135話「寄り道と景品」

 色々あったけれど、三学期初日も無事終了した。


 孝之と清水さんはそのまま部活へと向かったため、俺はしーちゃんと共に下校する。


 制服姿のしーちゃんとこうして一緒に下校出来るというのは、やっぱり青春してるなって気がして俺はそれだけで何だか嬉しかった。

 それはどうやらしーちゃんも同じ気持ちのようで、ただ一緒に歩いているだけでもニコニコと楽しそうにしてくれているのであった。


 そうして他愛のない話をしながら駅前までやってくると、突然しーちゃんが立ち止まった。

 何事かと思い俺も立ち止まると、しーちゃんはとある場所をじっと見つめていた。



「ん?どうした?」

「――ううん、そういえばほとんど行った事無いなと思って。ねぇ、たっくん!ちょっと寄り道してかない?」


 そう言ってしーちゃんは、俺の手をぎゅっと握ってきた。

 まぁ今日はバイトも無いし、しーちゃんが行きたいなら断る理由も無いため、こうして俺は一緒に寄り道をしていく事にした。




 しーちゃんに連れられてやってきたのは、駅前にあるゲームセンターだった。


 中にはゲームやクレーンゲームが所狭しと並べられており、そんな独特な雰囲気を前にそういえば俺もゲーセンに来るのは久しぶりな事に気が付いた。

 前に来たのは、それこそ高校入学して間もない頃孝之と来たぶりだったかと思い出しながら、俺はしーちゃんと一緒にクレーンゲームを見て回る。



「あっ」


 するとしーちゃんが、何かに気が付いた様子で足を止めた。

 ん?やりたいのかな?と思って俺も一緒に立ち止まると、そこにはエンジェルガールズの集合写真がプリントされたクッションが置かれていた。



「――え、なにこれ」


 そして、そんなクッションを目の当たりにしたしーちゃんは、まるで信じられないものを見たように一言呟くと、それから吹き出すようにくすりと笑い出した。



「――たっくん、わたし決めたよ」

「決めたって?」

「――わたしはこれを、絶対に取らないと駄目みたい」


 そう言って腕まくりをする素振りをしながら、しーちゃんは鞄から財布を取り出してそのまま百円を投入した。

 しーちゃんのその表情はもう、やる気満々といった感じだった。


 こうして、何がしーちゃんのやる気を刺激したのかは分からないが、しーちゃん対クレーンゲームの戦いの火蓋が落とされたのであった。


 エンジェルガールズ本人が、正規品かもよく分からないエンジェルガールズグッズを取ろうとするシュールさと共に――。





 ◇




「ねぇなんで?アームがちゃんと掴んでくれないよ?」


 しーちゃんは俺の方を振り向くと、そう言って困り顔で助けを求めてきた。

 ちなみにしーちゃんは既に三回チャレンジしており、一回目はアーム自体がズレてしまい、二回目はクッションを引っ掛けている下の棒にアームが引っかかって空振り、そして三回目にようやく丁度良い位置にアームが移動したのだが、まるでしーちゃんをあざ笑うかのようにクッションが持ち上がる事もなくアームからするりと抜けてしまったのである。


 確かにこのアームの弱さでは普通には取れそうも無いなと思ったけれど、やっぱりしーちゃんはこのクッションが欲しいのか悔しそうな表情を浮かべていた。



「ちょっと代わってみよっか」


 だから俺は、そう言ってしーちゃんとバトンタッチする。

 別にクレーンゲームが得意なわけでもないけれど、彼女が欲しがっているのであれば取ってあげるのが彼氏の役目ってもんだ。多分。


 こうしてバトンタッチした俺は、百円を入れると慎重にアームを移動させる。

 さっきのしーちゃんの結果からするに、このままクッションを持ち上げるという攻め方は恐らく無理なのだろうと思った俺は、片方のアームだけ引っかけてクッションをずらす作戦を取ってみる事にした。


 アームが開いてギリギリのところで角にひっかかるように位置調整をして、アームを下げる。


 すると、狙い通り片方のアームで角を引っ掛けたクッションは、少しだけ移動する事に成功した。


 ――よし、いけそうだな


 そう思った俺は、もう二回移動させると、四回目にアームでクッションの中心を押した。

 すると、中心をずらしたおかげで支えている下の棒からクッションの重心がずれ、見事そのまま下に落とす事に成功したのであった。



「わっ!すごい!取れたっ!!」


 固唾を飲んで隣で見守っていたしーちゃんは、無事にクッションが取れた事をぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでくれた。

 だから俺は、取ったクッションをしーちゃんにどうぞとプレゼントすると、しーちゃんは子供のようにキラキラとした目で微笑みながらそのクッションを両手で抱きしめた。



「ありがとう!たっくん!!」

「うん、それだけ喜んでくれるなら、取った甲斐があったよ。そんなに欲しかったんだね」

「うん!今度あかりん達が遊びに来た時にさり気なく見せようと思って」


 そう言って悪戯っぽく微笑むしーちゃん。

 成る程、確かにこのクッションを本人たちが使うと思ったら、やっぱりちょっとシュールな気がする。


 そんな悪戯を企むしーちゃんが満足したところで、俺達はもう少し他にも見て回る事にした。

 そうして店内を見て回っていると、二人プレー用のホラーシューティングゲームを見つけた。


 そのゲームはボックスタイプになっており、漏れて聞こえてくる音が何となく気になった俺は、中を覗き込んでモニターに映されたサンプル動画を見ていると、そんな俺に気が付いたしーちゃんが気になるなら二人でやってみようと言うので、ちょっと遊んでいく事にした。



 画面に次々と現れるゾンビ達。

 そしてボックスタイプになっているため、大音量のサラウンドで迫力のある演出は中々に恐怖と緊張感を煽られた。


 その結果、恐らく何も考えず隣で一緒にプレーしているしーちゃんはと言うと……、




「うぎゃ!だっくぅん!右!右に!ギャー!!」

「お、落ち着いてしーちゃんっ!!」



 手に持った銃をブンブンと振り回しながら、恐怖でパニック状態となってしまったしーちゃんは、最早ゲームどころでは無いのであった……。


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