そうだね、中学はセーラー服だったっけね。しーちゃんはセーラー服じゃなかったの?」

「うん、ずっとブレザーだよ。たっくんは、セーラー服好き?」


 ニヤリと微笑みながら、試すように俺の好みを聞いてくるしーちゃん。

 しかし、好きかどうかと言われても、正直言って俺の中ではブレザーもセーラー服も完全にイーブンだった。

 何故なら、どちらともにそれぞれの良さがあるからだ。


 でも、しーちゃんが求めてるのはきっとそんな答えじゃないだろう。

 だから俺も、ニヤリと微笑み返しながら返事をする。



「――うん、好きだよ」

「ふーん、ブレザーよりも?」

「んー、どうかな?それを確認して、しーちゃんはどうするの?」

「え?それは勿論――ふふふ、秘密ですよ」


 言いかけた所で、思い直したようにしーちゃんは秘密だと言ってきた。

 何となく予想はつくけど、敢えてここはそのまま泳がせておくことにしよう。

 だって、多分そっちの方が面白いに違いないから。


 そんなやり取りをしていると、時間は既に12時を少し回っていた。

 そろそろ昼食を摂っても良い頃合いではあるが、先程クロワッサンを食べたばかりだしそれ程お腹も空いていないというのが正直なところだった。


 だから行くなら、食事以外にも楽しめるようなところだよなとか色々考えていると、しーちゃんも俺が何を悩んでいるか察しがついているようだ。

 そして一緒に悩んでくれていたしーちゃんは、何か思いついたのかぱぁっと微笑むと、俺の肩をツンツンとつついてきた。



「ねぇたっくん、わたし行きたい所があった!」

「どこ?」

「メイド喫茶!」

「――え?」

「駅前にあるでしょ?三木谷さんがバイトしてるとこ!わたし一度行ってみたかったの!」


 満面の笑みを浮かべながらメイド喫茶へ行きたいと言い出すしーちゃんに対して、俺はこの場はどう返事をしたら良いのか分からなかった。


 ここで嫌がるのは後ろめたい気持ちがあるからだろうとか勘繰られるかもしれないし、だからと言って進んで行きたがるのはストレートに駄目な気がする。

 でも、しーちゃん自身が行きたがっているんだから、ここは一緒に行ってあげればいいだけなのかもしれない。


 だが、それならそれで彼女と一緒にメイド喫茶ってそもそもどうなんだ?という次の迷いが生じる。

 一緒にメイド喫茶行くって事は、それはつまりしーちゃんも一緒にメイドさんと萌え萌えキュンとかしたりするって事だよな……?



 ――うん、それはいい



 また文化祭の時のように、あの可愛いしーちゃんが見られるならそれが最優先事項だと思った俺は、勢いよく返事をする。



「よし、行こう!!メイド喫茶!!」

「え?あ、うんっ!行こうっ!!」


 俺はふざけて片手を掲げながら、元気よく返事をした。

 するとしーちゃんは、多分何なのかよく分かってないと思うけど、楽しそうに笑いながら一緒に片手を掲げてくれたのであった。


 こうして俺達は、今日は三木谷さんがいるかは分からないが、以前孝之と行った駅前のメイド喫茶へと向かった。


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