96話「フルメンバー」
「わたし文化祭って初めてきたよ!」
「わ、わたしもっ!」
「お祭りって感じね!」
舞台上では、エンジェルガールズのフリートークが始まっていた。
めぐみん、ちぃちぃ、みやみやがそれぞれ、文化祭に対する感想を言い合う。
そしてそんな様子を、舞台の脇からテレビ局のカメラマンが彼女達を撮影していた。
テレビカメラには、エンジェルガールズの冠番組である『エンジェルすぎてすみません!』の番組ロゴが貼られており、それがその番組のための撮影である事が分かった。
「てことで、みんな元気ぃー?文化祭楽しんでますかぁー?」
あかりんのその煽りに、会場から口々に声を上げる。
もう軽くパニック状態ではあるのだが、高校の文化祭という事もあり流石に変な行動を取るような人はおらず、トラブルなどが起きそうな雰囲気は無かった。
みんな純粋に、突然現れた生のエンジェルガールズを前に興奮しているだけといった感じだった。
「急に来ちゃってごめんなさい!わたし達は今『エンジェルすぎてすみません!』って番組の企画で来てるんだけど、みんなは知ってるかなぁ?」
そんなあかりんの質問に、会場からは「知ってるよー!」という声が沸き起こる。
その様子に、あかりんは満足そうにうんうんと頷いた。
「みんなありがとう!それで今日は、番組のお便り企画に文化祭実行委員の山内さんから遊びに来て欲しいとお便り頂きまして、こうしてサプライズで遊びに来ちゃいました!」
あかりんがそう説明すると、会場からはまた歓声が沸き起こる。
そしてその一言に合わせて、舞台の脇から山内さん達文化祭実行委員のみんなが恥ずかしそうに出てきた。
それから、エンジェルガールズと山内さん達のトークが行われ、テレビで見るのと同じようにおどけるエンジェルガールズに会場からは笑いが起きていた。
しかし、あかりんは今日ここにいるのは奥の手を使ったからと言っていたんだけど、山内さんがお便りを出したっていうのはどういう事だろうかと思ったのだが、まぁその辺は全部あとで聞いたらいいかと、俺はたった今目の前で行われているテレビ番組の収録を興味深く眺めていた。
そして、サプライズは大成功という形でフリートークが終わったところで、最後にもう一曲歌ってくれる流れになり、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
そのもう一曲とは、勿論エンジェルガールズの代表曲『start』だった。
エンジェルガールズの中でも一番の有名曲なため、イントロが流れ出した瞬間会場の熱気は一気に最高潮に達した。
この曲は俺も大好きな曲だから、また生で聞ける事が嬉しくて、それからちょっと感動した。
舞台上で、元気よく歌って踊るエンジェルガールズのみんなは本当に輝いていて、最高のパフォーマンスを見せてくれていた。
こうして今日の文化祭は終わろうとしているけれど、思えば準備も含め本当に良い文化祭だったよなと、俺はちょっとだけ涙腺に来るものを感じてしまった。
今歌われている『start』という曲は、頑張っている人達へ向けられた応援歌であり、そんな歌詞が今の無事文化祭をやり遂げた自分達に向けられているように感じられ、俺だけでなくここへ集まったみんなは、そんなエンジェルガールズの歌声に聞き入っていた。
そして、エンジェルガールズの歌が終わると同時に、会場からは拍手が沸き起こった。
それは、エンジェルガールズに向けられると同時に、自分達にも向けられていた。
口々に「ありがとう!」という声があちこちから聞こえて来て、無事にやり遂げたお互いを称え合うように声が交わされていた。
そんな、何とも言えない一体感が体育館に生まれたところで、舞台上のあかりんが微笑みながら口を開いた。
「今日は、こんなに素敵な文化祭に呼んでくれてありがとう!じゃねっ!」
そう言って、舞台上のエンジェルガールズは手を振りながら舞台袖に下がって行った――
――はずだった。
文化祭もこれで終わりかと思いながら、俺はエンジェルガールズが去って行った舞台上をぼーっと眺めていると、何故か再びあかりん達エンジェルガールズが戻ってきたのであった。
そして、マイクを持ったあかりんはニヤリと微笑みながら、再びマイク越しに口を開く。
「と!いう事で、『エンジェルすぎてすみません!』の収録
テレビの収録はさっきので終了とし、再び戻ってきたあかりんは仕切り直しだと言うように俺の隣にいるしーちゃんに向かって話を振った。
その光景は、まるでDDGのライブの時のデジャブだった――
そんな突然戻ってきたエンジェルガールズに驚きながらも、発せられた「しおりん」という言葉に反応したみんなが、一斉にこちらに目を向けてくる。
「やっぱりこうなるかぁー」
そんな様子に、しーちゃんは諦めたように笑っていた。
あかりんは、舞台上でまた一緒に歌おうと誘ってきているのだろう。
しかしこれでは、しーちゃんの逃げ道なんて無いように思われた俺は、心配しつつ声をかける。
「ど、どうする?大丈夫?」
「うん、ありがとう。でも、わたしも丁度言わないといけない事があるから、行ってくるね!たっくんはその、これからわたしが勝手な事言うかもしれないけど、ここで聞いてて欲しいな」
言わないといけない事って何だろうと思ったけど、俺はみんなから注目されてしまっている事もあり「分かったよ」とだけ短く返事をして頷いた。
そんな俺の返事を聞いたしーちゃんは、ニコリと微笑むと「じゃ、行ってくるね」とそのまま檀上へ向かって歩き出した。
その様子に、体育館内は一斉にどよめく。
しおりんの復活を期待するように、会場のボルテージは一気に最高潮に達した。
これからまたフルメンバーのエンジェルガールズが復活しようとしているのだから、無理も無かった。
でも、さっきのしーちゃんの様子からもしかして――そんな考えが、俺の中でよぎった。
もし思っている通りだとしたら、俺はこれからどうするのが正解なんだろう――
そう考えてはみたものの、結局答えは出なかった。
だから俺は、しーちゃんがこれから何を言おうとしているのか気になりつつも、今はただ言われた通り舞台上のエンジェルガールズの事を見守る事にした。
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