125話「クリスマスと大好き」

 お風呂から上がったしーちゃんは、この間と同じパジャマ姿に着替えていた。

 再び見るその姿はやっぱり可愛くて、露出の多さも相まって俺のドキドキは一気に加速していくのであった。


 そのすらっと伸びた白くて綺麗な足は最早国宝級で、もし俺に何かしらの権限があるなら迷わず受賞させたいぐらいそれはもう本当に美しかった。



「お先にごめんね、たっくん用のスウェット置いてあるからゆっくり浸かってね」

「う、うん、ありがとう……」


 しーちゃんから香るシャンプーの甘い香りにやられつつ、俺も一先ずお風呂を借りる事にした。


 再び入るお風呂は相変わらず汚れ一つ見当たらず、先程までしーちゃんが入っていた事もあり良い香りに包まれていた。


 ただ一点、前回と違うところがある。

 それは、12月だし冷えるからとしっかり浴槽にはお湯がはられているのであった。


 しーちゃんは「ゆっくり浸かってね」と言っていたから、つまりはそういう事なのだろう。


 ――でもこれ、しーちゃんも入ったあとなんだよな


 そう思うと、途端に緊張というかなんとも言えない感覚に襲われてしまった。

 しかし、12月の今裸で立っていると普通に冷えてきたため考えている余裕も無くなった俺は、もうなるようになれと思い切って浴槽の中へと入る事にした。


 そんな、何から何まで緊張しっぱなしだった俺だけど、もうなんだか吹っ切れた俺はいっそこの状況を楽しむ事にした。


 好きな女の子の家に上がって、お風呂まで入っているんだ。

 そんな状況、楽しまないと損だろと。


 そう腹を括った俺は、今日もしーちゃんと同じシャンプーやボディーソープで身体を念入りに洗った。

 こうしてしーちゃんと同じ香りに包まれた俺は、勿論幸せな気持ちでいっぱいになったのは言うまでもない――。




「ありがとう、良いお湯だったよ」


 お風呂から上がった俺は、寝室で一人体操座りしながらテレビを見ていたしーちゃんに声をかける。

 俺が部屋へ入ると、しーちゃんはそれだけで嬉しそうに微笑んでくれた。


 そんな微笑むしーちゃんを見ているだけでもう抱きしめたくなってしまうのは、俺の気持ちが高ぶり過ぎなだけだろうか?

 そんな事を考えながら、俺はしーちゃんの隣に一緒に座ってテレビを見る事にした。

 するとしーちゃんは、隣に座る俺の肩にそっと自分の頭を預けてくる。



「おかえり、あなた」

「あ、あなた!?」

「えへへ、ちょっと言ってみたかったの。ダメかな?」

「ううん、ダメじゃないよ、ちょっと驚いただけだよハニー」

「ちょ、ハニーってなぁに?アハハハ」


 仕返しに俺がハニーと呼び返してみると、しーちゃんは堪え切れず吹き出すように笑いだした。

 ツボに入ったのかそれはもう本当に大笑いで、お腹を押さえながら笑うしーちゃんを見ていたら、俺も自分で何言っちゃってるんだろうなと思えてきて一緒に笑った。



「はー、笑った。うん、じゃあわたしも今日はダーリンって呼ぼうかな?ね、いいでしょダーリン?」


 ひとしきり笑ったしーちゃんは、悪戯な笑みを浮かべながら今度はダーリンと呼んできた。

 しかし、しーちゃんからダーリンなんて呼ばれる事の破壊力がここまで高いとは思わなかった俺は、それだけでまた悶絶しそうになる程舞い上がってしまうのであった。





 それから俺達は、クリスマスの特番を一緒に見ながらのんびり過ごした。

 テレビにはエンジェルガールズが出演しており、彼女達が歌って踊る姿をしーちゃんと一緒に見るというのは、やっぱりまだ少し不思議な感じがするのであった。


 でも、もししーちゃんがアイドルを辞めずに続けていたら、今もテレビの向こう側で彼女達と一緒に歌って踊っていて、そのままきっと俺の事も忘れて別の芸能人とかと恋をしてたりするのかなと思うと、途端に切ない気持ちが溢れ出してきてしまう。



「しーちゃんはさ、またアイドルに戻りたいとか思ったりするのかな?」

「ん?そうだなぁ、アイドルしてた頃は楽しかったし、本当に色んな経験をさせて貰う事ができたから、戻りたい気持ちが無いって言ったら嘘になるかな。みんなもいるしね」


 俺の唐突な質問に対して、ちゃんとしーちゃんは答えてくれた。

 でもそっか、戻りたい気持ちもゼロじゃないのか。

 だとしたら、今後もしかしたら復帰するなんて事もあるのかな?と思うと、やっぱり少し不安な気持ちになってきてしまう。



「……でもね、それ以上に今が幸せだって思えるから、やっぱりわたしは普通の女の子として過ごしたいかな」

「そ、そっか……」

「……うん、だってもうわたしにはたっくんがいてくれるから。もしわたしがアイドルに戻ったら、たっくんの側に居られなくなっちゃうでしょ?……そんなの、きっと耐えられないよ」


 そう言って、しーちゃんは抱きついてきた。

 それはまるで、絶対に俺の事を離さないというように――。



「……だからたっくん、ずっと側にいてね?」

「うん、ずっと側にいるよ。正直に言うと、俺ももうしーちゃんのいない生活なんて考えられないから、さ……」


 そんな素直に自分の気持ちを話してくれるしーちゃんに、俺も素直に気持ちを伝えた。

 言葉にするのはやっぱりちょっと恥ずかしかったけど、これからも付き合っていくのであればきっとこうやってちゃんと言葉にする事って大事だと思うから。


 ――だってこんなにも、今しーちゃんが話してくれた事が嬉しいんだから。


 ――嬉しくて嬉しくて、もうずっと抱きしめていたくなるぐらい、愛おしくなってしまうのだから。



「えへへ、じゃあ一緒だね」

「そうだね、一緒だね」


 そう言葉を交わして微笑み合った俺達は、それからそっと互いの唇を重ね合った。

 大好きな相手がこうして隣に居てくれる、それがどれだけ幸せな事なのかを改めて感じながら――。




 ◇



 時計を見ると、もう12時を少し回っていた。

 今日は朝からずっと起きているため、流石に眠気が襲ってくる。



「そろそろ寝る?」

「うん、正直ちょっと眠たいかな」


 そう言ってしーちゃんは立ち上がると、そのままベッドの中へするすると入っていった。

 そして、この前と同じように奥側に詰めて横になったしーちゃんは、ニッコリと微笑みながら手招きをしてくる。



「一緒に寝よ?」



 そんなしーちゃんのたった一言だけど、それだけで俺は顔が熱くなっていくのを感じた。

 今の一言は、それだけ破壊力を帯びていたのであった――。


 でも俺はしーちゃんの彼氏なのだ。

 だから、こんな所で突っ立っていても仕方がないと思った俺は、お言葉に甘えて一緒に横になる。


 そうしてベッドで横になり同じ布団の中へと入ると、布団からしーちゃんの温もりが伝わってくるのであった。



「えへへ、たーっくん♪」


 こうして俺が一緒に横になると、しーちゃんはそう言って嬉しそうに俺に絡みつくように抱きついてきた。

 片足と片腕を俺の上に乗せて、頭を俺の胸元にぐりぐりと埋めてくるしーちゃん。


 そんな、これまでに無い程大胆になっている今のしーちゃんに、俺の心臓は一気にドキドキと高鳴り出してしまう。



「たっくんたっくんたーっくん♪」


 だがそんな事などお構いなしに、今のしーちゃんは止まらない。

 嬉しそうに俺の名前を連呼するしーちゃん。



「わたしだけのたーっくん♪」


 そんな歌うようにじゃれついてくるしーちゃんに、俺はもう色々と限界寸前のところまできてしまっていた。


 だが、そんなじゃれついてきたしーちゃんだが、何故かいきなりその動きをピタッと止めた。

 俺は何事かと思いつつも、しーちゃんが何をしているのか様子を見た。


 すると、




「スースー」



 なんとしーちゃんは、寝息を立てたかと思うとそのまま眠ってしまっていたのであった。

 そんな、ついさっきまでじゃれついてきていたのに、疲れていたのか赤ちゃんみたいに秒で眠ってしまったしーちゃんに、俺は思わず笑ってしまった。


 だから俺は、そんなスヤスヤと眠り出したしーちゃんを優しくそっと離してから一度立ち上がると、俺はとある準備を済ませて再びベッドの中へと入った。



「――おやすみ、しーちゃん」


 隣でスヤスヤと眠るしーちゃんの額にそっとキスをすると、俺もそのまま一緒に眠りについた。




 ◇



「た、たっくん!これ!!」


 眠っている俺の身体を、少し慌てた様子で揺らして起こすしーちゃん。



「ん?おはようしーちゃん」

「うん、おはよう。じゃなくて、これっ!!」


 まだ寝ぼけ眼の俺の顔の前に、しーちゃんは手に持った小包みを差し出していた。



「サンタさんが置いて行ってくれたんじゃないかな?開けてみたら?」

「サ、サンタさんって……うん、あ、開けるね?」


 俺はさも他人事のように答える。

 しかし、もうサンタを信じる歳でも無いしーちゃんは、戸惑いながらもその小包を開けた。



「これは……マフラー?」

「うん、メリークリスマス。しーちゃん」


 中に入っていたものは、茶色のマフラーだった。

 それは、昨日寝る前にしーちゃんの枕元に置いておいた俺からのクリスマスプレゼントだった。


 何をあげようか当日まで色々悩んでいたのだけど、最近一気に寒くなってきたし、何よりしーちゃんに似合いそうなマフラーが見つかったからそれに決めたのであった。



「もう!本当にたっくんってば!」


 そんな、俺からのちょっとしたサプライズに喜んだしーちゃんは、嬉しそうに俺に抱きつくと、そのまま頬っぺたにキスをしてきた。



「大好き!!」


 そして、少し顔を赤らめながらも満面の笑みを向けてくるしーちゃんは、朝から天使が舞い降りたのかと思ってしまう程可憐で美しかった。


 それからしーちゃんは「よしっ!」と一回気合を入れて立ち上がると、そのままキッチンへ向かって朝ご飯を作ってくれた。


 その間、ずっとしーちゃんの首にはプレゼントしたマフラーが巻かれていた。

 そして時折嬉しそうにマフラーに触れて微笑むしーちゃんの顔を見ているだけで、俺まで幸せな気持ちになってしまうのであった――。


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