136話「プリクラ」
「だ、大丈夫しーちゃん?」
「だ、大丈夫です……」
ホラーゲームを終えた俺達は、とりあえず近くにあったベンチに座って休憩する事にした。
しかし、思ったより先程のホラーゲームのダメージが大きいようで、しーちゃんは少し青ざめた表情を浮かべながら、ゼェゼェと息を切らしていた。
まさかここまでしーちゃんがホラー苦手だとは思わなかったけど、それでもアイドルムーブや挙動不審とは違う、また新たなしーちゃんの一面が見られた事が少し嬉しかったというのは内緒にしておこうと思う――。
こうして暫くベンチで休んだところで、無事に回復したしーちゃんは俺の手を取りながら立ち上がった。
「あ、ねぇたっくん、今度はあれ一緒に撮ろうよ」
そしてしーちゃんが「あれ」と言って指さした先にあったのは、ゲーセンと言えば定番?のプリクラ機であった。
思えばプリクラなんて一回も撮った事の無かった俺は、少し戸惑いつつもここで断る理由も無いため、いいよと頷きながら立ち上がると一緒にそのプリクラ機へと向かった。
お金を入れて初めてプリクラ機の中へ入ってみると、中はこんな風になってたんだなぁと想像とは違う内装にちょっと感心した。
しかし、そう感心している暇も無く早速撮影が開始される。
ガイダンスに従いながら次々に写真を撮っていくが、初めての俺にとっては正直ついていくのがやっとだった。
どうやらプリクラというものは、素人にとっては中々ハードルが高い代物だった。
それでも、流石は女子というべきか、しーちゃんがリードしてくれたおかげでなんとかそれっぽく写真を撮る事が出来た。
撮影中、一緒に撮っているため当然ではあるものの、密室の中しーちゃんとの距離がやたらと近い事に、俺は内心かなりドキドキしてしまっていた――。
そんなこんなで、なんとか撮影を終えた俺は、やれやれと思いながら外に出る。
だが、どうやら今ので終わりではなく、今度は背面のモニターでたった今撮影したプリクラに落書きをするようだった。
しーちゃんはエンジェルガールズのメンバーと何度か遊びで撮った事があるそうで、手慣れた動きでデコレーションしていく様を俺はちょっと感心しながら隣で眺めていた。
しかし、順調にペンが進んでいたはずのしーちゃんの指が急に止まる。
「た、たっくん?ちょっと先に出てて貰えるかなっ!」
そしてしーちゃんは、何故か顔を赤くしながら持ち前の挙動不審を発動させると、突然先に出てて欲しいと言ってきたのである。
まぁどのみち勝手が分からない俺は、そんな何か企んでいるようなしーちゃんの事が少し気にはなったけれど、ここは言われた通り先に出てしーちゃんの落書きが終わるのを待つことにした。
そして、暫く待っていると恥ずかしそうに出てきたしーちゃんは、プリントしたプリクラを手にしてとても満足そうに微笑んでいた。
それから近くに置いてあったハサミでそのプリクラを切ると、しーちゃんは「はいっ!」と言って半分に切ったプリクラを渡してくれた。
それから、どうやら今撮影した写真はスマホにも転送出来るようで、その画像をLimeでも送ってくれた。
俺はプリクラをしっかり見る前に、先にLimeで送られた画像を開いて確認してみる。
するとその画像は、確かに今撮影した俺としーちゃんの写真で間違いないのだけど、明らかに俺の顔が変形しているのであった。
元々整っているしーちゃんは、大して違和感無く相変わらず可愛いの一言なのだが、俺の方はというと、顎が細く目もぐいっと大きくされてしまっており、肌色含めまるで女の子のような顔立ちに整形されてしまっているのであった。
だが、そんな俺の事なんかより、そこにはもっと注目すべき点があった。
それは、俺としーちゃんの周りには先程しーちゃんが書いた可愛らしい落書きが施されているのだが、俺の頭の上の余白には手書きで文字が書かれているのであった。
『いつも一緒にいてくれてありがとう!たっくん大好き!』
その文字を見て、俺は自然と顔が緩んでいく。
何かと思えば、こんなメッセージを書いてたから恥ずかしかったのかなとしーちゃんの方を振り向くと、やっぱりしーちゃんは恥ずかしそうにしながらも微笑んでいた。
だから俺は、そんなしーちゃんに微笑み返しながら口を開く。
「あはは、これはちょっと照れちゃうね。――でも、俺の方こそいつもありがとう。それから、その……俺も大好きだよ」
「う、うん!えへへ」
恥ずかしいながらも、俺も日頃の感謝と気持ちを伝える。
するとしーちゃんは、恥ずかしそうに微笑みながら俺の隣にピッタリとくっついてきた。
それから二人で顔を寄せ合いながら、たった今撮影したプリクラを一緒に見ながら笑い合い、楽しいひと時を過ごしたのであった――。
◇
プリクラを撮り終えた俺達は、そのままゲームセンターをあとにした。
一緒にプリクラを撮れた事が嬉しいのか、それともさっき俺に言われた事が嬉しいのか、もうしーちゃんはホラーゲームの事なんてすっかりと忘れてしまったようでルンルンと上機嫌なご様子だ。
俺と繋いだ手をブンブンと振りながら、少し弾むような足取りで隣を歩くしーちゃんを見ているだけで、俺の頬はやっぱり緩んできてしまう。
今日も色んなしーちゃんを見られた事が、俺はただただ嬉しかった。
そんな事を思いながら、しーちゃんをマンションの前まで送って行く。
以前は駅で解散していたが、今では家の前まで送って行くようになった所も、些細な事かもしれないがお互いの距離が縮まってきている事を実感する。
「ありがとうたっくん!今日も楽しかったよ!」
「うん、俺も楽しかった。じゃあ、また明日」
「うん!また明日!」
そんなしーちゃんの笑顔を見ているだけで、無限に人生頑張れちゃうよなぁと思いながら、俺はちょっと名残惜しくもしーちゃんと別れて家路へと着く。
帰り道、俺はしーちゃんと撮ったプリクラを見返しながら一人でニヤニヤしていると、突然Limeの通知音が鳴った。
なんだろうと思いながらスマホを確認すると、それは先程まで一緒にいたしーちゃんからのLimeだった。
『今日も楽しかったー!クッションもありがとね♪』
そんな可愛い一文と共に、画像も一緒に送られてきていた。
その画像は、今日取ってあげたエンジェルガールズのクッションを抱きかかえたしーちゃんの自撮り写真で、緩い部屋着姿で楽しそうに微笑んでいるしーちゃんのその写真は、控えめに言って可愛いの最上級だった。
こうしてまたしーちゃんコレクションが増えた事に喜びを感じながら、俺はその画像をやっぱり3回保存しておくのであった。
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