103話「お揃いがいい」
下校時間になった。
今日の授業中、俺はしーちゃんにどんなプレゼントを送ればいいかをずっと考えていた。
やっぱり身につけれるものがいいよなと思いながらも、もうネックレスもあげてるしどうしたものかなと、結局未だに答えを見つけられてはいなかった。
「たっくん、欲しいもの決まった?」
帰り道、隣を歩くしーちゃんが少し伺うような感じで聞いてきた。
しかし、俺はしーちゃんに何を買ったらいいかばかり考えていて、そういえば自分は何が欲しいかなんて全く考えていなかった事に今更ながら気が付いた。
相手の事ばかり考えてしまい、自分の事を全く考えていなかったのだ。
だがこれも、自分の事を考える事が相手の為になるのだから失敗だった。
「ごめん、まだ決められてない。しーちゃんは、どう?」
俺は素直に謝罪しながら、しーちゃんはどうか聞いてみた。
しーちゃんが決めてくれたら、ずるい考え方だけど俺はそれにぶら下がる事も出来るかなと考えて――。
「――ううん、ごめん。わたしもまだかな」
しかし、返ってきた答えは、しーちゃんもまだ決めきれていないとの事だった。
「――ごめん、たっくんの欲しいものばっかり考えちゃって、自分の欲しいもの考えれてなかったよ」
そして、そう恥ずかしそうにカミングアウトするしーちゃんに俺は、本当にとことん俺達は似た者同士だなと思って思わず笑ってしまった。
そんな突然笑い出した俺を、しーちゃんはなんで笑ってるのか分からないといった様子で不思議そうに見つめてきた。
「ごめん、俺も全く同じ事考えてたからさ。お互いがお互いの事ばっかり考えて、自分の事考えてなかったんだなって」
俺が笑いながらそう説明すると、しーちゃんも自分達が全く同じことを考えていた事が可笑しかったのか、一緒に笑ってくれた。
「――じゃあ、さ。同じもの買わない?」
「同じもの?」
「そう、その……例えばペアリング、とか……」
頬を赤く染め指をもじもじと絡ませながら、しーちゃんは恥ずかしそうに上目遣いでそう提案してきた。
もう、お互いの誕生日プレゼントに悩み合っている事は言わなくても分かっているため、だったらペアリングを二人で買おうと言うのだ。
正直、そういう物は男の自分が二人分買って渡したいという気持ちがあるのだが、これまで恥ずかしさもあってそれをしてこなかった俺が悪いから、そんなエゴをここで持ち出すわけにはいかなかった。
「うん、その、しーちゃんがそれでいいなら――」
「良い!!良いに決まってるよ!!たっくんとお揃いのアクセサリー欲しいもんっ!!」
俺が恥ずかしさを誤魔化しながらそう答えると、しーちゃんは食い気味にそれで良いと言ってくれた。
「そっか、じゃあ、うん……週末、一緒に買いに行こうか」
「うん!やった!!たっくん大好きっ!!」
そう言って、嬉しそうに俺の腕にしがみ付いてくるしーちゃん。
こうして俺達は、お互いの誕生日プレゼントを買うため、週末一緒に出掛ける約束をしたのであった――。
◇
そして、土曜日がやってきた。
俺はしーちゃんと待ち合わせをしているいつもの駅前のベンチへと向かった。
すると、今日は珍しくもしーちゃんの姿はまだ見当たらなかった。
まだ約束の時間の30分前のため、早く着いたは着いたのだが、こんな事今までにも数える程しかなかったから、まだ遅刻していないのに遅刻しているように俺はしーちゃんの事が少し心配になってしまった。
――それから、約束の時間がやってきた。
しかし、待ち合わせ場所には未だしーちゃんの姿は現れなかった。
まだ約束の時間丁度なのだが、いつもと違う事に流石に心配になった俺は、とりあえずしーちゃんにLimeを送ってみる事にした。
『待ち合わせ場所で待ってるよ』
よし、送信っと。
――しかし、それから30分経ってもそのLimeに既読は付かなかった。
これは絶対に何かあったと思い、俺は今度は通話をかけてみる事にした。
――しかし、しーちゃんは通話にも出なかった。
いよいよ可笑しいと思った俺は、気が付いたら歩き出していた。
もしかしたら、ここへ来る途中何かあったんじゃないかと思った俺は、いつもしーちゃんがやってくる方向へ向かってとりあえず歩き出していた――。
だが、本当に情けない話なのだが、俺はまだしーちゃんの家がどこにあるのかも知らなかったのだ――。
付き合ってはいるものの、一人暮らしをする女の子の住所を聞くというのは何だか気が引けて、今までなし崩し的に聞いて来なかったへたれな自分に心底嫌気がさした。
しーちゃんは一人暮らしをしているんだから、もししーちゃんに何かがあった時のためにも家ぐらい彼氏としてちゃんと聞いておくべきだったのだ。
こうして、問題が起きてから初めて焦っている自分に、本当に嫌気がさした。
――もっとちゃんとしろよ!俺!!
だが、今は自分を責めている場合では無い。
いつもは自分より先に現れ、そしていつもすぐに反応してくれていたしーちゃんからの反応が全く無いのだ。
仮にも、しーちゃんは元でも売れっ子のアイドルなのだ、もしかしたら事件とか何かに巻き込まれている可能性だってあるのだ。
もしそうなら、一分一秒を争う事態かもしれない――。
そう思った俺は、スマホを手にしてある人へ電話をかけた。
「もしもし、どうしたの?」
「あかりん!ごめん!しーちゃんの家の住所教えて貰っていいかな!」
俺は以前しーちゃんの家に遊びに行っていたあかりんに、後先考えずに電話をかけたのであった――。
◇
「話は分かったわ。とりあえずたっくん、落ち着いて。これからLimeで住所送るから、様子見に行ってあげて」
「わ、分かった!ありがとう!」
あかりんに事情を説明すると、慌てる俺とは正反対に冷静なあかりんは、そう言って通話を終えるとLimeで住所を送ってくれた。
俺はすぐに地図アプリでその住所の場所を確認すると、幸いそこは駅からすぐ近くにあるタワーマンションだった。
俺は急いでそのマンションへ向かい、中へと入った。
――しかし、タワーマンションなだけありセキュリティーがしっかりしているため、二つ目の扉を開ける事が出来ず、俺はそれ以上中に入る事が出来なかった。
しかし、あかりんから送られてきた住所をよく見ると、そこには1003号室と記されていた。
――10階の3号室!!
その事に気が付いた俺は、すぐにその部屋番号のダイヤルをかけた。
しーちゃん!!どうか出てくれっ!!
俺はそう祈りながら、スピーカーの向こうから流れる保留音が途切れる事を待った――。
「……はい」
すると、スピーカーの向こうから弱弱しい女性の声が聞こえてきた。
「しーちゃん!?」
「……え、あ、たっくん?」
慌ててその声に俺が呼びかけると、今にも途切れてしまいそうな弱弱しい声で俺の名前を呼んでくれる声がした。
――しーちゃんで間違いない。
「そうだよ!しーちゃん!何かあった!?とりあえず今から行くから、扉開けてくれる!?」
モニターに俺だと分かるように顔を写し込みながら、俺はそう懇願した。
「うん……」
そして、俺の願いが届いたのか、スピーカーの向こうから小さくそう頷く返事が聞こえてきたのと同時に、入り口が開かれた。
とりあえずしーちゃんが家に居てくれた事に安堵しつつも、明らかに様子の可笑しかったしーちゃんを心配した俺は、慌てて1003号室へと向かい部屋の扉を開けた。
――するとそこには、玄関で力尽きたように倒れているしーちゃんの姿があった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます