98話「隣に」※三章完結

 しーちゃんからの突然の告白。


 それは誰も予想はしなかったものであり、そしてこれにより当然学校中の人に俺達の関係は知れ渡る事となった。


 しかしそれも、全てしーちゃんの決心によるものであり、本当の意味でエンジェルガールズのしおりんではなく、三枝紫音という一人の女の子でいる事を決めた瞬間でもあった。


 そんなしーちゃんの見せた覚悟については、あかりん達も理解したのだろう。

 ゴールを見失っている今の空気を変えるように、あかりんが口を開いた。



「ふぅ、このままなし崩し的に復帰してくれないかなとかも正直狙ってたんだけどね、しおりんの気持ちはよく分かったわ。全く、文化祭でアイドルが告白するなんて聞いたことないわよ……ううん、違うわね。しおりんはもうアイドルじゃなくて、一人の女の子なのよね」



 呆れたようにそう話すあかりんの顔を見て、しーちゃんはばつが悪そうに頷く。



「ごめんねあかりん、それからみんなも。わたしは、わたしの道を行くよ」


 申し訳なさそうにしながらも、はっきりとそう告げたしーちゃん。

 その様子に、あかりんも他のメンバーも、笑って応えてくれていた。



「ま、いいわ。続きは裏で聞かせてもらうわよ」


 そういうと、あかりんは会場の方を向いた。



「ということで、これで本当のお終いです!今日は素敵な文化祭に呼んで頂き、本当にありがとうございました!わたし達も楽しかったです!今後とも、エンジェルガールズ、それから――紫音のこと、どうかよろしくお願いします!」


 そう言ってあかりんが深く頭を下げると、それに合わせるように他のメンバー、そしてしーちゃんも頭を下げた。


 そんな彼女達に向かって、会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。



 こうして、鳴り止まない拍手と共に舞台からエンジェルガールズとしーちゃんが去って行った事で、今度こそ俺達の文化祭は終了となったのであった。




 ◇



 俺は孝之と清水さんと共に教室へ戻ると、こちらに気が付いたクラスのみんなが俺達の元へと集まってきた。


 そして、



「全然知らなかったけど、おめでとう!」

「いや、もう弁当持ってきてた時点で薄々分かってたろ」

「それな!三枝さん一条にだけは態度違ったもんな!」

「何はともあれ、おめでとうだろ!」


 クラスのみんなが、口々に祝福を述べてくれた。

 そんな様子に、隣の孝之も俺の肩をポンと叩き「今日のヒーローはお前だ、卓也」と悪戯っぽくニッコリと笑った。



「おめでとう、卓也」

「やったじゃん一条」


 遅れて俺達の元へとやって来た健吾、そして三木谷さんも、俺達の事を祝福してくれた。


 この二人とは、今回の文化祭をキッカケに仲良くなれた、今では大事なクラスメイトであり友達だ。

 色々あったけど、今ではこうして祝福してくれる健吾に、思い返せば色々と世話になりっぱなしな三木谷さん。


 そんな二人に対して、俺はちょっと小恥ずかしくなりながらも「ありがとう」と一言だけ伝えた。


 でも、そんな俺の足らなすぎる言葉にも、二人とも微笑んで応えてくれた。



 何はともあれ、こうして色々あった文化祭も終える事が出来た。


 準備を含めて本当に色々あったけど、そのどれもがきっと良い想い出になるだろうと思いながら、俺は教室のあと片付けをしながらしーちゃんの帰りを待った。



 今はただ、少しでも早くしーちゃんに会いたかった――




 ◇



 教室のあと片付けがほとんど終わったその頃、教室の扉が開かれる音がした。


 その音に反応して、教室にいるみんなが一斉に振り返ると、そこにはまだメイド服姿のままのしーちゃんの姿があった。



「あ、その、あと片付け手伝えなくてごめんなさい……」


 体育館での出来事が恥ずかしいのか、少し頬を染めながらそう謝るしーちゃん。


 しかし、その仕草に今の服装、それからみんながずっと帰りを待っていた今日の主役が戻ってきた事に、みんな一斉に大騒ぎとなった。



「片付けなんかいいさ、三枝さんのおかげで文化祭大繁盛だったんだしさ!」

「そうよ、文句言う人いたらわたしが許さないからっ!」

「ってか、やっぱり羨ましいなぁちくしょー!」


 俺の時と同じように、クラスのみんながしーちゃんの元に集まり口々に話しかける。


 そんなクラスメイト達に、しーちゃんはいつものアイドルモードで微笑んで対応する。

 しかし、今日は体育館での事もあり、それでも流石に恥ずかしさが感じられた。


 そして、ふと俺はしーちゃんと目が合った。

 こうして一度合った視線は、お互い外れる事は無かった。


 そんな様子に、クラスのみんなも空気を読むようにすーっと引いてくれた事で、教室内には俺としーちゃんの間を妨げるものは何も無くなっていた。



「あ、その、たっくん……」

「しーちゃん……」


 気恥ずかしさを感じながら、お互いの名前を呼び合う。

 お互いに、その頬は赤く染まっている。


 そして、しーちゃんはこちらに向かってゆっくりと歩き出すと、俺の目の前で立ち止まった。



「その……あ、ありがとう……」

「いや、こちらこそ……」


 ぎこちなく言葉を交わす俺達。

 周りではクラスのみんなが見ているから、余計にやり辛さを感じてしまう。


 でも、ここでもう一度みんなの前でしっかりと俺達の関係をはっきりさせる事こそ、しーちゃんの望んだ形になるんだ。



 そう思った俺は、もう成るようになれとしーちゃんの手を取った。




「これからも、その……こんな俺だけど、宜しくお願いします」




 ぎゅっと手を握りながらそう伝えると、しーちゃんは俺の握る手をじっと見つめながら、空いてる逆の手で俺の手を包み込むように優しく握ってきた。



 そして、しーちゃんは顔を上げると、俺の顔を真っすぐ見つめながらその口を開いた。






「うん、こちらこそよろしくお願いします。……ずっとあなたの隣に、居させて下さいね」






 天使のように微笑むその姿に、俺は思わず見惚れながら固まってしまった――。






「おーい!もうやめろやめろー!」

「甘い……甘すぎる……というか羨ましすぎる……」

「やめて、わたし達のライフはもうゼロよ!」

「え、じゃあ俺と付き合っちゃう?」

「いや、それは無理」


 黙って見守ってくれていたクラスのみんなが、もう限界だと耐えかねた様子で茶化すように話しかけてきた。


 でもそのおかげで、俺達のせいで何とも言えない空気になってしまっていた教室内の緊張が解けた。


 近くでは、孝之や健吾、それから清水さんと三木谷さんも、やれやれと俺達の事を見ながら微笑んでいた。


 これでついに、自他共に認めるバカップルになっちゃったなとか思いながら、俺はもう一度しーちゃんと見つめ合う。



「これでもう、みんなにバレちゃったね」

「うん、でももう大丈夫だよ。それよりもわたしは、もっとたっくんと一緒に居たいから」



 そっかと、微笑み合う俺達。

 そしてしーちゃんは、さっそく嬉しそうに俺の隣にピッタリとくっついてきた。



 そんな俺達を見たクラスの男子達が「ちくしょー!俺のしおりんがぁー!」とおどけて発狂しながらみんなを笑わせてくれた事で、最後はクラスみんなで笑いながら文化祭を終える事が出来たのであった。


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