126話「冬休み」
クリスマスも無事に終わり、引き続き俺は冬休みを満喫している。
冬休みに入ってからはバイト、勉強、そして彼女であるしーちゃんと遊ぶという、日単位を超えて時間単位で暇無く過ごせており、充実した冬休みを送る事が出来ていた。
そして今日も俺は、しーちゃんと一緒に過ごしている。
またうちに遊びに来たいとしーちゃんが言うので、今日はうちへお招きして俺の部屋で一緒にまったりと過ごしていた。
しーちゃんは俺の部屋に並べられた漫画の中からラブコメの漫画を手に取ると、俺の横にピッタリとくっつきながら座って読みだした。
「この前のネットカフェから、こういう漫画が凄く気になるの」
「そっか、しーちゃんはラブコメ好きなんだね?」
「うん、きっと自分も恋してるから、こういうストーリーが好きになっちゃったのかもしれないね」
そう言ってはにかむしーちゃんの姿は、まさに恋する女の子といった感じで今日も今日とて可愛かった。
ちなみに、今しーちゃんが読んでいる漫画はスクールラブコメもので、主人公とクラスの美少女が恋愛する物語なのだが、物語上複数のヒロインが出て来て主人公の気を引こうとする所謂ハーレムもので、男としては楽しめるとは思うが女の子としてはどうなんだろう……という正直ちょっとその辺が不安だったりする。
そしてよくよく考えると、その漫画にもアイドルの女の子が出てくるのだが、残念ながら漫画で出てくるアイドルキャラというのは負けヒロインが多くてメインを張れなかったりするのだが、この作品でも例に漏れず負けヒロインだったりするのだ。
同じアイドルであるしーちゃんは、この漫画を読んで嫌な気持ちになったりはしないだろうかとか思いながらも、まぁ流石に考え過ぎかと俺は俺でスマホのゲームに没頭した。
それから小一時間ぐらい経っただろうか。
お互い別々の事をしていたからほとんど会話は無かったけれど、こうしてくっつきあって一緒に居るだけで安心するというか、ずっとしーちゃんの体温を感じられたのでそれだけで十分だった。
見ると、既にしーちゃんは4巻を読んでおり、そこまでいけば流石にアイドルヒロインの子も登場して一波乱起きているところだなぁとか思っていると、しーちゃんはどこか不満そうな表情を浮かべていた。
「――むぅ、やっぱりちょっとこの主人公くん鈍感過ぎないかな」
「あはは、この手のラブコメ主人公は、鈍感だったり優柔不断だったりするからね」
不満を漏らすしーちゃんに俺は空かさずフォローを入れたのだが、何故か胸がチクりと痛くなった。
うん、鈍感は良くないですよね分かります――。
「でもこの子もこの子だね、どうしてこうなっちゃうんだろう」
そしてしーちゃんは、登場キャラの女の子の方にも不満を抱いていた。
それこそしーちゃんがこの子と指さしたキャラは例のアイドルキャラで、ツンデレで最初は自身がアイドルである事を鼻にかけて主人公に対しても上から目線で接してしまうのだが、それがしーちゃん的にはお気に召さないようだ。
「アイドルとか関係無いよ、好きならもっと一生懸命にならないと」
しーちゃんが言うと、まるで説得力が違った。
実際にアイドルとして活動していたしーちゃんが、今はこうして普通の女の子として自分の目的に向かって突き進んでいるのだ。
だからこそ、この作中のアイドルを言い訳にしているような考え方が気に食わないのだろう。
アイドルだからじゃなくて、自分は自分だと――。
それはこの物語でも最終的には辿り着く答えなのだが、残念ながらその時にはもうこのヒロインは負けヒロインとして恋愛は成就する事は無いのであった。
でももし最初からその気持ちがあれば、もしかしたら物語も変わっていたかもしれない。
だからそう思うとやっぱり、しーちゃんの言う通りなんだろうなと思った。
◇
それから暫くして、漫画を読むのにも疲れた様子のしーちゃんは一回伸びをすると、そのまま何も言わず当たり前のように俺に抱きついてきた。
「疲れちゃった」
「ずっとこうしてたもんね」
「たっくんのそれは、面白いの?」
「ん?興味ある?」
しーちゃんは俺のやっているゲームを覗き込んで興味を示してきたので、俺はやり方を簡単に教えてあげた。
ちなみに今やっていたのは、モンスターを指で引っ張って弾く有名ゲームで、操作も簡単なためしーちゃんもすぐに要領を掴んでいた。
「そうそう、それで味方に当たると攻撃が出来るから、上手く弾いて敵を倒すんだよ」
「へぇー、やってみると楽しいね。これ、たっくんと一緒に出来るの?」
「うん、マルチでやれば一緒のクエスト行けるけど」
「よし、ダウンロードしよっ」
マルチが出来ると聞くや否や、しーちゃんはすぐに同じアプリのダウンロードをしだした。
そんなに一緒にやりたかったんだねと分かりやすくて少し笑ってしまったけれど、でもそんな風に思ってくれるのは素直に嬉しかった。
こうして俺達は、一緒に横になりながらまた暫くゲームを暫く楽しむと、外は既に日が落ちていた。
そんな完全にインドアな一日を過ごしてしまったけれど、これはこれでずっとしーちゃんと二人きりでいれたし幸せな時間だった。
それからしーちゃんを家まで送ろうとしていたところ、母さんがしーちゃんも良かったら一緒にどう?とご飯に誘ったため、急遽今日はしーちゃんもうちでご飯を食べて行く事になった。
最初は緊張していたしーちゃんだけど、うちの両親もこんな可愛い彼女なら大歓迎だと接してくれていたため、すぐに打ち解けて楽しくご飯を食べる事が出来た。
ちなみに、うちの母さんは俺の彼女がしーちゃんだと知って以降、実はエンジェルガールズについて興味を持つようになっており、今ではエンジェルガールズの出ている番組は全て録画している程のファンになってしまっているのであった。
だから、そんなファンであるエンジェルガールズで元センターをしていたしーちゃんが同じ食卓に並んでいるこの状況に、母さんは色々とお節介をしてしまう程舞い上がっている様子だった。
――まさか息子が、あかりんのLimeまで知っているなんて知ったら驚くだろうなぁ
そんな事を考えながら、仲良くお喋りをする母さんとしーちゃんの様子にほっとしながら食事を済ませた。
しーちゃんはしーちゃんで、こうして家族で食卓を囲めるのが嬉しい様子で、母さんの言った「もう紫音ちゃんはうちの子みたいなもんだから、いつでも遊びにおいでね」の一言が本当に嬉しかった様子で、ずっとニコニコと微笑んでいた。
そんな様子に嬉しくなりつつも、俺もいつかしーちゃんのご両親に会う事とかあるのかなぁと、一体どんなご両親なんだろうかとちょっと気になってしまったのであった――。
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