90話「接客とアイドル」
午前十時を回り、いよいよ文化祭がスタートした。
既にうちのクラスがメイド喫茶をする事は学校中に知れ渡っているため、オープン前から長蛇の列が出来ていた。
文化祭が始まる前から並ぶ彼らを見て、果たして自分達のクラスの出し物とかは大丈夫なんだろうかとも思ったが、それでもうちのクラス目当てに並んでくれているのならこっちとしては御の字だった。
そして当然、開店と同時にすぐに満席になる。
彼らの目的は当然、エンジェルガールズだったしーちゃんのメイドコスチュームであろう。
だが、このクラスにはそれ以外にも清水さんや三木谷さんという美少女を筆頭に、他にもメイド姿の女子達がローテーションで接客しているため、全員あちこちに視線を忙しく彷徨わせていた。
「それじゃあ行きますよー♪美味しくなぁーれ♪萌え萌えキュン♪」
オムライスを注文したお客様に、手でハートマークを作りながら完璧な接客をこなすしーちゃん。
そんな憧れのアイドルに、萌え萌えキュンをされた男子達はというと、その破壊力に完全にノックアウトされてしまっていた。
正直、彼氏である自分がされても同じリアクションをしているだろうから、こればっかりは仕方ないなとその様子を生暖かい目で見守った。
「え、えーっと、そ、それじゃ……美味しくなーれ、萌え萌え…キュン」
その隣のテーブルでは、清水さんがとても恥ずかしそうに萌え萌えキュンをしていた。
そんな、しーちゃんとは全然異なる萌え萌えキュンだが、清水さんの方が劣っているかと言われれば決してそういう訳でもなく、接客された男子達はとても嬉しそうにハスハスしていた。
こうして、女子達のメイド効果は本当に抜群で、開始から暫く経つが全然客の流れが途絶える様子は無かった。
そして当然、女子生徒のお客様もといお嬢様もいらっしゃるため、そっちは俺と健吾で丁寧に接客をしているわけだが、こちらも結構ウケが良いようで俺はほっとしていた。
客観的に見て中々ナルシズムが強い振舞いでの接客なのだが、お店の雰囲気も相まって来てくれた女子達もといお嬢様達もノリノリになってくれているおかげで助かった。
そんな中、厨房へ注文を伝えに行く際偶然しーちゃんと鉢合わせたのだが、嬉しそうにしてくれるのかなと思いきやちょっと不満そうな顔を向けてきたのであった。
恐らくそれは、接客する俺を見て不満がっているのだろと思っていると、
「(あとでわたしにもやってよね!)」
と、案の定しーちゃんは耳元でそう囁いてきた。
だから俺は、そんなしーちゃんに向かって「(じゃあ俺にも、あとで萌え萌えキュンしてよね)」と笑いながら囁き返しておいた。
◇
早いもので、開店から3時間が経過した。
接客担当も厨房担当も勝手が分かってきた事もあり、スムーズにお店が回転してきたため若干の余裕が生まれてきた。
そのため、健吾と交代で休憩に入った俺は、そういえばと思ってポケットに入れたスマホを確認した。
するとそこには、案の定あかりんからのLimeが届いていた。
『あと30分後ぐらいに行くね♪』
マジかと思いながら、そのLimeが送られてきた時間を確認すると、それは丁度今から30分前に送られてきたものであった。
その事に気が付いた俺は、休んでる場合じゃねぇと慌てて持ち場に戻った。
「あ、たっくん発見~!」
そんな俺の背後から、陽気に声をかけてくる女性が一人――あかりんだった。
そしてそこには、あかりんだけではなく、同じくエンジェルガールズであるめぐみん、ちぃちぃ、みやみやの姿もあった。
全員帽子を被りマスクをして変装をしているが、声をかけてきたのがあかりんだと分かっている俺にはすぐにそれが誰なのか分かった。
「あ、この人が噂のたっくん?やっほー!」
手を挙げながら挨拶をするめぐみん。
「あ、は、はじめまして!」
ちょっとキョドキョドしながら頭を下げるちぃちぃ。
「ふーん、彼がねぇ」
そして最後に、腕を組みながら俺の事を品定めするように上から下まで見てくるみやみや。
初対面だけど、三者三葉の反応を見せるトップアイドル3人を前に、俺はどうしていいか分からず、とりあえずハハハと笑う事しか出来なかった。
そんなエンジェルガールズの登場だが、変装している事もありクラスのみんなはまだ気が付いていない様子だったが、しーちゃんだけはすぐに気が付いたようで「ウソ……」ととても驚いていた。
「あー!しおりーん!会いたかったよー!」
「しおりぃぃぃん!」
「久しぶりねしおりん」
そんなしおりんの元へ、めぐみん、ちぃちぃ、みやみやはすすに駆け寄ると、思い思い久々の再会を喜んでいた。
そして、そんな光景を目にしたクラスのみんな、そしてここにいるお客さんも全員、それがエンジェルガールズの面々だと気が付き、
「「「えー!?」」」
と一斉に声をあげて驚いていた。
そんな様子に、あかりんだけは後ろであちゃーと頭を押さえていたのであった。
◇
「え、なんでみんなここに居るの?」
「えへへー、サプライズで来ちゃった」
しーちゃんの質問に、めぐみんがドッキリ大成功と言うように悪戯っぽく答える。
「でも、土曜日だしスケジュール大丈夫だったの?」
「そこはあれよ、あかりんが奥の手使ったのよ」
マスクを外してニヤリと微笑みながら、今度はみやみやが答えた。
そうしてマスクを外したみやみやを前に、居合わせた男子達から「ほ、本物だ……」と思わず声が漏れていた。
今を時めくトップアイドルであるエンジェルガールズの面々は、実際生で見ると確かに全員しーちゃんに負けず劣らずの美少女揃いなのであった。
普段はその見た目で目立っているしーちゃんも、エンジェルガールズの輪の中にいると自然に見えるのだから本当に凄い事だった。
「え、てかこの子超カワイイんですけどっ!」
そんなエンジェルガールズを前に、隣で呆気に取られている清水さんに気が付いためぐみんが、そう言いながら嬉しそうに清水さんに抱きついた。
すると清水さんは、しーちゃんには慣れていても現役アイドルであるめぐみんには当然免疫は無いため、顔を真っ赤にしながら固まってしまっていた。
「さ、お店に迷惑になるし早く注文するわよ」
はいはいと手を叩いたあかりんが、そう言いながら全員席に着くように促した。
その合図に従って、エンジェルガールズのメンバーはテーブル席につくと、興味津々といった様子で置かれたメニュー表へと目を落とした。
「じゃ、全員一緒でいいわよね。しおりーん、全員にオムライスとこの萌え萌えドリンクっての頂戴」
しかし、全員にメニューを選ばせる隙も与えず、遅れた罰よとあかりんが独断で全員分の注文をした。
そんなあかりんに苦笑いしながらも、しーちゃんはメニューを承るとそのまま厨房へと向かった。
全員その様子に釘付けになってしまっていたが、こうして普通に注文される様子を見てお店の方も元通り回転し出した。
そして、清水さんと三木谷さんが手伝いながら全員分のオムライスを運び終えたしーちゃんは、全員のオムライスに対してお絵かきのサービスをしますねとニッコリと微笑んだ。
そして、あかりんには『よっ!ナイスリーダー!』、めぐみんには『元気おバカ』、ちぃちぃには『声だしてこ』、そしてみやみやには『いちばん女の子』と落書きをしたしーちゃんは、全員の爆笑と怒りを等しく買っていた。
そんな、仲間達と悪ふざけをしながら楽しそうに笑っているしーちゃんの姿を見て、何だかいいなぁと見てる俺まで楽しくなってきたのであった。
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