102話「リサーチ」
学校から帰宅した俺は、部屋の壁にかけられたカレンダーへ目を向ける。
今日は9月30日の水曜日。
つまりは、早いもので今日で9月も終わろうとしているのであった。
明日からは10月。
それはつまり――いよいよしーちゃんの誕生月がやってくるのであった。
LimeのIDにもあるように、しーちゃんの誕生日は10月12日の月曜日だ。
もうあと半月もしないうちにしーちゃんの誕生日がやってくるため、俺は何か用意しないとだよなという気持ちはあるのだが、未だに何を用意したら良いのか分からないでいた。
思えば俺は、しーちゃんの趣味とか行きたい所とか、そういったしーちゃんに関する情報をあまり持っていない事に気付いてしまったのだ。
誕生日プレゼントの事を考え出して初めてその事に気付くなんて、全くもって情けない話なのだが、だからと言ってこのままでいいはずは無い。
だから俺は、まずはしーちゃんの事をもっと知るところから始める事にした。
――ピコンッ
そこへ丁度、しーちゃんからのLimeが届く。
『たっくんただいまー!お買い物済ませて、今部屋で寝転がってるよー』
それは何気ない報告だったのだが、付き合って以降こうした他愛ないLimeを送り合うのが俺達の日課になっていた。
会っていない時間も、こうしてお互いに今何しているのかの情報を共有する事で、ずっと近くに感じられるのだ。
だから正直、俺はこのやり取りのおかげでかなり安心出来ていたりする。
自分はしーちゃんの彼氏だと胸を張る気持ちは当然あるのだが、それでも相手はあのしーちゃんなのだ、もし俺なんかよりもっと良い男が現れたら……なんてネガティブな考えをしようと思ったらいくらでも出来てしまうというのが正直なところだった。
だから俺は、そんなしーちゃんの相手に相応しい男になる努力をするしかない――そう思ってきたからだろうか、俺は普段から受け身な事が多くて、思えばしーちゃんの事をあまり知らないままだったという本末転倒な事態に陥っている事にようやく気が付いたのである。
その事にようやく気が付いた俺は、自分からしーちゃんにちょっと質問してみる事にした。
しかし、一応誕生日を祝おうとしている事はまだ悟られない方がいいだろうから、バレないように細心の注意を払いながら。
『おかえりしーちゃん!そういえば、しーちゃんは家に居る間何してるの?』
よし、送信っと。
俺はまず、しーちゃんは一人の時何をしているのか聞いてみる事にした。
そこから得られる情報により、しーちゃんの趣味とか何かしらのヒントが得られるかもしれないと考えて。
『んー、たっくんとLimeしたり、勉強したり、本読んだり、あとはたっくんとLimeしてるよ♪』
俺とのLimeの圧が凄い……。
しかし、早速ヒントが得られた。
本か……しーちゃんはどんな本を読んでいるんだろうか。聞いてみよう。
『俺もしーちゃんとのLimeは凄く楽しいよ!本ってどんな本読んでるの?』
二度も送ってきたLimeの件にもちゃんと反応しつつ、俺は何の本を読んでるのか質問してみる事にした。
『普通の本だよ!』
しかし、いつもはすぐに返事が返ってくるのだが、何故か今回は少し時間を置いて返事が返ってきた。
そして、時間をかけた割にはあまりにもシンプルすぎるその味気ない返事に、俺は少し戸惑ってしまった。
――普通の本ってなんだ?
せっかくヒントが得られたと思ったのに、俺は余計訳の分からない状況に陥ってしまった。
こうして俺は、結局今日もしーちゃんの欲しいもののヒントが分からないまま一日を終えたのであった――。
◇
次の日の朝、俺はいつもの駅前の待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ場所へ着くと、そこには毎度の事ながら先にしーちゃんの姿があった。
「あ、おはようたっくん!」
そして、天使のような笑顔で微笑むしーちゃんに、俺は朝から幸せな気持ちに包まれるのであった。
「おはようしーちゃん、今日も可愛いね」
「え?う、うん、ありがと……えへへ」
嬉しそうに微笑むしーちゃんは、やっぱり天使だった。
こうして合流した俺達は、手を繋ぎながら学校へ向かって歩きつつ、いつも通りの他愛ない話をする。
「今日は体育あるねー」
「そうだね、こっちはサッカーだけど、女子はなんだっけ?」
「体育館でバスケだよー、あんまり得意じゃないんだよね。山本くんみたいに上手に出来たらいいんだけど」
そう言いながら、「シュッ!」とシュートの仕草をするしーちゃん。
その何気ない仕草の一つ一つがとにかく可愛かった。
しかし、俺はしーちゃんの欲しいものとかを聞き出したいのに、話を振るタイミングが分からなくて中々上手く話しを切り出す事が出来ないでいた。
「あの、さ……たっくんは、その、欲しい物とか、ある?」
「え、俺!?」
俺が聞こうと思っていた事を、何故か逆にしーちゃんから聞かれてしまった俺は思わず驚いてしまった。
でもとりあえず、ここは答えるべきだよな。
俺の欲しい物、か……やばい、全然思い浮かばない。
自分で言うのもなんだが、俺はこれまでの人生、本当にこれと言って趣味という趣味が無く育ってきた人間なのである。
だから部屋にはほとんど物もないし、最近増えたものと言えばそれこそエンジェルガールズ関連のグッズぐらいだった。
――ん?じゃあ、俺の今の趣味はエンジェルガールズ?
いやいや、じゃあしーちゃんに「エンジェルガールズのグッズかな」なんて言えるわけが無かった。
と、俺が答えに困っていると、しーちゃんもそんな俺に気が付いたのだろう。
「じゃ、欲しい物考えておいてね?」
と、再び俺の手を握りながら楽しそうに微笑んでくれたのであった。
そんな、やっぱりしーちゃんにいつも引っ張って貰ってばかりの自分が情けなかった。
だから俺も、意を決してしーちゃんに聞いてみる事にした。
「ごめん、そうするよ。……その、さ、しーちゃんは欲しいものとか、何かあるかな?」
上手く言えなかったけど、こうして俺はようやくしーちゃんに欲しいものを聞く事が出来た。
聞かれたしーちゃんはというと、隣で目を丸くして驚いていた。
しーちゃんはしーちゃんで、まさか自分が同じ事を聞かれるなんて思ってもみなかったのだろう。
俺と同じように、しーちゃんはコロコロと表情を変えながら、なんて答えていいのか分からない様子だった。
本当俺達、似た者だよなぁと思いながら、俺はそんなしーちゃんに向かって優しく微笑みかける。
「じゃ、欲しいもの考えておいて?」
そんな俺の言葉に、しーちゃんは一回きょとんとした表情を浮かべると、それから二人で吹き出すように一緒に笑い合った。
こうして俺達は、お互いに欲しいものを考えておく約束をしながら、今日も一緒に登校したのであった。
俺の誕生日は10月15日――そう、実はしーちゃんの誕生日の3日後には、俺の誕生日も控えているのであった。
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