117話「改めて」

 月曜日。


 なんだかこの前の土日は本当に色々あったような気がするけど、こうして無事に?今週も学校へと向かうのであった。

 しーちゃんを送って帰宅してからも、両親にしーちゃんとの事を根掘り葉掘り聞かれていたせいで、今日は若干寝不足気味だったりする。

 でも、その時の話で一貫していたのは「あんなに可愛くて良い子なんて滅多にいないんだから、絶対に大事にしなさい」だった。

 その点については完全同意だから言われなくてもそのつもりだったんだけど、そうして親もしーちゃんの事を認めてくれているのは正直嬉しかった。



 そしてその上で、早速一つ問題がある。


 あと一週間でしーちゃんの誕生日がやってくるのだが、結局色々あってまだお揃いのアクセサリーも買えていないのだ。

 今週中にその辺を済ませないとなと、若干の焦りみたいなものを感じていた。


 ――あとそれだけじゃなくて、やっぱり他にもサプライズとか用意してあげたいよなぁ


 そんな事を考えながら、俺はいつもの待ち合わせ場所へと向かった。




「あっ!たっくんおはよー!」


 待ち合わせ場所へ着くと、今日はいつもの待ち合わせのベンチにちゃんとしーちゃんの姿があった。

 この間はいなかったんだよなと思うと、こうしてまたしーちゃんが元気にここへ姿を現してくれている事が嬉しかった。



「おはようしーちゃん、体調はどう?」

「うん、たっくんのおかげでもうピンピンしてるよ!」


 そう言って笑顔で微笑むしーちゃんを見て、これなら本当に大丈夫そうだなと俺は安心した。


 こうして俺は、完全復活したしーちゃんと共に今日も仲良く学校へ向かうのであった。




 ◇



「おう、卓也!三枝さんもおはよう!Lime見たけど、風邪大丈夫だったか?」

「おはよう孝之、見ての通りだよ」

「おはよう山本くん!うん、もう大丈夫だよありがとうね!」


 すっかり元気なしーちゃんを見て、孝之は「なら良かった」と本当に嬉しそうにニカッと笑ってくれた。

 そんな朝から友達思いな親友は、やっぱり男の俺から見ても本当に良い男だった。



「おはよう、大丈夫そうで安心したわ」

「うん、さくちゃんもありがとね!」


 しーちゃんと清水さんは、女子同士手を取り合って朝から微笑み合っていた。


 そんなしーちゃんと清水さん、やっぱりこのクラス、いや学年飛び越えて学校でも二大美女と言われる二人が一緒に微笑んでいる姿は、正直見ているだけで目の保養だった。


 それは俺と孝之だけでなく、たった土日を挟んだだけでもまた会えるのが嬉しいというように、クラスの男子達の多くもそんな二人に見惚れてしまっているのであった。


 もう10月だが、未だに誰一人この二人の神々しさに慣れる事なんて無いのであった――。



 とりあえず俺は、テストも近いしまた勉強頑張らないとだよなと思いながら、自分の席について教科書の準備をする。

 そして、このあといつしーちゃんと買い物に行こうかと、バイトのシフトを考慮しつつ候補日とかを考えていると、



 ――ツンツン


 後ろからしーちゃんが背中をつついてきた。



「ん?どうした?」

「えへへ、なんでもないよ」

「そうですか」

「そうなんです」


 そうか、なんでもないか。

 でも、なんだかいつも以上に上機嫌なしーちゃんを見れているだけで、俺も幸せな気持ちになるんだから仕方ないな。



「そうだ、しーちゃん。この前の土日は買い物行けなかったけど、次いつ行こうか?」

「んー、たっくん今日バイトは?」

「日曜日出たから今日は無いけど」

「じゃ、今日行こう!」


 両手でガッツポーズをしながら、「善は急げだよたっくん!」と意気込むしーちゃんの姿は今日も面白可愛かったので、俺は「そうだね」と早速今日の帰り道買いに行くことにした。




 ◇



 そして放課後。


 俺はしーちゃんと共に、駅前のショッピングモールへとやってきた。

 前に来た時と同じように店内をぐるぐると見て回り、丁度良いお店が無いか一緒に探した。


 しかし、もう眼鏡による変装すらしていない今のしーちゃんは、当然その容姿はエンジェルガールズのしおりんそのものであり、それが制服を着て普通に歩いてるんだから周囲からの視線をやっぱり集めてしまっていた。


 でももう、そんな事関係ないと腹をくくってくれている今のしーちゃんは、周囲からの視線なんて気にせず俺とのデートだけを楽しんでくれていた。

 だから俺も、周りは気にせずそんなしーちゃんとのデートだけを楽しんだ。


 こうして一緒に居られる時間をもっと増やしたいし、二人だけの思い出の物やカタチを色々増やして行きたい。


 そう思いながら店内を見て回っていると、隣を歩くしーちゃんがあるお店の前で立ち止まった。

 そこはシルバーアクセサリーのお店で、店先のショーケースにはシンプルなシルバーのペアリングが展示されていた。



「ペアリング……」


 そしてしーちゃんは、思わず口に出してしまったという感じで一言呟いた。


 ――ペアリングか


 やっぱりペアで買うならこれだよなという感じは俺の中でもあったから、俺も一緒にそのペアリングを眺めた。

 それは、ちゃんとシルバーで出来ているようで高校生の自分からしたら決して安くは無い代物だったけど、買えなくもない値段だった。



「――これ、気になる?」

「うん、ペアリングとか憧れちゃうなって思って」

「じゃあ、嵌めてみようよ」


 そう言って俺は、ここは男の俺がリードしないとだよなと思いながらしーちゃんの手を取ると、そのまま一緒に店内へと入って行った。




 ◇



「いらっしゃいま――えっ?し、しおりんっ!?」


 声をかけてきた女性の店員さんだが、突然現れたしーちゃんに接客も忘れて驚いてしまっていた。

 こんな感じのやり取り、ちょっと前も同じような事があったような気がするけど、やっぱりしーちゃんの有名度合いは凄いなと改めて感心した。



「あの、展示されてるペアリング見たいんですけど」

「あっ!ペ、ペアリングですねっ!しょ、少々お待ちくださいねっ!」


 目を丸くして固まってしまった店員さんに声をかけると、正気に戻った店員さんは慌ててペアリングを取り出してきてくれた。

 持ってくるとき店員さんがやけに興奮気味だったのは、勿論俺としーちゃんの関係に気が付いているからだろう。


 二人一緒にペアリングを買いに来ているのだから、見たまんま誰でも分かる話だった。



「じゃあたっくん、左手出して?」


 するとしーちゃんは、そう言って持ってきてもらったペアリングの大きい方を手に取った。


 俺は言われた通り自分の左手を差し出すと、そのまましーちゃんは俺の左手の薬指にそのペアリングを嵌めてくれた。

 そして、しーちゃんは俺の指には嵌められたリングを見つめながら、頬を薄っすらとピンク色に染めながら恥ずかしそうに微笑んでいた。



「……じゃあ、しーちゃんもその、左手を……」

「……うん」


 俺の言葉に、恥ずかしそうに今度は自分の左手を差し出してくれたしーちゃん。

 だから俺は、もう一つのリングを手に取ると、しーちゃんの差し出す左手の薬指にそのリングを嵌めてあげた。



「……えへへ、なんだか結婚式みたいだね」


 しーちゃんは、自分の指に嵌められたリングを大事そうに手で包み込みながら、そう言って嬉しそうに微笑んでくれた。


 しーちゃんのその言葉とその仕草を前に、俺の顔は今絶対真っ赤に染まってしまっていることだろう。

 でも、自分の大好きな相手にこんなに可愛い事をされて、平然としている方が可笑しいんだからセーフだセーフと、恥ずかしくなる自分に言い聞かせた。



 こうして、お互いちょっと大きくてサイズの合っていないリングを薬指に嵌めながら、ちょっと不格好だけどなんちゃって結婚式みたいな事をしてしまった俺達は、何だか可笑しくなって笑い合った。



 そんな俺達のやり取りを一部始終見ていた店員さんが「すぐにサイズを合わせますっ!」と言って急いで俺達にピッタリのサイズのリングに交換してくれたので、今日は有難くこのリングを買っていく事にした。


 支払いは勿論、ピッタリ半分ずつ出し合った――。




 帰り道、しーちゃんは自分の左手の薬指に嵌められたリングを嬉しそうに眺めていた。



「これで、ずっとたっくんと一緒に居るみたいな気持ちになれるよ」

「うん、本当にね」


 しーちゃんの言葉に、俺も微笑みながら頷いた。

 本当に、ただペアリングを嵌めただけなのにこんなにもしーちゃんとの絆を感じられるのかと、こうしてカタチとして二人だけの繋がりがまた一つ生まれた事がただただ嬉しかった。



「じゃ、時間も丁度良いし何か食べて帰ろうか?」

「うん、じゃあハンバーグがいいっ!」

「はいはい、またハンバーグね」

「あらびきだよ!この前のところでいいよっ!」


 そう言って嬉しそうに腕に抱きついてくるしーちゃんと共に、この間一緒に行ったハンバーグ専門店へと寄り道していく事にした。


 それから大好きなあらびきハンバーグを食べている間も、しーちゃんはずっと嬉しそうに自分の指に嵌められたリングを眺めていたのであった。


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