112話「DVD鑑賞」
「36.8度。本当に一日で熱下がったね」
朝食を終えた俺達は、再び寝室へ戻るとしーちゃんに体温を測って貰った。
すると、昨日の高熱が嘘のようにまさかの一日で平熱まで下がっているのであった。
「おかげさまで、もう平気だよ」
そう言って、もう元気だよと言うように力こぶを作るようなポーズをするしーちゃん。
でも、流石にまだ熱が下がってすぐだから安静にした方が良いだろうという事で、出来れば今日も一日ゆっくり過ごして貰いたかった。
でもこれで、一先ずは大丈夫そうだなと俺は安心した。
これなら俺が居なくても……そう思った時、なんだか急に寂しいような感覚に襲われてしまった。
看病という名目で泊まっているわけだけど、しーちゃんとこうして一緒にいる時間というのは、正直自分にとって幸せ過ぎる時間となっていたのだ。
だから叶うのならば、もっとずっと一緒に居たいと思ってしまう自分がいた。
そしてそれは、しーちゃんも同じ事を考えていたのであろう。
俺の服の裾をちょこんと摘むと、寂しそうな表情を浮かべながら俺の顔を見つめてきた。
「……たっくん、まだ居てくれるよね?」
まだ離れたくないと、上目遣いでそんな事を聞いてくるしーちゃんは反則的な程可愛かった――。
「大丈夫、まだいるよ。今日は夜バイトのシフトが入ってるから、それに間に合う時間なら」
そう俺が返事をすると、俺がまだ居る事が嬉しかったのだろうしーちゃんは、満面の笑みで微笑んでくれた。
そんな、今日はとことん自分の感情に素直なしーちゃんは、言うまでもなく可愛すぎだし、何よりそうしてくれている事がとにかく嬉しかった。
だから俺も、自分の気持ちに素直になる事にした。
思っている事をちゃんと相手に伝える事の大事さを、しーちゃんがこうして教えてくれたから――。
「……それに俺も、もう少ししーちゃんと一緒に居たい、かな」
恥ずかしくて頬を指で掻きながらもそう素直に告げると、しーちゃんは「たっくん!」と嬉しそうに抱きついてきた。
忘れてはならないのは、しーちゃんは未だメイド服姿のままであり、そんな刺激的な服装で正面から抱きついてくるしーちゃんは、もう色々と反則的だったのは言うまでも無い――。
◇
とりあえず今日は外出は控えようという事で、暇を持て余した俺達は並べられたエンジェルガールズのDVDを一緒に見る事にした。
引退ライブのものは号泣しちゃってるから恥ずかしいと言うので、その一つ前のDVDを流す事にした。
こうしてテレビからは、エンジェルガールズのメンバーが元気いっぱい歌って踊る映像が流れ、当然そのセンターには当時まだ現役アイドルだったしおりんことしーちゃんの姿があった。
着ているステージ衣装はどれも本当に可愛くて、正直見ているだけでかなり目の保養になった。
ちなみにしーちゃんは、流石にメイド服姿でずっと居るのもあれなので、今は俺と同じ上下グレーのスウェットに着替えている。
テレビの向こうではアイドル衣装で踊るスーパーアイドルの美少女が、今は隣で同じスウェットを着てお腹にはクッションを抱えながら、俺の肩に頭を預けてきているのであった。
そんな、俺の前でだけしーちゃんは気を抜いた一面を見せてくれているというのが、ちょっとした優越感も感じられて嬉しかった。
「あ、ここ実はわたし転びそうになったんだよね」
「この時あかりんが『やばい楽屋にあったピスタチオ食べ過ぎて吐きそう』って真顔で言ってきて笑い堪えるの必死だったよ」
「またみやみや歌うのサボって会場にマイク向けてるし」
と、しーちゃんから語られる裏エピソードと共に見るライブ鑑賞は、本当に最後まで楽しめた。
そしてDVDの最後には、特典としてメンバーの座談会の映像が付録されていた。
「あ、これは」
すると、すぐさましーちゃんが恥ずかしそうにDVDを止めようとしてきたので、絶対何かあるなと思った俺は、DVDのリモコンをしーちゃんに取られるより先に取り上げた。
「あっ!もう、たっくんお願い返して!」
「絶対何かあるじゃん、そんなに見られて不味いものなの?」
「そ、それは……あうぅ……」
ちょっと意地悪をする俺に、しーちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら下を俯いてしまった。
あーこれはやっぱり絶対何かあるなと思っていると、
「メンバーに質問!ズバリ!好きな異性の理想のタイプとは!?」
そんな、彼氏である俺としては聞き捨てならない質問がテレビから聞こえてきたのであった――。
◇
「わたし面白い人がいいー!」
「わ、わたしはその、優しい人かなぁ」
「そうね、頼りになる人がいいわね」
めぐみん、ちぃちぃ、みやみやがそれぞれ好きなタイプについて答える。
その回答に対して、司会のお笑い芸人さんがリアクションして話が広がっていた。
そして、次はリーダーであるあかりんの番となった。
「そうですね、わたしはしっかりと自分を持っている人に好感を持てますね。いざという時、ちゃんと自分の意志で行動が出来る人っていいなと思います」
あかりんは、流石リーダーと言った感じで大人な意見を語った。
いざという時ちゃんと行動出来るか……うん、本当にそうだなと思った。
俺自身、昨日はしーちゃんの事を心配をして形振り構わずあかりんにまで連絡をしたおかげで、高熱を出しているしーちゃんの看病をする事が出来たわけで、優柔不断ではなくちゃんと決断して行動する事の大事さを身をもって味わったばかりだから――。
こうして、あかりんの理想のタイプが語られた事で、最後はいよいよセンターであるしおりんの番になった。
「お願い止めてよぉー」
「ここまで見て、しーちゃんだけ見ないのなんて拷問だよ」
そんな、やっぱり恥ずかしがるしーちゃんの肩を、俺は抱き寄せるとがっちりホールドした。
「じゃ、最後にしおりん!ズバリ、好きな異性の理想のタイプとは!?」
「えーっと、そうですね……ちゃんとわたしの事を見つけてくれて、それから一緒に色んな事を経験させてくれる人、ですかね。あと、笑顔が可愛い人がいいなって思います……」
テレビの向こうで、そう恥ずかしそうに答えるしおりん。
そんな他のメンバーの回答と違い、何やら具体的に語られたその回答に司会のお笑い芸人さんも気が付く。
「えー、なんかしおりんだけやけに具体的じゃないですかぁ?実際そういう人がいたりして?」
「え!?いや、そういう訳じゃないです!前に漫画で読んで、あーこういうのいいなって思って!」
「なる程漫画ね!そんな恋に恋しちゃうしおりんは今日も可愛いって事で、次の質問いきますかー!」
こうして、理想のタイプというトークテーマは終わり、座談会は次のトークテーマへと移っていた。
「……しーちゃん、今のってもしかして……」
「……そうだよ、全部たっくんの事だよ。もう、だから嫌だったのにぃ……」
そう言って、抱えていたクッションに顔を埋めて恥ずかしがるしーちゃんは、やっぱりめちゃくちゃ可愛かった――。
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