124話「二人だけのクリスマス」

 ――12月


 期末テストも滞り無く終え、そして早いものであっという間に終業式がやってきた。


 そして、終業式のある今日は12月24日、つまりはクリスマスイブ当日である――。


 俺はいつも通りしーちゃんと登校し、終業式を終えると、そのまま一緒に下校する。

 孝之と清水さんはというと、今日は二人だけの予定があるという事で完全に別行動になっている。


 向こうは向こうで、二人きりのクリスマスを過ごすようで何よりだった。

 孝之はこの日の為に頑張って何かを用意していたようなので、「お互い頑張ろうぜ親友!」と俺はエールを送っておいた。



 すっかり冬空となった帰り道をしーちゃんと一緒に歩きながら、俺はふと以前の出来事を思い出す。



 ――終業式か


 思い返せば、一学期の終わりではまだ付き合ってもいなかった俺達。

 だからあの頃は、しーちゃんと夏休みを一緒に過ごそうとした沢山の男子達から告白されていたよなぁと、まだ一年も経っていないのに遠い過去のようにその時の光景を思い出していた。


 ――でもあの時も、しーちゃんはきっぱりと断ってくれてたよな


 そう、あの時のしーちゃんは、告白する男子達を前にきっぱりと好きな人がいると断ってくれたのだ。


 あの頃の俺は、やっぱりうじうじしていて自分の気持ちに踏み込めないでいた。

 それでもしーちゃんは、あの頃からずっと俺だけを見ていてくれたのだ。


 ――ありがとう。そして、やっぱりしーちゃんにはお返ししないとだよな


 俺はそう心で誓った。

 今日はクリスマスイブ、必ずしーちゃんにとっての素敵な想い出となる一日にしてみせると――。


 そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にしーちゃんの家の前まで着いた。



「じゃ、19時にしーちゃん家でいいよね?」

「うん、準備して待ってるね」


 まだ時間は早いため、今日は一度帰ってからしーちゃん家で一緒にクリスマスを過ごす事になっている。


 だから俺は、しーちゃんを家の前まで送ると急いでとある場所へと向かったのであった――。



 ◇



 そして、19時。


 俺はしーちゃんの家までやってきた。



「いらっしゃいたっくん」

「お邪魔します」


 そう言葉を交わし、俺はしーちゃんの家へと上がる。

 家の中からは料理の良い匂いが漂ってくる。


 それもそのはず、今日はしーちゃんがクリスマス料理を作って待っていてくれる事になっているのだ。


 リビングへ入ると、そこには二人で食べきれるかな?いう量の豪華な料理が並べられていた。

 その料理の一つ一つ手が込んでいて、まるでお店で食べる料理のように綺麗に盛り付けられていた。


 ローストビーフの乗せられたサラダに、サーモンのカルパッチョ、それからチーズと野菜といくらのカナッペ。

 これをしーちゃんが一人で作ったのかと思うと、素直に感嘆してしまうレベルだった――。


 それから、俺が来る途中買ってきたチキンとクリスマスケーキを並べると、それはもう完全にクリスマスパーティーだった。



「凄いね!パーティーだ!」

「本当にね、料理ありがとうね」

「ううん、全然いいよ!それじゃ、冷めないうちに食べちゃおっか♪」


 そう言って俺達は席につくと、楽しくお喋りをしながら並べられた料理を一緒に食べた。

 しーちゃんの作ってくれた料理は、見た目だけじゃなく味もとても美味しくて、正直腹ペコだった俺は胃も心も充足感でいっぱいになったのであった。



「ごちそうさま。本当に全部美味しかったよ」

「えへへ、なら良かった。絶対今日はたっくんに喜んで貰いたかったから、やっぱりそう言って貰えると嬉しいな」


 俺がお礼を伝えると、本当に嬉しそうに微笑むしーちゃん。

 その笑顔が見られただけでも、俺はやっぱり胸がいっぱいになってしまうのであった――。


 そしていつも通り、料理のお礼に俺は洗い物をさせて貰ったのだが、案の定?しーちゃんはそんな洗い物をする俺の背中にピッタリとくっついてきた。


 そうなると、当然しーちゃんの感触が背中から伝わってくる――。


 ちなみに今のしーちゃんは白のニットワンピースを着ており、はっきりとしーちゃんの柔らかい感触が背中に感じられるのであった。



「あ、たっくんもしかしてドキドキしてる?」

「うん、してるよ。しーちゃんに触れられて、嬉しくない人間なんてこの世に居ないんじゃないかな」

「そっかそっか。安心して、たっくんだけだからね」


 もう付き合いだしてそれなりに経つ俺達は、このぐらいの事ではお互い慌てなくなっていた。

 それは冷めているとか慣れているとかそういう事ではなく、お互いがお互いの事を大好きだという理解があるからこそだった。



 好きだから、触れて欲しいし、触れて嬉しい。

 そんな当たり前の事が、ようやく当たり前になってきている俺達であった――。



「……あの、ね?今の服もね、今日の為に選んだんだけど、どう、かな……?」

「……それは、うん、正直目のやり場に困ってた、かな」


 だが、しーちゃんが少し恥ずかしそうに付け足してきたその言葉には、俺も恥ずかしくなりドキドキしてしまった。


 ピッタリと着られたそのニットワンピースにより、元々スタイル抜群のしーちゃんの身体のラインがはっきりと現れており、出るところはちゃんと出ている事が一目で分かる今のしーちゃんは、正直直視しているとどうにかなってしまいそうな程刺激的なのであった――。



「悩殺ってやつ?」

「うん、悩殺だね」

「やったね♪」


 俺が素直に悩殺されている事を伝えると、しーちゃんは大成功と嬉しそうに微笑んだ。

 そんな小悪魔可愛いしーちゃんに、やっぱり俺は悩殺されてしまったのであった――。



 ◇



「ねぇたっくん、ちょっと街に出てみない?」


 二人で少しゆっくりしていると、しーちゃんが楽しそうにそう提案してきた。

 外はクリスマスムード一色で、ちょっと外を一緒に歩いてみたいとの事だった。



「冷えるから、ちょっとだけね」

「わーい!ありがとたっくん!」


 喜ぶしーちゃんは一回俺に抱きつくと、それから外出するためアウターを取りに寝室へと向かい、ベージュのダッフルコートを着て戻ってきた。



「ごめんしーちゃん、そのワンピはちょっと刺激が強いから――」

「分かってるよ、ちゃんと前を閉じまーす♪」


 今のしーちゃんの姿を他の男に見せたくなかった俺が伝えるより先に、しーちゃんは自分でちゃんとコートの前を閉じて着てくれた。

 そしてしーちゃんは、そんな俺が過保護になったのが嬉しいのか、ニヤニヤと微笑みながらまたくっついてきたのであった。



「じゃ、行こうか」

「うんっ!」


 こうして俺達は、二人で少しだけ夜の街をデートする事にした――。




 俺はしーちゃんの手を取りながら、夜の街並みを一緒に歩いた。


 ライトアップされた街灯は綺麗で、街には俺達以外にも手を繋ぐ男女で溢れていた。


 そんな、これまでは全く縁の無かったクリスマスだけど、今年は大好きな彼女と一緒に過ごす事が出来ている事に喜びを感じつつ、俺はそんな大好きな彼女であるしーちゃんとはぐれないようにしっかりと手を繋いだ。



「あ、たっくん見て!大きなツリー!」

「本当だね、ちょっと見てこうか」


 俺はしーちゃんと一緒に、そのツリーの元へと向かった。

 周りではカップルがツーショット写真を撮っていたので、俺達も記念撮影していく事にした。


 ツリーを背景に、二人で顔を寄せ合いながら撮ったその写真は、お互いのスマホの待ち受け画像にする事にした。


 それから何をするわけでもなく、二人で一緒にクリスマスで賑わう街並みを歩いた。

 クリスマスという特別な一日の雰囲気に、しーちゃんはずっと楽しそうにしてくれていた。



「わたし、好きな人と――たっくんと、こうして一緒にクリスマスを過ごすのが夢だったんだ」


 そして、冷えるしそろそろ家に戻ろうかと歩いているところで、しーちゃんは思い出すようにそんな言葉を口にした。



「クリスマスはずっと仕事だったし、アイドルしてたら絶対にこんな風に歩く事も出来ないんだろうなって思ってた。だからね、たっくんと再会出来た今、こうして夢が叶っている今のわたしは、とっても幸せなの」

「……そっか」

「だから、改めていつもありがとうねたっくん」

「それは、こちらこそだよ。しーちゃんが俺を見つけてくれたから、今俺はこんなにも幸せなんだから」

「……そっか、じゃあお互い様だね」

「そうだね」


 俺達は顔を見合わせると、笑い合った。

 こうして一緒にクリスマスを過ごせている喜びを噛みしめながら――。



 ◇



 しーちゃん家に戻った俺達は、再びのんびり過ごしていた。

 そして、一緒にテレビを見ていたしーちゃんは徐に立ち上がると、「それじゃ、先にお風呂行ってくるね」とそのまま部屋から出て行ってしまった。



 ――そう、実は今日俺は、このまましーちゃんの家に泊まっていく事になっているのであった。


 以前は看病のために泊まっていったが、今日は完全にお泊りをするためにやってきているのだから訳が違う。


 そんな期待と緊張でいっぱいのクリスマスの夜を、これから迎えようとしているのであった――。



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