120話「考えている事は一緒」
それから俺達は、しーちゃんのアイドル時代のDVDを観ながらのんびりと過ごした。
テレビの画面には、歌って踊るしーちゃん達エンジェルガールズの姿が映されており、やっぱりそんな映像を本人と一緒に観るというのは不思議な感じがした。
そして今回も、しーちゃんが裏事情とかを教えてくれたおかげで楽しく鑑賞する事が出来たし、やっぱりみやみやは会場にマイクを向けてサボっているのであった。
心なしか孝之は、めぐみんが出てくる度にちょっと嬉しそうにしていたのだが、もう清水さんも諦めたのか、やれやれと呆れている様子だった。
めぐみんも清水さんも小柄な美少女だから、どうやら孝之は小柄な女の子がタイプなんだなと思った。
それから少し勉強会を再開したところで、夜も遅いし今日のところはお開きになった。
こうして、初めてのしーちゃん家でみんなで過ごした一日になったけれど、結果として勉強は捗ったし、本当に楽しく一緒に過ごす事が出来たのであった。
「たっくん、今日はありがとうね。それで、明日は……」
「うん、こちらこそありがとう。明日?えっとごめん、明日はバイトがあるんだ」
「そ、そっか!うん、分かったよ!」
しーちゃんは何かを言いかけたけど、俺がバイトがある事を伝えるとそれ以上何も言わなかった。
だからその代わりと言ってはなんだが、今度は俺から話しかける。
「でも、明日バイト終わってから少し会えないかな?先週に引き続きになっちゃうけどさ」
「え、うん!勿論大丈夫だよ!」
「そっか、じゃあ明日は俺がここに来るから、待ってて貰ってもいいかな?」
「……うん?わかったよ」
よし、無事に明日しーちゃんと会う約束は出来た。
こうして俺達は、今日は解散してそれぞれ家へと帰ったのであった。
◇
そして、次の日。
俺は日中にやる事を済ませて帰宅すると、いつも通りバイトへと向かった。
この後会う約束をしている事もあり、今日はバイト中にしーちゃんが現れる事は無かった。
そのため、俺はこの後会うしーちゃんの事を考えながら、時間きっちりまでバイトに励んだのであった。
そして、バイトが終わったところで早速しーちゃんにLimeを送る事にした。
『バイト終わったよ!これから行くけど大丈夫?』
よし、送信っと――ピコンッ
『うん、待ってます!』
なんと俺が送ってすぐ、しーちゃんからの返信が返ってきたのであった。
22時までバイトと伝えてあったから、もしかしたらしーちゃんはずっとスマホを握ってスタンバイしてくれてたのかなと、自動返信並みの速度で返信してきたしーちゃんに俺は思わず笑ってしまった。
こうして俺は、しーちゃんからちゃんと返事も来た事だし、今日は家に帰るのではなくそのまましーちゃんの家へと向かった。
「いらっしゃい!」
「お邪魔します」
玄関を開けてしーちゃんは、俺が来るのを楽しみに待ってくれていた様子で嬉しそうに微笑みながら招き入れてくれた。
だから俺も、そんなしーちゃんに微笑み返しながら今日も家へと上がらせて貰った。
今日は昨日のリビングではなく、寝室の方へと案内された。
そして、部屋を開けるとそこには、何故かテーブルの上には小さめのワンホールのケーキが置かれているのであった。
「……え?これ?」
「まだ早いけどハッピーバースデーたっくん!それにわたし!平日は中々準備が出来ないだろうし、今日サプライズだよ♪」
なんとしーちゃんは、お互いの誕生日のサプライズにケーキを用意してくれているのであった。
だから昨日、俺の予定を確認してたのかと思うと、俺はそんなしーちゃんの気持ちが嬉しくて堪らなくなった。
――やっぱり、考える事は同じか
そう思った俺は、しーちゃんに改めて向き直る。
「じゃあ俺からもサプライズ――誕生日おめでとう、しーちゃん」
俺はそう伝えながら、ポケットに入れていた誕生日プレゼントを手渡す。
今日はこれを買う為に、昼間出かけてきたのだ。
本当は日が変わってから渡すつもりだったが、流れ的にも今渡すことにした。
「……え、わたしに?」
「うん、考える事は同じだったみたいだね」
驚くしーちゃんに、俺は笑いながらプレゼントを手渡すと「開けてみて」とそのままプレゼントを開封して貰う。
「これ、リップと……水族館のチケット?」
「うん、一方的にプレゼントすると気を使っちゃうかなと思ったから、これなら一緒に行けるかなって」
そう、俺は今日買ってきたリップと一緒に、予め入手しておいた水族館のチケットも合わせてラッピングして貰っておいたのだ。
一方的に物をあげると、きっとしーちゃんの性格から気を使っちゃうだろうと思ったから、一緒に行けるもので何か無いかと考え抜いた結果、俺は水族館を選んだ。
だって、魚を見て喜んでいるしーちゃんの姿が思い浮かんだから――。
「ありがとうたっくん!大好きっ!!」
するとしーちゃんは、嬉しそうに俺に飛びついてきた。
まさか俺もサプライズを用意しているとは思わなかったのだろう、喜んでくれているようで本当に良かった。
「じゃあ、しーちゃんの買ってくれたケーキ食べちゃおうか」
「うん!アーンしてあげるねっ♪えへへ♪」
こうして俺は、しーちゃんにアーンをして貰いながら一緒にケーキを食べつつ、楽しいひと時を共に過ごした。
時計を見ると、早いものでもう0時少し手前まで時間が経っていた。
本当はもう帰らないといけない時間はとっくに過ぎているのだが、今日だけはもう暫くお邪魔させて貰う。
何故なら、今日は11日――つまり日付が変わって12日が、しーちゃんの誕生日だからだ。
その為に俺が今ここにいる事は、しーちゃんももう分かっているのだろう。
もう遅い時間だけど、何も言わず俺に身を預けながら、少し頬を赤く染めて幸せそうな顔をしていた。
そして、時計の針が0時をさした――。
「……しーちゃん、改めまして誕生日おめでとう」
「……うん、ありがとうたっくん」
身を寄せ合いながら、一緒にテレビを見ていた俺達二人は、そう言葉を交わすとお互いの顔を向き合わせる。
――そしてそのまま、俺達はそっと互いの唇を重ね合った――。
「……えへへ、次はたっくんの番だね」
「まぁ、うん、そうだね」
そうか、次は俺か。でも正直、あんまり祝われるのには慣れてないから正直照れ臭かった。
するとしーちゃんは、「えいっ!」と言って突然俺に抱きついてきた。
「ねぇたっくん、あと30分だけこうしててもいい?」
「いいよ、気が済むまで」
「いいの?そしたら朝になっちゃうけど?」
「んー、明日は学校だから、それだと嬉しいけど困っちゃうかな」
「えへへ、冗談だよーだ♪」
こうして俺は、帰る前にもう暫くしーちゃんに抱きつかれている事にしたのであった――。
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