4章完結記念「三枝紫音は引き当てた」

 わたしの名前は、三枝紫音。


 わたしは現在、地方のとある高校に通っている。


 実はこの間までアイドルとして活動していたわたしだけど、そのアイドル活動は既に引退しており、今は高校進学と共に普通の女の子として新しい人生のスタートを切っているのであった。


 ちなみに現在通っている高校は、わたしの地元からは遠く離れており、おばあちゃん家が近くにあるこの街へと一人引っ越してきたわたしは、慣れない一人暮らしを頑張りながらも毎日何とか高校へと通っているのであった。



 でもこれも全て、とある大切な目的のためには必要なことだから――。




 ◇




 朝の弱いわたしは、今日も遅刻こそしないけれどギリギリの時間に登校する。

 それでもクラスのみんなは、わたしが登校した事に気が付くと朝の挨拶をしながら嬉しそうにわたしの周りへと集まってくれる。


 その事はわたしも嬉しかったし、知り合いなんて一人もいなかったわたしに対して、そのように接してくれるみんなの存在は有難い限りだった。



 ――でも、それでもわたしは、実はこのクラスでもっとお話をしたい相手がいるのであった



 そんな事を思いながら、今日も窓際の席に座り一人机に突っ伏している彼の姿を、わたしはついチラチラと見てしまう。

 あぁ、彼ともっとお話したい――そう思うのだけれど、今日もわたしはクラスのみんなに囲まれてしまい、その願いは叶わないのであった――。





 そんなある日のホームルーム。

 担任の先生から、まさかの一言が告げられる。



「よーし、お前らそろそろクラスにも慣れてきただろうし、席替えでもするかー」


 なんと先生は、これから席替えをするというのだ。

 今の席は名簿番号順で、彼の背中を後ろから眺めていられる今の席も決して悪くは無いのだが、残念ながら今の席では彼と近付く事は今日まで叶わなかった。


 だからこれは、せっかく同じクラスになる事が出来た彼に近付くチャンスだと考えるべきだろう。


 そんな突然やって来たチャンスに、わたしの胸はどうしても高鳴ってしまう。

 もし彼と隣の席になれたらわたし、どうなっちゃうんだろう――少し想像しただけでも、胸がドキドキしてきてしまう。


 そんな事を一人妄想していると、早速席替えが始まっていた。


 彼は興味なさげに前へ出てクジを引くと、なんと窓際の一番後ろの席になったのである。

 つまりは、教室の一番端の席。


 わたしはそれを逸早くチェックすると、思わずぐぬぬと唸ってしまう。


 最後尾でさえなければ、後ろの席に回るという選択肢の幅が広がったのだが、列の最後尾ではもう隣の席か前の席になるぐらいしか近付けないのだ。


 だからわたしは、頭の中で前の席と隣の席の番号である『6』と『14』を魔法を唱えるように何度も何度も繰り返した。


 そんな神にも祈る思いで番号を繰り返していると、ついに自分の番がやってきた。



「はい次、三枝ー」

「はい!!」


 わたしは気合を入れて、元気よく返事をしながら立ち上がる。

 どうしても緊張してしまうけれど、わたしは意を決してクジ引きボックスの中へと手を入れクジを引く。


 ドキドキと高鳴る胸の鼓動に飲み込まれてしまいそうになりながら、わたしは震える手でそのクジを開ける――。



「ウソ……本当……?」


 そのクジに書かれた番号を見て、思わずわたしはそんな言葉を口走ってしまう。

 そして、驚いて固まってしまったわたしの手から先生はクジを奪うと、そのクジを読み上げる。



「はい、三枝は14番なー。はい次、清水ー」


 その先生の言葉で、わたしはたった今起きた奇跡は本当に現実の出来事なんだと再確認をする。



 ――14番、やっぱりわたしは、彼の隣の席を引き当てたんだっ!



 わたしは込み上げてくる喜びを必死に堪えながら席へと戻る。

 席に座りながらふと彼の席へと目を向けると、彼も私が隣の席になった事に気が付いたのか、珍しくわたしの方を向いている事に気が付いた。


 それだけでわたしは、顔がどんどんと熱くなっていくのを感じてしまう。

 少し目が合っただけでこんな気持ちになってしまうのだ、そんなわたしが隣の席になったら一体どうなっちゃうんだろうと、わたしは恥ずかしくて下を俯く事しか出来なかった。



 でも、これで彼――ううん、わたしにとって特別で大切な人である『たっくん』と、ついにまたお話出来るかもしれないと思うだけで、やっぱりわたしは嬉しくて嬉しくて堪らないのであった――。


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